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【読書】月の光の届く距離 宇佐美まこと

最初に高校二年生が同級生の子供を身ごもってしまい,親に相談したら出ていけとか激怒され,もう死んでやる~とビルの屋上に立っているようなシーンから始まる。その時にひょんなことで屋上に人がやって来て,話をするうちにとりあえず飛び降りるのはやめにしたのだが,とにかく行くところがないのでどうしようか…と困っていたら,その助けてくれた人が,「ここに行ったら~」と紹介してくれた場所がある。奥多摩にある民宿的な施設。そこに世界的に有名だったデザイナーのおばあちゃんと,その息子と娘が三人で住んで,民宿をやりくりしているという。さらにそこは何人かの子供もいて,楽しく暮らしているという。

とにかくそこしか行くところがないので,行ってお世話になる事にするのだが,その家族の雰囲気がどうもおかしい。兄弟と言いつつ名字が違うとか,おばあちゃんと息子がよそよそしいとか,子供も三人いるが家族っぽくなくなんか違和感がある。
この謎を歴史を振り返りながら説明していくような小説なので,だんだんと謎が解けて読んでいて楽しいというか読み甲斐がある。

この小説のテーマは「家族」なんだろう。そもそも女子高生が兄弟と思っていた男女は(実際に兄弟に間違いないのだが),生まれて一度もその存在も知らずに別々の世界で生きていて,同じ大学でたまたま知りあい,お互いが魅かれて付き合い始め,いよいよ結婚か…という時に,実は兄弟でした…とわかる流れで,何とも切ない。

特に兄の方の人生がとんでもなく悲惨。お父さんが基本ヒモが本業で,女が変わるたびに家や学校が変わるため(笑),グレて悪い連中と付き合う様になるのだが,根は真面目なので勉強して良い会社に勤めて自立した生活を送ろうと頑張る。そんな時に知り合った女性が,母親が障がい者,本当の父親はわからず,勝手に入り込んできたこれまたヒモみたいな男に,あんなこともこんな事もされて,でもお母さんは判断が出来ず娘が…(涙)。それを助けに行った兄は…(涙)

最終的に女子高生は子供を産む決断をするのだが,どうやって子供を育てるか…を考えた時に,一番大事なことは「この子が幸せになるにはどうすればよいか」だと気づき,取った行動が涙もの…。こんな制度があったのか,熊本の赤ちゃんポストの慈恵病院とはまた違う法律に基づいた国の制度…。

家族って何なのだろう…と考えさせる名作です。しかも飽きさせずに一気に読ませてくれます。初めての作者ですが面白かった。

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