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Parvāne - 尸者 (EGO EPIS) [Live at Public Space 四次元 (1 Mar. 2024)]


 バンド形態 Parvāne 初ライブ演奏を終えた翌日の夜に田畑佑樹が書いております。 Public Space 四次元での演奏にお立ち会い頂きました皆様、およびこれから巡り会うことになるであろう方々への親愛を込めて。
「初めてのライブ演奏ってのはな、客がひとりもいないくらいがちょうどいいんだ。『ラブライブ!』を観てみろ。あれが売れまくったのは最初の客がひとりもいなかったからだ。だから今回の我々も、身内を含めて、本当に客がひとりもいない状態から始まったら伝説になれる。音ノ木坂学院のようにな」というネタをメンバー各位に言う準備までしておりましたが、当日には我々へのご興味とともにお越しになった方までおられ、望外に順調な出立となりました。重ねて、同じ出演日をともにした出演者様各位も、面識すら無かった新進の我々を温かくお迎えくださり・かつ別様に最高の演奏で同じフロアをアゲてくださったことに感謝いたします。

「今までどんな感じで来たバンドなの?」と訊かれることが多くなってきたため、ここで Parvāne がバンド形態になるまでの経緯を述べておくのもよろしかろうと存じます。西暦2021年末に完全個人制作でのヒップホップアルバムを完成させた田畑佑樹は、続くシングル作品の時点で「だめだ、このまま自分で出来ることばかりやってたら打ち込みバカになっちまう」という状態にまで行き着きました。そこで Soundgarden や Tool を念頭に置いた4人組バンドの結成に踏み切り、2022年冬頃から緩慢に準備を進めつつ、ついに2023年晩秋には4曲・28分のセットリストを仕込み終わり、満を持して今月頭の初演奏を迎えた。という次第でございます。
 先だってのステージから、冒頭の1曲『尸者』の演奏動画を全体公開しております。この映像をご覧いただければ、クールかつエレガントな3人の奏者の力添えによって、1匹の飢えきった猿が辛うじて人間になれた経緯が察せられることでしょう。ちなみに当該動画の音声は、 iPhone の動画撮影機能で(リミッターぎりぎりの音量を)収録したトラックを-12dbまで引き下げ、さらに自動マスタリングを施すという手間がかけられております。いわゆる「爆音」を音楽の魅力にとって必須の要素と錯誤するような稚気はもはや持ち合わせておりませんが、ぜひ住宅事情が許す限りの大音量でお楽しみください。

 我々が会場として選んだ Public Space 四次元は、かつて(成人年齢を迎えたばかりの)私が Petrushka という砂場に落ちたセロテープのようにペラッペラでツルッツルな音楽性のバンドをやっていた頃からの馴染みであり、「Parvāne が初のライブ演奏をするなら絶対にここで」と決めておりました。すべての「業界」がそうであるように、福岡県内も鼻持ちならないフェイクアスと自身の仕事に専念するリアルシットとが入り乱れる坩堝でありますが、ご記憶のとおりの疫禍で「業界」ごと損害を被った後では、もはや生半可な態度でうろついていた連中は一掃されたが如き状況にあり、それは我々にとっても僥倖のようでした。開場から終演まで、同会場内にお立ち会いくださった全ての人々から放射されるグッドバイブスが途切れていなかったこと・および我々 Parvāne がそのような夜の露払いを務められたことは、文字通り望外の歓びでありました。

 Parvāne の田畑佑樹という者は、ガルシア・ロルカと同じ誕生日に・アンダルシアと同じ南端の地である鹿児島に生まれたことにより、あらゆる物事をラテン的にしか考えられないという宿命を背負っております。そしてスペインのみならず、いわゆる「ヨーロッパ大陸」の南部がキリスト教よりもむしろイスラームの影響とともに育まれた文化圏であることは、宗教史の文献どころか手頃な旅行ガイドの何冊かをお読みいただきさえすれば明瞭となるでしょう。 Parvāne とは「蛾(または蝶を含む鱗翅目)」を意味するペルシア語からの音写であり、現在のイランにおいても敬愛され・19世紀にはゲーテをして『西東詩集』を書かせしめるきっかけにもなった詩人:ハーフィズの作品に頻出するモチーフです。その雅なる蛾名を頂戴したParvāne の開始は、西暦2021年6月5日に最初の音源となる『蛾の死』を発表することで告げられ、それは田畑佑樹にとって30歳の誕生日であり・正式にムスリムとしてのシャハーダ(信仰告白)を済ませる日と同じ時に定められました。
 
 前段落で述べた内容を踏まえれば、私が Parvāne を通して如何なる転回(展開ではなく)を企てているかが明瞭になったことでしょう。今回の初ライブ演奏で披露した4曲はすべてダンスミュージックであり、ファンクでもあるどころか、正統のラテンミュージックでさえある。この文言に一切の衒いも逆張りも無く、端的な事実でしかなかったと証明するために Parvāne は存在します。それはゲーテが不器用な手つきで「東方」を称賛した事例とは全く異なり、かつロルカが詩文だけでは為しえなかった陽気な恐怖を21世紀に響かせんとする試みであり、それは東の地の南方から・もちろん音楽の力によって始められなくてはならなかった。
 そして我々は、あらゆるすべての人間を音楽家にすることを目標としています。「首根っこつかまえて音楽をやらせる」と謂っているのではありません。「あらゆるすべての人間が、実は生まれた瞬間から音楽に携わっていた」ことを受け入れてもらうためにやっているのです。この文をお読みになっている貴方が、いま何を謂っているか解らなくても構わない。我々 Parvāne は、これからすべてのステージを陽気な恐怖から始めることでしょう。蛾にとって至上の悦びは、智慧そのものである焔に飛び込み・抱かれ・焼け死ぬことにある。恐怖それ自体に誘惑されることが無ければ、如何なる変転も有り得ません。そして瞬間ごとに連続する蛾の死によって、今まで常にそこに在り・これからも在りつづける智慧の存在を証し立てることができれば、都度陽気にして新しいダンスが生まれる。それら心身の営みによってフロア上の人々(もちろん我々自身も含む)の時間および生死の感覚さえも転回させること、それが音楽と詞文の本義です。

 以上のような経緯で、4本脚の蛾はようやく生まれました。すでにラマダーンが近づいているので、田畑佑樹は(西暦基準の)4月半ばまで音楽活動を慎まねばなりませんが、春季が十分に到来して以降は同じセットリストを携えてまだ見ぬ皆様のお目にかかります。世界そのものが誂えつづける変転のさまざまに、誰もが怯えることなく身を曝す日が来ますよう。厳密には既にその日は来ていて、我々は歴史性の盤上における駒として数え上げられている。そして駒たちがもはや「自分の意志」などで動くのをやめ、より巨きな力の筆先となることに専心したとき、そこには必ず新しく美しい墨痕が画される。このようにして、天地万有の事物はまだ到来していないダンスに焦がれているのです。


ヒジュラ暦1445年8月22日
田畑佑樹



Parvane (Mar. 2024) are:
Shingo Noguchi - drums
Naomichi Onidzka - electric bass guitar
Tatsuya Yamane - electric guitar
Yuki Tabata - vocals and clave

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