翻訳は通訳とは似て非なるものなり〜『名作ミステリで学ぶ英文読解』〜【10月英語本チャレンジ3】
今日は昨年早川書房が創設したハヤカワ新書で最初に出てきた本です。早川書房といえば、ミステリなど海外文学作品に強いイメージのある出版社ですね。
『名作ミステリで学ぶ英文読解』のタイトル通り、英米ミステリの名作から英文解釈を学ぼう、というコンセプトの本です。著者は越前敏弥氏、映画化されて大ヒットの『ダ・ヴィンチ・コード』の翻訳や、その他にもいろいろな海外作品の翻訳を手がけていらっしゃる方です。
本書で英文読解のために選ばれた作品は、エラリー・クイーンの『Yの悲劇』『エジプト十字架の秘密』『災厄の町』、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』『パディントン発4時50分』、そしてコナン・ドイルの『恐怖の谷』の6作品となります。あらすじの説明にはじまり、英文とその部分に関する質問、そして解答という感じで進んでいきます。細かい英文の解釈の仕方、そこから導き出される訳など、翻訳者の方のお仕事は本当に丁寧かつ徹底的で素晴らしいと思います。
と通訳者である私がいうと、「え? あなたも同じ翻訳の人でしょ?」と思われるかもしれません。よく「通訳」と「翻訳」を語学エキスパートとして同じもの、と解釈されているのですが、当人からしてみれば全然違います。少なくとも通訳である私の目から見た翻訳者の仕事はもう別物級に違うことに見えます。
通訳は、いわば「リアクション芸人」みたいなもので、その場で瞬間的に出る訳語でその場にいる人が理解できるように瞬間芸を連発するのに対して、翻訳はもっと精緻な作業を伴う「職人芸」のようなもの。私にはそう見えています。後から何度も読み返されることが想定されているので、言葉ひとつ、単語ひとつのディテールに細心の注意を払って最適解へと仕上げるもの、だと思います。通訳は、そのとき自分が持っている武器で戦うしかないんですね。だから最適解がいつも出るとは限らない。というか最適解が出る時の方が少ないかもしれません。特に同時通訳では。
それでも自分史上最高はいつも目指してはいるのですけどね。
本書はそんな翻訳者の職人芸を見ながら、名作ミステリも堪能できる、と一冊で二度おいしい本になっています。ミステリが好きな人、原書で読んでみたいな、と思う人には最適の入門書になるかもしれません。
ちなみにエラリー・クイーン作品については、越前さんが新訳を出されています。私は中学生のときにアガサ・クリスティにどっぷりはまったミステリ好きですが、面白いと評判のエラリー・クイーンについてはあまり読んでいないんですね。ちょっと翻訳が読みづらい上にフォントが好みじゃなくって。なので、越前さんが訳された角川文庫の新訳を読もうと手元には買ってあります。
『名作ミステリで学ぶ英文読解』にあった『ギリシャ棺の秘密』は、『ローマ帽子の秘密』にはじまる、「国名シリーズ」の5作目にあたる作品です。「ローマ帽子」は旧訳でも読んだはずですけどね、もう内容忘れちゃった。
読みたい本が見事に積読です。
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