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知識社会(現代)における雑談のビジネス価値

みなさん、会社で雑談してますか?

この記事において雑談とはプライベートの話に限らず、「特にテーマを定めないで気楽に会話すること」を指します。

私にとって雑談はなくてはならないものです。しかし世の中には、雑談を快く思わない人がいたり、雑談がなくて息苦しさを感じている人がいたりするようです。たしかに私も趣味の話をするのは苦手です。自分から人に話しかけるのも苦手です。でも雑談は大事にしています。

この記事は「チームに雑談を増やしたい」「雑談を有効活用したい」と思う方向けに、雑談の価値をいろんな角度から書いたうえで、雑談をチームに定着させるステップも書いたものになります。

今の時代の組織運営においては雑談は必要不可欠です。あなたの組織での「雑談」の導入に是非お役立てください。


背景

ナレッジワークで欠かせない「雑談」

現代社会は創意工夫や新発見が価値の源泉となっていて、知識社会(ナレッジソサエティ)と呼ばれます。考え抜くことで成果を何倍にも大きくする人をナレッジワーカーと呼びます。

私たちナレッジワーカーの最大の成果「創意工夫や新発見」は小さな気づき・モヤモヤから生まれます。「こうした方が良さそう」「なんか変だな」そんな気づきやモヤモヤは、試行錯誤や対話を繰り返して、有益なノウハウや優れた戦略…いわゆるナレッジに変わったり、仕事に対する高いコミットメントを生んだりします。

しかしモヤモヤは会議や普段のチャットでは扱われません。
・話したいけど、会議のテーマには合わない
・自分は気になるけど、チームで話す必要性が説明できない
会議という、参加者が多く、制限時間があり、目的が明確な場では、共有されないものなんです。

だからナレッジワーカーには雑談が欠かせません。

リモートワークが増え、「雑談の創出」が経営課題の1つに

みんなが出社してる頃は、給湯室、タバコ部屋に立ち話、業務後のちょい飲みが、硬くないコミュニケーションの場として機能していました。

・「ところで…」「そういえば…」とどんな話でも切り出しやすい
・仕事中の集中を乱す恐れもない
オフィスは雑談にうってつけです。

コロナを通してリモートワークが市民権を得た今、チームから雑談が急激に減ったのは当たり前だったと思います。

いざ足りなくなってみると、増やすのが難しいのが雑談。リモートワークの良さを知ってしまうと、出社はしたくないし飲み会に出てくるのもちょっと面倒となりました。

「どうやって雑談を促したらいいのか」「どんな内容までは仕事で重要なものとしてチームで仕組み化するか」普段当たり前にやっていることだからこそ、なぜ必要なのかの言語化が難しく「必要だよね」とチームで合意ができない。

ナレッジワークに欠かせない雑談をチームに取り戻すべく、役割別に「雑談の価値」を言葉にしていきたいと思います。

企画社員にとっての価値

0→1(たたき台)の作成ハードルが下がる

雑談は、思考を進めるのにうってつけです。

・喋る中で考えが整理されることがある
・問いかけてもらって気付くことがある
・良い反応をもらってやる気が出ることもある

思考が捗らないと感じたら、「ねえねえ、ちょっと聞いてほしいんだけど…」と雑談を持ちかけて、背中を押してもらいましょう。いわゆる壁打ちです。

仕事が出来る人は他人の頭(知識や思考力)を借りるのが上手です。

合意形成のシナリオが描きやすくなる

たとえ自分は良いと思った案でも、上長に承認されなかったり、関連部署に拒否されたりするとOKが出ません。メンバーが納得していなければ、実行時に問題が多数出て良い成果が出ません。

関係者の合意(決定した案に協力する姿勢)なき案は絵に描いた餅です。

合意を得るために、雑談を有効活用しましょう。会議では他の人の目を気にしたり、時間を気にしたりで、本音は出てきません。

全然案が固まってないときの雑談も非常に効果的です。時間と労力をかけた案への批判は心苦しく言い出しにくい。案を思いついたら早めに「ジャストアイディアなんだけど…」と話しかけて、小さな懸念点や本音を聞き出してしまいましょう。

