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花王の目元温熱シートの意匠をアイリスオーヤマが侵害しているとして、仮処分の申し立て

花王(株)がアイリスオーヤマ(株)に対して、花王の「目元温熱シート」(1330629号)の意匠権をアイリスオーヤマ社の4製品が侵害しているとして、販売等の差し止めを求める仮処分の申し立てを東京地裁に行いました。

花王の製品は2007年に「めぐりズム 蒸気でホットアイマスク」という製品名で、約40度の蒸気で目を包み込むというコンセプトで販売されました。
この花王の商品は筆者も使っており、製品は次の通りです。

花王は、この知財は重要な経営資源であり、今回の侵害が疑われる件には毅然とした態度で臨むと述べています。

意匠登録1330629号(花王(株))


一方、侵害しているとして問題となったアイリスオーヤマの製品はつぎの4つです。
モイスクル じんわりホットアイマスク 5 枚入 無香料
モイスクル じんわりホットアイマスク 10 枚入 無香料
モイスクル じんわりホットアイマスク 5 枚入 ラベンダー
モイスクル じんわりホットアイマスク 10 枚入 ラベンダー

アイリスオーヤマ公式通販サイト「アイリスプラザ」より画像をお借りしました https://www.irisplaza.co.jp/index.php?KB=SHOSAI&SID=1919981


意匠は物品の形状、模様、色彩を保護するため、このアイマスクがどのような機能を有するかについては、これら製品の類否には影響しません。あくまでもこれらのアイマスクの形状が似ているかどうかを判断します。
温熱アイマスクといえば類似の形状になってしまうのは致しかたないことですが、既存の製品が存在するか否かを調査し、それが意匠登録されている場合には、意匠権侵害になるか否かの検討が必要です。

意匠法では「過失の推定」がされ、他社の類似の形状が意匠登録されていた場合には、それを「知らなかったことに過失があった」という推定がされてしまいます。つまり「知らなかったでは済まされない」です。意匠は登録されると公報が発行されているため、皆それを見る義務があるからです。

意匠権侵害には、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金が課されます(意匠法69条)。民事上では、販売の差し止め等が命じられます。

アイリスオーヤマは「訴状が届き次第対応を検討する」とのこと。果たして販売を停止するのでしょうか?

花王の温熱シートは特許を取得しているのでしょうか?

J-PlatPatで調べたところ、私が調査した範囲でつぎの2つの目用温熱シートの特許を発見しました。

特許5080193号「目用温熱具」
特許4850109号「目用水蒸気発生体」

これら2つが目用の温熱具として特許されています。今回特許侵害を主張しなかったのは、技術的思想としては同じであることが主張できなかったことを意味しています。

参考サイト

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。