第71回:思い出し笑い「入船亭扇遊の魅力」(&ツルコ)
第71回:入船亭扇遊の魅力
*intoxicate vol.127(2017年4月発行)掲載
このところの落語ブーム、雑誌で特集が組まれたりして、盛り上がりを伝えてます。10年ほど前のブームといわれたときは、クドカン脚本のドラマ「タイガー&ドラゴン」や、朝ドラ「ちりとてちん」のような噺家を主人公にしたドラマなどが続き、そこから興味をもった人たちが寄席に来たり、修行中の若手が中心の深夜寄席に行列ができたりと、落語に注目が集まりました。
今回のブームは、「AERA」3/27号の特集によると、〈二つ目〉という〈真打〉になる前の若手に同世代のファンが増えているんだそうです。記事中の桃月庵白酒さんのコメントで、お芝居やライヴも行く、そのなかの1つとして落語にも来る層が増えたように感じる、とありましたが、渋谷のユーロスペースで毎月行なわれている〈渋谷らくご〉のような会もその後押しをしているのかもしれません。米粒写経のサンキュータツオさんがキュレーター(席亭)を務めるこの落語会は、テーマごとに二つ目からベテラン真打まいま聴きたい噺家たちがセレクトされていて、敷居の高さもなく、落語初めてでも楽しめちゃいます。映画を観に来たら落語もやっていて、ちょっと観てみようかって、こういう出会い、いいですね。コミック『昭和元禄落語心中』がアニメ化されたことも、いいタイミングでした。
そんなブームのなか、年明けに公開された映画『ねぼけ』は、噺家が主人公の作品です。三語郎は、落語に正面から向き合うことをせずに逃げてばかりいる売れない噺家で、それはもう観ていて苦しくなるようなだめっぷり。そんな三語郎に愛想をつかすことなく献身的に寄り添おうとする恋人。ダメ亭主としっかり者の女房というのは落語にもよくあるパターンですよね。
この映画、入船亭扇遊さんが映画初出演というので観に行ったのですが、三語郎の師匠役で、もう予想を越えた素晴らしさ! 塩見三省とか國村隼みたいな渋い魅力の脇役でいけるんじゃないかと。朝ドラとか、オファーがあったりしないかしら?
自暴自棄になっているような弟子を見放すことなく、何も言わずに自分の高座を見せる師匠。そのときの噺が《替り目》なんですね。酔っぱらって帰ってきてまだ飲もうとする亭主に、あきれながらも酒のつまみにとおでんを買いに行ってくれるおかみさん。それに対して、それまで強気だった亭主が、本当は感謝してるんだと手を合わせる、という、いい噺。これが劇中の重要なシーンに。扇遊さんはレパートリーになかったので、作中で演じるために古今亭菊之丞さんから習ったのだそうです。でも、高座ではやらないと言っているそうなので、扇遊さんの《替り目》を聴けるのはこの映画だけ、ということである意味貴重な作品かも。
扇遊最新CDは、昨年リリースの朝日名人会ライヴシリーズでの4作目。師匠・入船亭扇橋から稽古をつけてもらったという《三井の大黒》と《人形買い》の2席を収録。解説によると、扇遊さんが《人形買い》を通しで演じたのは、この朝日名人会の高座で3回めとのことですが、なかなか通しで聴く機会がないので、これはお宝音源ですね。
柳家喜多八さん、瀧川鯉昇さんとの3人で長く続けていた〈落語睦会〉が、残念すぎる喜多八さん逝去により、新たなメンバー2人を迎え、〈一天四海〉に生まれ変わりました。5月に公演がありますので、ぜひ!
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