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【読書】そして海の泡になる


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バブル時代に,天才相場師と言われていた尾上縫(おのうえぬい)を彷彿させる(というかそのもの)主人公の回りにいた人たちを取材して,小説を書こうとしている…という想定で話が進んでいく。
バブルというのは,ざっくり1985年ころから1990年ころの期間であり,そうすると私が社会人になったのが1984年なわけで,新入社員で東京から福岡に来て,山陰に異動したあたり。バブルだから良い事がいっぱいあったのだろうと思われるかもしれないが,新入社員では,その恩恵を被る事はなかった。ただし,先輩の金というか会社の経費で山ほど飲み食いした事は間違いない(笑)。

本物の尾上縫がどのような生い立ちなのかは知らないが,この本の主人公は太平洋戦争で日本が破れ兄弟も戦死,生き残った親父が壊れてしまい,家庭内暴力・娘(=主人公)への性的虐待…。そして一家心中で家が火事になった中で一人何とか助かり,隣村の親戚に拾われる。そこから大阪に出て水商売の道で男をたぶらかす道を憶え,資金を出してもらって自分の店を出す。そして投資へと突き進むのだが…。
この話の中では,同郷で一緒に大阪に出てきて働いていた女性,刑務所で一緒だった女性,金を出したパトロンの息子,不正を働いた銀行の息子…と色々な登場人物が自分の知っている主人公を語り,だんだんとその生涯がわかってくるようになる。

この人物を語るのにポイントとなるのが「うみうし」というなめくじのような動物を神とあがめ,すべてうみうし様のいうがままに投資をする事でバブル崩壊まではとてつもなく儲かる所。そしてこのウミウシ様にお願いすると,人も殺してくれるのだ。実際に,父親・パトロン・詐欺を一緒に働いた銀行の支店長…という具合。
しかし最後の最後で,想像という形で,ウミウシ様の秘密が暴かれる。

バブルを実体験したような人が読めば,とても懐かしい話になると思うし,私が読んでも当時は多分本当にこんな感じだったのだろうと思わせてくれる小説。何より,インタビュー形式で進むので,一気に読みたくなるような筆力はさすがである。

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