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スコッティとエリエールの争い

日本製紙クレシアは「スコッティ」というブランドのトイレットペーパーを販売し、これに関する3つの特許を有しています。3倍の長さのトイレットペーパーです。
ギュッと詰めたトイレットペーパーは、輸送効率も良く、CO2削減にもつながります。

これに対し、王子製紙は、「エリエール」の名称で3.2倍の長さのトイレットペーパーを販売しています。日本製紙クレシアは王子製紙に対し、特許権侵害であると主張して提訴していましたが、このたび東京地裁で請求は棄却されました(つまり、特許侵害とは認められませんでした)。

日本製紙クレシアはこの判決には到底承服できないそうですが、今回の特許訴訟提起は、たとえ認められなくても、他社の製品や特許侵害を常にウォッチしているという同社の知財に対する思い入れを示す良い機会にはなったと思われます。

今回の訴訟の基礎となる日本製紙クレシアの特許1件目、6735251号は、「2プライに重ねられ、エンボスを有するトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロール」です。

ペーパーにエンボスを付与してシートを柔らかくすることができますが、ロールを固く巻くと、ロールの柔らかさが低下し、他方、ロールを弱く巻くと、確かにロールは柔らかくなるが、巻長が短くなる、という問題点が従来ありました。

この発明は、トイレットロールを2プライに重ね、エンボスを有するペーパーをロール状に巻き取るトイレットロールであり、エンボスの深さは0.05~0.40㎜であることがクレームに規定されています。2件目の6186483号も同様の技術のトイレットロールの発明です。
3件目の特許6590596号は、このような「2plyのシートを巻いたロール製品を複数個収納してなるロール製品パッケージ」に関する発明です。

裁判では、被告の製品はこれら特許のクレームの範囲内にはない、と判断されたと思われます。また気になるのは、これらの特許に異議申立や無効審判が請求されていることです。今回の侵害事件と関係あるのかも知れません。
いずれにしても、判決の公開を待ちたいと思います。
(これら3件の特許番号は、以下のサイトで明らかになりました)


弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。