マネージャーにとっての価値

助け合いが増えて、マネジメントコストが下がる

メンバー同士の助け合いがないと、マネージャーの助けなくして仕事が前に進みません。「メンバーのHELPをどう捌くか?」という対処療法に脳内メモリを取られ続け、仕組み化・戦略立案といった根本治療がいつまでも前に進みません。

助け合いの土台作りとして、メンバー同士で詳しい状況を共有するのがおすすめです。

今向き合っている課題や仕事上の困りごとが伝われば、自身の経験を話してくれたり有識者を紹介してくれたりします。試行錯誤や工夫が見えれば、真似してみることができます。話を詳しく聞く中で共感が生まれたり頑張りに感動したりして「できることがあれば助けてあげたい」となります。

定例会議や朝会では話されない内容だからこそ、雑談でゆるくお話するのが効果的です。

「言いにくいことまで話してくれた(心を開いてくれた)」「私に相談してくれた(頼ってくれた)」という経験からメンバー同士の信頼が生まれるので、チームビルディングも進みます。

相談やレビューの生産性が爆上がりする

相談やレビューがチームの中で忌避されていませんか。想像とかけ離れたものが来たので、理解に苦労するし、イライラした態度になってしまうし、確認や伝えることが多すぎてついつい後回しにしてしまう。その結果、メンバーにとって嫌なイベントとなり期限ギリギリまで相談やレビューに来なくなる。

雑談を活用すれば、そんな負のサイクルを避けられます。

そもそもの原因は「状況共有」と「大幅な方向転換」です。

メンバーが担当するのはナレッジワーク。マニュアルや型化が難しく、状況によってやることが変わる創造的なお仕事です。どんな状況なのか、担当メンバーはどんな知識/スキルを持っているのかによって成果は180度変わります。詳細な状況共有なくして最適なアドバイスもナレッジシェアもありません。

でも本人は気付いていません。「特筆することはない状況」で「順当に進めたらこうなった」と思っています。「5分で終わります」と持ってきた相談が、15分、30分と延びていくのはこんなカラクリです。

だから雑談を駆使して頻繁に状況を共有してもらうのがおすすめです。

「こんな状況なので、こう考えて、こういう方針で進めてみています。こんな点で苦労してます、不安です。」と伝えてもらいましょう。これは相談とも進捗共有とも少し違います。

この雑談が絶大な効果を発揮します。断片的にでも状況がわかっていれば、全体をある程度想像できます。ちょこちょこ方針修正しておけば、大幅な方向転換もなくなるし、本人は進め方に自信を持ててスピードアップします。

有益なシェアが増える

ナレッジはメンバーがたくさん抱え込んでいます。考えるのがお仕事ならば毎日、創意工夫や新しい発見があるはず。本や記事を読んだりしてるはず。なのにシェアされてないというのはよく聞く話です。

よくみる理由は「シェアした方が良いと気付いていない」「シェアしない方がいいと思っている」「めんどくさい」あたりです。

自分が持っているナレッジに気付いてない方は多いです。一人前となれば仕事は基本1人で進めます。他人のやり方を見る機会がなければ、自分だけがやってる創意工夫や、自分だけが知っている知識に気付きません。

気付いていてもシェアをしない人がいます。パフォーマンスに差があれば「自分だけが持ってるナレッジがあるんだな」と気付くはず。チームでナレッジシェアや協働を重視しててもシェアをしません。

大変でめんどくさいんです。自分と他人は何が違うのかを炙り出して伝わるように言葉にしたり図にしたりするの。自分にはその説明はいらないので、受け取る相手がいなければわざわざする必要性もない。

いざ言葉にできたとしてもシェアが躊躇われます。実はみんなが当たり前にやってることだったら恥ずかしい、出来てない人への非難ととらえられたら嫌だな。シェアすることがマイナスになりうるなら、自分のメモ帳に残したままにする方がずっと良いです。

