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口コミも著作物

インターネット上に書き込まれた口コミも著作物と認められます。
これを象徴する事件が起こりました。

保育園の紹介サイトに書き込まれた口コミを無断転用し、これに生成AIにより改変を加えたものを、自らが正当に得たかのように装って、自社サイトに掲載した会社があります。
この無断転用した会社は、保育士向けの職場紹介サイトを運営しており、就職・転職を希望する保育士をサイトに誘導し、保育園に橋渡しし、採用が決まれば、園から報酬を得ることになっています。
ネット上の情報を収集するスクレイピングという技術を使っていたとのことです。

引用元の口コミと改変された口コミとは、全く同一ではありません。AIにより改変しているので、同一ではありません。
しかし、この場合、あたかも自分の会社が収集した口コミのように装っているので、引用の要件にも該当せず、言い逃れができない状態です。

朝日新聞DIGITALに無断転用があったサイトと、転用先の口コミが載っていたので、いくつか紹介します。

転用元のサイトの口コミ
「各種労働条件には偽りはなく思った通りの待遇で働くことができました。」

無断転用があったサイトの口コミ
「約束された労働条件に違いはなく、働く環境は期待通りでした。」
 
転用元のサイトの口コミ
「技能と心の調和を教育理念としている保育園です。」

無断転用があったサイトの口コミ
「この保育園は「技能と心の調和」を教育理念に掲げ、子供たちが自立心を育てることを大切にしています。」

文章は全く同一ではないので、この点での複製権侵害と認定されるのは難しいですが、AIが改変したといっても、この会社による同一性保持権の侵害です。
また、改変目的でいったん、他社の口コミを複製しているはずなので、この点では複製権の侵害です。
 
書き込みが著作物と判断された過去の事件が思い出されます。
あるホテルへの投稿が書籍に掲載されたとして、投稿を書き込んだ原告らが著作権侵害として出版社らを提訴しました。この事件でも投稿は著作物と認められましたが、一部の投稿については著作物性が否定されました。

①文章が比較的短く,表現方法に創意工夫をする余地がないもの、
②ただ単に事実を説明、紹介したものであって、他の表現が想定できないもの、
③具体的な表現が極めてありふれたもの、
として筆者の個性が発揮されていないから、創作性を否定された文章があります。
 
判決文にはどのような投稿が著作物として認められたのかは掲載されていませんが、予想すると、
「〇〇駅から○○分で足場がよい」
「食事が美味しい」
「部屋が綺麗」
「スタッフが親切」
などのありふれた短い投稿は著作物とは認められないでしょう。

しかし、
「〇〇駅から徒歩2分で足場はよく、○○高原の有機野菜を使ったお食事は、最高!
お部屋は掃除が行き届いていて、従業員さんも皆、親切。夜は宿泊客が皆暖炉を囲み、お茶を飲みながら語り合い・・・・」
のように長くて創作性のある文章であれば、投稿、口コミであっても著作物と認められます。

問題になったのは、本件は、投稿者が質問し、別の投稿者がこれに回答する形式の書き込みであった点です。質問と回答がセットで情報としての価値が生じるのであり、回答のみでは情報としての価値がないから、著作物性がない、との主張が被告よりされましたが、回答だけでも著作物といえると判断されました。

「言語の作品について,情報としての価値があるか否かは,思想及び感情の創作的表現であるか否かの判断に影響を与えるものということはできない」と判断されました(平成13(ワ)22066、東京地裁)。

つまり、情報としての価値と著作物性は関係がないということです。
著作物は思想又は感情の創作的表現であり、情報としての価値があるか否かとは無関係です。
サイトの下の方に書かれている口コミや投稿にも著作物性が認められるということは、それを書き込む側も責任をもった文章を書く必要があることも意味しています。

弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
翻訳家、執筆家、弁理士(奥田国際特許事務所)
株式会社インターブックス顧問、バベル翻訳学校講師
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)英検1級、専門は特許翻訳。アメーバブログ「英語の極意」連載、ChatGPTやDeepLを使った英語の学習法の指導なども行っている。『はじめての特許出願ガイド』(共著、中央経済社)、『特許翻訳のテクニック』(中央経済社)等、著書多数。