人はどのように人生で重要な意思決定をしていくのか

※このnoteは学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」さんで実施させていただいている、
人とAIが健全な関係性を築くために、技術と社会の両軸を横断したい」というクラウドファンディングに関するものです。2020年3月16日19時まで、ご支援をお待ちしております!

こんにちは。中尾と申します。
いつも応援していただいている皆さま、ご支援いただいている皆さま、ありがとうございます。

今実施しているクラウドファンディングが残り3日となりました。毎日更新note の3回目は、人はどのように人生で重要な意思決定をしていくのか、についてです。

クラウドファンディングのサイトの中で「AIは今後、人の重要な意思決定の場面にも関わるようになる」と書きました。

ではそもそも人は人生において重要な意思決定をどのように行っているのでしょうか。

人の意思決定には主に心理学的な立場から研究されてきた長い歴史があります。最近では、行動経済学という分野のもと、経済活動との関連で議論されることも多いです。

有名な例としては、アンカリング効果というものがあります。

例えばラーメン屋さんで1000円のラーメンを売りたいと思ったら、1000円を一番高い価格にするのでなく、1500円、1000円、800円のような商品を設定した方がいい、というような話です。

これは、人間はより大きな金額を見ると、普段は割高だなと思う価格でもそんなに大きな価格だと思わない、という性質があるからです。この性質を利用してわざと大きな数を見せてより大きな選択肢を選ばせやすくするというのがアンカリング効果です [1]。

これ以外にも、人は様々な要因を絡めながら日々の意思決定を行っています。

では、(ラーメンの値段のような)日常的な意思決定ではなくて、人生において重要な意思決定 ― 例えば就職や進学など ― を人はどのように進めているのでしょうか。

基本的なこととして、人は重大な意思決定を行う際にまず自分を顧みます。これは、自分は運動ができる、勉強ができる、芸術が好き、音楽が好き、などという風に、自分に対する認識をまず初めに持つということです。

そして、その自分への認識を元にして、自分は将来こんな感じになっているんだろうな、という将来の「自分像」を持ち、それに合うように意思決定を行っていくという見方があります。

この自分像のことを「(セルフ)プロトタイプ」といい、このプロトタイプに合わせるように意思決定していくことを社会心理学の言葉で「プロトタイプマッチング」と言います。人は、人生における重要な意思決定を行う際にはプロトタイプマッチングを行なっているのです。

例えば、なぜSTEMの分野に進学する女性が男性に対して少ないのか、ということ議論するときに、「STEMの分野に進学する人」というイメージが、学生の、自分の性別についてのプロトタイプとの間にギャップを生じているためである、というような議論がされたりします [2]。

人生において能動的な意思決定を行うには、より自分の理想に近いプロトタイプをリアルに形成する必要があります。

なぜなら、プロトタイプをはっきり持っている人ほど、自分の可能性を最大限に活かした意思決定を行うことができるからです。

話がそれますが、よく「地方格差」と言われるものの一因は、都会の方がこうしたプロトタイプを見つけやすいことにあるのではないかと私は考えています。

都会に住んでいて色々な人に会う機会に恵まれていれば自分のプロトタイプを形成するのに役立つロールモデルのような人を見つけ出すのも相対的に早いです。また、都会には進学校や、音楽や工学などといった特定の技能に特化した学校も都会以外に比べて多いので、そうした学校にに進学したことで、より具体的なプロトタイプを形成できる可能性も高まるからです。

話を戻します。実はこのプロトタイプの形成こそ、技術を通じて人の意思決定をサポートできる可能性がある部分なのです。

インターネットを通じて、特にTwitterやYouTube、Instagramなどを通じて、多くの人が情報発信をするようになりました。その情報の中には、以前は埋もれてしまっていたような、自分と似た性質を持った、より自分の理想に近い人の情報が含まれている可能性があります。その埋もれていた情報こそが、ある人のプロトタイプを形成するための材料となりうるものなのです。