雑談を活用してシェアを増やしていきましょう。

困っていることがわかれば、何をシェアすると良いのかがわかります。詳しく聞けば、助けを求めているかが見えてきます。「そのやり方、良いですね」「この考え方、勉強になります」と言ってもらえたならば、ナレッジに気付いて、シェアしたくなります。

報連相ではカットされてしまうようなまとまりのない生々しいお話にこそナレッジシェアの鍵があります。雑談を増やしましょう。

経営にとっての価値

チームを超えた積極的なナレッジシェアや学び合いが増える

ナレッジシェアはチーム内でとどめず、会社全体でして欲しいものです。他チームの試行錯誤を知ることでショートカットができて、大きなコストカットや競合他社を出し抜く鍵となります。

でも全社でナレッジシェアするのはとても難しいです。資料はあるのに読まない、探さない。勉強会があるのに参加しない。ナレッジマネジメントで調べて出てくる施策をやっていってもあんまりシェアは促進されません。

私はナレッジシェアは人中心でなければ機能しないと考えています。資料や勉強会だけでは効果が薄いです。

読んだことがない本やあまり知らない人が発信した記事があっても読まないんです。勉強会があっても、他の業務やプライベートを差し置いて参加することはないんです。だって「今の自分にメリットがある」「今の自分には何よりも必要である」と思えていないから。

人のつながりを活用してナレッジシェアを促進すべきです。

まとめ記事やチュートリアル、記事のフィルタリングなどで読むべきものや参加するべきものが明確になっていたとしても動機作りとしては不十分です。

迷っている背中を押してくれるのはレビューサイトのコメントではありません。信頼するあの人、尊敬するあの人、自分のことをよく知っているあの人の一言が、わざわざナレッジを探したり読んだり、有識者に詳しく話を聞きにいったり、難しい内容でも最後まで読み切ったりする強い動機になります。

だから、メンバー同士が部署やチームを超えて知り合い・友人となるように仕組みを作りましょう。

理想の関係性は一緒に仕事をしたことがある状態です。お互いをよく知っていて、言われたことを大事に受け止めるでしょう。でも、この関係性はたくさん作れないし、時間がかかります。

雑談を活用しましょう。やっていること・価値観・苦労していること・工夫していることを伝えて相手に受け取ってもらえれば、相談のハードルはグッと下がり、もらったアドバイスを大事に思えるようになります。

相談できる関係性でメンバー同士がつながっていれば、「今あなたがしていること、**さんが以前近いことやってたよ。聞いてみて」「その内容、**さんが詳しかったよ」「**さんだったら、詳しい人を知っているんじゃないかな」と人を介してナレッジがシェアされていきます。

ほとんどのナレッジはドキュメントになっておらず、対話や共同作業を通して人から人に伝わっていきます。組織内に人のネットワークを強固に作ることが会社レベルでナレッジマネジメントを成立させる上での肝となります。

社員のエンゲージメントが高まる

ここまで、雑談は「関係性を作り」「相談を生み」「ナレッジを活用して仕事が効率的に進む」上で欠かせない、組織運営における必需品というお話をしてきました。

メンバーのエンゲージメントを高め、強くてしなやかなチームを作るのにも大変効果的です。

雑談を通して「業務に直接関係はないのに、話を誠実に聞いてくれた」「私の大事にしたいことをこの人はわかってくれている」という経験が人に対しての信頼や愛着を生み、この経験を組織のいろんな人と重ねることで、組織全体への信頼と愛着が育まれていきます。

信頼と愛着は、大変なことや目まぐるしい状況変化への耐性へとつながります。大変な状況でも「**さんも頑張っているから、私も頑張ろう」となり、急な依頼や理由のわからない指示があったとしても「きっと大事な理由があるんだ。やろう」と前向きに捉えることができます。

多忙な組織ほど、雑談を大事にしましょう。忙しいからこそ急なお願いや説明不足が多いはず。余った時間で雑談をするのではなく、未来への投資だと考えて、意識的に時間をとっていくのがお勧めです。

