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ウクライナ戦争をめぐり世界は三極化する?「グローバルウエスト」「グローバルイースト」「グローバルサウス」~ロシア報道が注目するフィンランド大統領の見解~インドの動き、NATO首脳会談から読み解く新たな対立軸~


【画像① 旧宗主国フランスの影響を払拭して新たな政権を軍事クーデター的に打ち立てたブルキナファソに対して、ロシアは民間軍事会社ワグネル、次いで国防相傘下の特別部隊を送り込んで政権安定化を図りながら経済面での支援を開始してきた。これはロシアのアフリカを含む「グローバルサウス」諸国への影響力拡大を端的に示す例となっている。ブルキナファソのトラオレ暫定大統領と会見したプーチン大統領、2023年7月29日。】





◆モディ首相のモスクワ訪問に注目したJETRO記事




前号で扱ったインドのモディ首相によるモスクワ、ウィーン訪問であるが、日本ではメディアがほとんどまともに取り上げない中、ロシアとの協議において主に経済分野での協力関係の強化が約されたことについては、JETRO(日本貿易振興機構)が記事として取り上げ、注目していることを示している。



Google検索で「モディ首相
モスクワ訪問」と入力して検索すると、トップにJETROの記事「モディ首相がロシア訪問、プーチン大統領と両国関係の強化を確認(ロシア、インド)」(2024年7月11日付)がヒットする(https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/07/48f0b224242e8379.html#:~:text=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E3%83%8A%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%87%E3%82%A3%E9%A6%96%E7%9B%B8,%E3%81%84%E3%81%8F%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A7%E4%B8%80%E8%87%B4%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82)。


「採択された共同声明は81の項目により構成されており、その中には経済面での協力強化も盛り込まれた。2023年までに相互の貿易額を1,000億ドルに増やすという新たな目標が設定されたほか、関連機関にはユーラシア経済連合(EAEU)とインド間の自由貿易協定(FTA)締結に向けた協議を進めるよう指示が出された」


「ロシアのアレクセイ・チュクンコフ極東・北極圏発展相は、『(インドとの)貿易額は高い伸びを示しており、とりわけ極東と北極圏における相互協力のさらなる拡大の可能性は非常に大きい』『両国間の協力関係がそれぞれの繁栄に貢献することを確信している』として、両国の関係強化に期待感を示した」


インドとロシアの首脳会談は、両国間の経済協力を従来よりも大幅に強化する重要な機会となったことが読み取れるし、特に極東、北極圏地域に属するロシアでのインドによる経済活動の拡大方向が見てとれる。


自分の頭で考えることの出来る読者なら、この記事から「ロシアとの関係が悪化した日本に代わり、極東や北極圏ロシアでの経済活動にインドが積極的にその席を占めるようになる」ことを認識できるだろう。しかしながら、「なぜインドがロシアと首脳会談を行ったのか?」という肝心の問題についての考察は、JETROの記事にもない。




【画像② インドのモディ首相とプーチン大統領の個人的なつながり、協力関係は深いものがある。7月8日、モスクワを訪れたモディ首相は、郊外の大統領公邸に招かれ、長い時間をくつろいで過ごしながらプーチン氏と意見交換を行った。】





◆モディ首相の動きをNATO首脳会合と対比させて世界への影響を俯瞰したフィンランド大統領




一方、ロシア報道はフィンランド大統領のアレクサンドル・ストゥッブ氏がモディ首相のプーチン氏との首脳会談の影響をNATO首脳会談とも対比させながら世界的な視野から見た考察をしていることに注目している(ロシアがそれに賛成するという意味ではないのだが)。フィンランドはこの度のロシアによるウクライナに対する「特別軍事作戦」について、自国への脅威にもつながると見なし中立政策を転換してロシアに対抗するNATO同盟への加入を図る意思を表明するなど、厳しい対応をしている国だ。


7月11日にワシントンDCで開催されたNATO首脳会合については、外務省サイトの「岸田総理大臣のNATO首脳会合出席」(7月11日付)に概要が示されている(https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/pageit_000001_00836.html)


外務省リリースでは、特に岸田首相から表明された日本とNATOの協力関係深化、「ウクライナ支援と対ロ制裁を強力に推進」しながら、この面でのNATOとの連携を深めること、秘匿情報共有やサイバー防衛演習での協力、NATO戦略的コミュニケーション研究センターへの日本要員派遣など具体的な軍事協力強化の方向について詳しく示されているが、この内容について詳報した日本メディアは皆無である。とりわけ重大なのは、現状で「ロシアとの敵対」を明確にしたNATO加盟国を「同志国」と宣言し、連携強化を進めると宣言したことの意味は大きいのに、それが取り上げられているところは一切無い。




【画像③ フィンランド大統領アレクサンデル・ストゥッブ氏。一時、ナチス・ドイツと同盟関係を地政学的理由で取り結んだフィンランドは第二次世界大戦でソ連と交戦関係にあったが(もともとはスターリン政権による主権侵害にさらされてのことだった)、独自に対ソ講和をして以降は一貫して中立政策をとり、NATOとソ連の狭間で生き続けた。しかし、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の事態で自国の主権が再び侵されかねないという危機意識から、NATO加盟の希望を表明しロシアに対して敵対的姿勢に転じた。】




今後、日本のロシア対応やウクライナ戦争に向けての政策は、すべてこの宣言に沿って行われるものであるが、これでは本来、日本とも深い協力関係を築いてきたインドの新たな動きの意義をとらえ、状況を踏まえた対応を日本が自主的に行う展望など、全く見いだせないだろう。そこが日本が当面する最大の問題、「主権を自ら放棄」する状況に繋がっていると筆者は見る。


外務省サイトと同様の内容をリリースしたものに、自民党公式サイトのもの(https://www.jimin.jp/news/information/208694.html)があるが、これらを踏まえて、以下に示すフィンランド大統領の考察をせめて報道からだけでも読み取ると、世界の趨勢と日本が置かれた位置について考える貴重な材料になるだろう。



◆インドのモディ首相の動きとNATO首脳会合から見えてくる世界の対立軸




以下に「インドのモディ首相の動きとNATO首脳会合から見えてくる世界の対立軸」と題したロシアのリア・ノーボスチ通信による7月9日配信記事の概訳を示す。もともと、この記事が取り上げているフィンランド大統領の考察は、『エコノミスト』誌に掲載されたもので、そちら(英語版)を読むのもよいと思われるが、この内容をロシアがどう受けとめているかもウクライナ戦争の和平仲介が課題になっている時期であることからニュース性があると思われるので、本noteはこの記事を掲載する。

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