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【読書】罪の轍 奥田英朗



前回奥田 英朗の「コロナと潜水服」という短編集を紹介しましたが,今回は長編。久々に読み応えのある面白い長編に出会いました。

しかし奥田さんはどうしてこんなに色々なタイプの小説が書けるのだろう。ヤクルト→巨人の広沢の顔が大きいという話を書く裏で,こんなシリアスなミステリーを書けるのは本当に素晴らしい。私が初めて奥田 英朗に触れたのは「オリンピックの身代金」という長編のミステリーもあったのだが,あれはあり得ない設定だったので面白かったが評価は低かった。今回の「罪の轍(わだち)」も前の東京オリンピックが始まる2年くらい前の時代背景の小説。奥田さんは私より2歳上だが,オリンピックが好きなのだろうか(笑)

北海道の礼文島で脳に障害があり善悪の判断があまりつかずに空き巣を繰り返す少年が主人公。この障がいの理由が先天的ではなく,実は最初の父親が失踪し,次の父親によって後天的に障害をもたらされた感じ。詳細を書くと気分が悪くなる内容なのでここでは省くが,その父親との確執がこの小説のポイントになっている。

脳に障害があるが別に悪い奴でもなくイケメンで女性にもモテるのだが,なにせ空き巣をするので(笑),小さい島だからバレるのも寸前…という時に「島も母親も捨てて東京に行こう」と思い,村一番の金持ちの家に空き巣に入り,とんでもない現金を手に入れて船で逃げるのだが,信頼していた仲間に裏切られ,金はそいつに盗まれ船は予備の燃料と渡されたのは海水で,しかもシケになって船を捨てて泳いで北海道にたどり着き,空き巣に空き巣を重ねて何とか東京にたどり着く(笑)。

東京で仲良くなったのはやくざの下っ端だが義理人情にあついナイスガイ。二人で楽しく暮らしていたが,暮らすには空き巣が必要で(笑),それを繰り返しているうちに,ある殺人事件に巻き込まれ犯人の疑いをかけられる。並行して小学生の誘拐事件も起こり,多分この二つの事件の犯人は,この障がい持った奴が犯人だ~という事で警察が必死に捜査をするが,身代金だけ奪われて子供は帰ってこない…。

ちょうど東京オリンピックの前で一般家庭にテレビが普及始めた頃の話なので,多分ワイドショーなどもこの頃から始まったのだと思われる。連日逮捕失敗をテレビで晒されて警察がやっとこっとこの主人公を捕まえたが,自白はしない。記憶障害も発見され,うそ発見器でもすべて白。ただ警察も馬鹿ではないので,状況証拠を積み上げて,ついに犯人に自白をさせる。同時にその主人公は今まで記憶の隅に追いやって覚えていなかった父親とのやり取りを思い出し,自分の使命を思い出す事になり,なんと警察から脱走(笑)

簡単に書いたが,本当に展開が面白く手に汗握る…という感じで,最後の方はこれはいったいどうやって始末をつけるのか…と心配になるが,結果的には収まるように治まった感じ。これだけの長編で飽きさせず最後まで引っ張られるのは,宮部みゆきの「模倣犯」以来かもしれない。

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