雑談をチームに定着させる流れ

ここまでで、「本人」「チームマネジメント」「経営」と網羅的に雑談の価値をお伝えしてきました。

しかしチームに雑談を増やす上では価値だけでは不十分です。すでにある風土や習慣を変えるのは一筋縄ではいきません。自分の癖を直すだけでも大変、チーム全員の癖を変えるのはもっと大変です。

私がよくやる組織変革の流れをご紹介します。組織変革の方法はこれだけではありません。1つの例としてお聞きください。

1. 雑談をやるべきだとみんなで合意する

最初に必ず、関係者の合意をとりましょう。合意とは「決めたことがうまくいくようにコミットメントします」という状態のこと。雑談は一人ではできません。内職しながら雑談はできません。雑談をする分だけ他のことに時間を使えなくなります。

「雑談は私にとってもこのチームにとっても必要だ」「雑談のために時間を空けよう」と思ってもらえたらゴールです。

この合意が正直一番難しいです。関係者は全員価値を感じるポイントが違います。一人一人がどこに価値を感じてくれるかを見定めて、個別にしっかり価値訴求をしましょう。ぜひこのnote記事を参考にしてください。納得しやすい具体例を多数入れているので、ピックアップしてお伝えすれば、きっと価値を感じてもらえます。

関係者の気持ちを知っていく中で雑談をすることになるかと思います。

2. 雑談の時間をあらかじめ抑える

合意ができたら、時間を抑えましょう。

チームメンバーは皆「雑談はきっと価値がある(だろう)」という状態、まだ価値を体験できていないし、このチームで本当に必要なのかも自信を持てていないため、急用があったり他に大事な用事があれば雑談の時間をいつまでもとらないでしょう。これは自然な現象です。

だから時間を抑えましょう。「しっかりやりたいので、必ず参加できる時間を教えてください」と伝えて、リスケ/スキップが起きにくい時間帯にし、本人にも「ちゃんと参加しないとダメだ」と認識してもらいます。

時間はチームで価値を実感するのに必要な最小限の量で抑えましょう。価値を体感できていない状態でたくさん時間やマインドシェアを奪われると雑談に対する印象がとても悪くなります。できるだけ早く価値を体感してもらいたいところですが、時間を取りすぎないようにしましょう。

3.やってみてどうだったか?と振り返りをする

必ず振り返りをしましょう。チームに提案するタイミングで振り返り時期も伝えておくのが効果的です。「2週間経ったら振り返りをして継続判断をするので、この2週間は真剣に取り組むようお願いします」と伝えておくことで、価値をあまり感じていないメンバーにも真剣に取り組んでもらえます。

振り返りは価値を認識するのに効果的です。感じた良さを言葉にすることで、価値をさらに強く認識できます。感想をみんながシェアする中で違う良さに気付きます。

またチームにあった雑談の形を知るためにも重要です。少人数でワイワイ話すのが一般的ですが、効果があればどんな形でも構いません。「既存の会議以外でお互いの話を聞く時間は欲しいけど、テーマがないのは苦手」というのはよく聞きます。業務共有会にしたり、会議の最初10分でGood&newを話すようにしたり、定期的にオフ会をしたり、チームにあった形を模索してみてください。

私は「一人の作業をみんなで眺める会」を雑談の場にしたことがあります。作業風景が話のきっかけになるし、沈黙でも気まずくない。言葉にしなくても見ていればナレッジシェアが進むと大変有益でした。

終わりに

長きにわたりお読みいただきありがとうございます。

雑談に限らず対話は人と人が協働する上で欠かせないピースです。この記事があることで、有益な雑談が増えることを祈っております。

このnoteの制作裏話 ~ ナレッジマネジメントについて ~

この記事でお伝えしてきたことは、「雑談は私たちナレッジワーカーにとって重要な仕事である」「ナレッジマネジメントの中心に雑談(を含む対話)がある」ということでした。つまりこの記事はナレッジマネジメントがテーマです。

現代社会においてナレッジマネジメントは経営の最重要テーマの1つで全社員が積極的に取り組んでいくべきテーマにもかかわらず、世の中の本や記事は内容が不十分だったり、難しすぎたりするため、挫折している組織が多いと感じています。

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