【中国語講座】都道府県市区町村
いつだったか、京都府亀岡市で、トリックアートの技術を使って横断歩道を立体的に見せることによって交通事故を少なくしようという取り組みが、ニュースで報じられました。
なかなか面白い試みですが、そんなことより信号機つけちゃえばいいのに、と思ったのは僕だけでしょうか(苦笑)。
それはさておき、このニュースは某局の中国語ニュースでも取り上げまして、僕が翻訳チェックなどをしたのですが、1つ中国語について気をつけたいなと思うことがありましたので、読者の皆さんとシェアしたいと思います。
このニュースの元の日本語原稿はこんな感じでした。「通学路での交通事故を防ごうと、大学生が提案した、トリックアートを使って浮き上がったように見える横断歩道が、京都府亀岡市に整備されました。」
こういう日本語を中国語に訳すのって難しいですね。というのは、日本語原稿の主語は「横断歩道が」で、述語は「整備されました」、という受身の言い方になっています。つまり整備した主体を言わないのですね。中国語ではできればどんな団体が整備したのかを言うのが普通で、あまり受身を使って主体をぼかすことはありません。そこで担当の翻訳者はこんなふうに訳しました(一部抜粋)。
京都府龟冈市采纳大学生的建议,运用幻视艺术,涂刷了具有立体视觉效果的人行横道。
そう、主語が“京都府龟冈市”になっています。我々日本語ネイティブは、こういう時に「あれ?大学生の意見を採用したのは亀岡市なの?」と思ってしまいますね。
日本語だと、都道府県や市区町村が主語になると、そこの行政組織のことを意味してしまいます。例えば:
「東京都は10日、都内で新たに00人が新型コロナウイルスに感染していることを確認したと発表しました。」
このように言った場合、「東京都は」は「東京都の行政府(東京都庁)は」という意味です。東京都という土地が発表したわけではありませんね(当然ですが…笑)。だから、このような場合、中国語では“东京都政府”と訳す必要があります。
ですから、先ほどの“京都府龟冈市采纳大学生的建议…”は、亀岡市の行政府(亀岡市役所)が大学生の意見を採用したという意味にはなりません。「京都府亀岡市では、大学生の意見を採用し・・・」という意味でしかないのですね。
このニュースについて詳しく調べてみると、意見を募集したのは京都府警亀岡署、つまり警察が募集したわけで、もし“京都府龟冈市采纳大学生的建议…”が「京都府亀岡市の行政府が意見を採用した」という意味になっていたら大変な誤訳ということになります。そこで、念のため、そういう意味になっていないことを翻訳者にしつこく確認しました(笑)。
今までにもこういうことはよくあったので、念のための確認なのですが、このまま何もしないで放送したりホームページにアップしたりして万が一クレームが来たらややこしいので、しつこいくらい確認しました(笑)。
そのうえで、責任者の人に提出したら、案の定この件について質問が来ました(笑)。僕たち日本語ネイティブはこう書いてあるとやはりドキドキしますよね。
その責任者の人の質問に対して、翻訳者は「都道府県や市区町村は、場所の意味でしかありません。」と答えていました。やはりそうなのですね。
中国語には存現文という構文があります。場所を主語の位置に据えて、その場所に何かが存在する、何かが出現する、というようなことを表す構文ですね。例えば:
门前站着很多学生。
Mén qián zhànzhe hěn duō xuésheng.
ドアの前に多くの学生が立っている。
先ほどの“京都府龟冈市采纳大学生的建议…”は、はっきり存現文と言えるかどうか微妙ですが、最初に場所を表す言葉が来ている点で、似ているとは言えると思います。中国語にはこういう言い方がある、というのは知っておきたいですね。