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ウィーン音楽祭がギリシャ系ロシア人指揮者をウクライナの要求で排除


【画像① ロシア国籍を持つギリシャ人指揮者、テオドール・クルレンツィス氏(51)。アテネ生まれだが、幼少からピアノ、バイオリンで音楽の才能を開花させ、1994~99年にオナシス基金の支援でサンクトペテルブルク高等音楽院で指揮者課程に学び、以後、ロシア国内のオペラ・バレー劇場のオーケストラ主任指揮者を歴任し、2018年からは南西ドイツ放送交響楽団の首席指揮者も務めている。ロシア国籍を取得している。】



◆ウィーン音楽祭でロシア国籍の指揮者を排除か?


2022年2月24日にロシアがウクライナに対する「特別軍事作戦」と称して軍事侵攻に打って出て以降、西側諸国ではロシアに対する政治的非難が政権当事者や主要メディアから沸いて出るだけではなく、文化面で「ロシア芸術」を排除する動きが表出した。正に世界を2つに分断した「戦時」の様相だが、長年ロシア歌曲の演奏にも取り組んできた筆者も、ふだん演奏をしたことのあるところから「今はロシアの曲は演奏しないでくれ」という話も出ていて、呆れたものだ。


「日本人は思い込みが激しく、だまされやすいのだな」と思っていたら、米英などはもっと酷く、行政的にロシア音楽などを演奏するのが禁止され、ロシア系市民がイベントを開催出来ないなど、厳しい状況に置かれていることが伝わってきた。戦争は戦争、文化は文化で、そうした固有の民族文化を排除してまで憎しみを露わにしなくてはならないのか、そういう感情が”多数派”に押し付けられる不寛容さが何とも居心地悪く感じている。まあ、私はロシア大使館の要請でイベントの演奏もしたし、ウクライナ戦争難民の音楽家とロシアやウクライナの音楽演奏の機会も持って、日本在住のロシアやウクライナの人たちにも喜ばれたりもしているのだが、西欧ではそうもいかないようだ。



何と、ロシア国籍を持つ音楽家が国際的に有名な音楽祭=ウィーン・フェスティバルから排除されたというのだ。「招待しない」と主催者が排除を決めた音楽家は、ギリシャ系ロシア人指揮者のテオドール・クルレンツィス氏(51)。アテネ生まれで幼少の時から音楽的才能を開花させ、90年代にロシアのサンクトペテルブルクで指揮者課程を学んでロシアでオペラ、バレー劇場オーケストラでの指揮を中心に活躍してきた人物だ。ドイツでも南西ドイツ放送交響楽団の首席指揮者に招かれ、西欧でも演奏活動を展開している。


ところが、この度、オーストリアのウィーン音楽祭(ウィーン・フェスティバル)はクルレンツィス氏が「ロシアのウクライナ侵略に対して態度を明らかにしない」ことを理由に招待せず排除することを決定したという。現在ロシア国民である同氏が、自国の対応について反対するかどうかなど、その芸術的活動や資質に関係するものではなく、まして「積極的に支持」を表明すらしていないのに、ありていに言えば「西側の言い分に従わないからアウト」として音楽祭参加を拒否するという現実は、いままでぬるま湯的な平和に浸って来た日本人にはショックなことではないだろうか?(もちろん、日本のメディアはこの件を全く報道していない)



【画像② ベルリンのコンサートで指揮するクルレンツィス氏。2023年5月】


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