そして、その埋もれた情報を自分のためにキュレートしてきてくれる技術の一端を担うのが機械学習や推薦システムと言ったAI技術です。

これが、私が「AIは今後、人の重要な意思決定の場面にも関わるようになる」ということを書いた意味です。

私が研究している推薦システムや知的インターフェスの分野でも、こういった人生の重要な局面における意思決定を支援するための技術の研究が脈々となされています。(例えば大学院への進学において、自分に近い人がどのような進路をとったかを調べることのできるレコメンデーションシステムなどがあります [3]。)

しかし、現状ではいかにオンラインの情報が豊富にあっても、プロトタイプを形成する力は、自分の近くにプロトタイプに近い人が存在して、自分に直接語りかけてくれる状況には敵いません。

将来的には、インターネット、VR、動画共有など、様々なテクノロジーの集合によって、何らかの技術的なサービスがそれを達成する可能性はありますが、今のところテクノロジーですべてをサポートすることはできません。

では、今を生きる人はどのようにして意思決定を行なっていけばいいでしょうか。ここからはテクノロジーとも意思決定とも異なる、我々人間の考え方の話です。

今を生きる人が人生において能動的な意思決定を行うために求められていることは、自分の理想とする生き方とは何なのか、自分が人生で大切だと思うことはを一度じっくり考えてみること。そして、そのような生き方をしている人を一度身の回り、書籍、ウェブなどを通じて探してみることです。

そして、そのプロトタイプとなりそうな人と自分の異なるところ、同じところを上げてみて、異なるところに関してはそれが埋められる差(例えば資格のあるなし)なのか、埋められない差(年齢など)なのかを考えます。

埋められる差であればいかにして埋められるかを考え、埋められない差であれば、それが決定的な差かそうでないかを考え、決定的だと思えばそもそも自分の理想を達成するために、何か違う道はないかと考えてみることです。

こうした検討を繰り返すことで、次第に自分の目指すべき方向、自分の目指すべき道が明確になってくると思います。

以上が、プロトタイプマッチングの考え方と、テクノロジーで全てがサポートされない状況で人がどのように考えていけばいいか、ということへの回答です。

初めにも書きましたが、人はいろいろな要因を元に意思決定を行っています。ここでご紹介したプロトタイプマッチングに関しても、そうした要因の一つであると考えて頂ければ幸いです。

私自身は、こうした考え方を契機として、人の生き方を拡張する技術の研究を行っていきたいと考えています。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。興味を持っていただけた方で、ご支援まだいただけていない方がいらっしゃいましたら、ぜひクラウドファンディング「人とAIが健全な関係性を築くために、技術と社会の両軸を横断したい」のご支援もよろしくお願いいたします。

明日は人とテクノロジーの間の責任の所在に関してnoteを書いてみたいと思います。

今日もありがとうございました!

参考文献:
[1] ダニエル・カーネマン. "ファスト & スロー あなたの意思はどのように決まるか?." ハヤカワ・ノンフィクション文庫 (2014).
[2] Kessels, Ursula. 2015. Bridging the gap by enhancing the fit: How stereotypes about STEM clash with stereotypes about girls. International Journal of Gender, Science and Technology 7, 2 (2015), 280-296.
[3] Fan Du, Catherine Plaisant, Neil Spring, and Ben Shneiderman. 2018. Visual Interfaces for Recommendation Systems: Finding Similar and Dissimilar Peers. ACM Trans. Intell. Syst. Technol. 1, 1, Article 1 (January 2018), 23 pages. 

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豆乳とビールが好きです/企業研究所の研究員/レコメンダ/音楽/社会と技術/STS/HCI/著作権制度と情報技術。文理を分けることなく分野を転々としています。法学部志望→理系学部(B1-B3)→社会学系分野(B4-M2)→情報系の研究員←今ここ。
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