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”日本一のモグラ駅”を地域のハブに。インスタントハウスを使って無人駅グランピングに挑戦する『DOAI VILLAGE』

人里離れた山の中。突如として現れる駅舎と真っ白なインスタントハウスの群れ。

まるで桃源郷に迷い込んだような、そんな雰囲気を感じさせるのが、群馬県のみなかみ町・土合駅にオープンしたDOAI VILLAGEです。

土合駅は”日本一のモグラ駅”と呼ばれており、駅舎から10分ほどかけて階段を下りたところに下りのホームがあります。まるでモグラのように地中にもぐっていくようなところから”モグラ駅”と呼ばれているわけですが、近年は無人駅となり利用者の数も減っていく一方。

そんな土合駅がどのようにして生まれ変わったのか。
そこでインスタントハウスはどんな役割を担ったのか。

今回は前半で土合駅の魅力について紹介し、後半で『DOAI VILLAGE』運営責任者・茶屋尚輝(ちゃや なおき)さんのお話をお伝えします。

『DOAI VILLAGE』
”日本一のモグラ駅”の愛称で鉄道ファンや登山愛好家に有名な土合駅直結のグランピング施設。グランピングエリアには、土合駅にちなんで昔の駅舎を思わせるようなレトロなセンターハウスが建てられている。白いマシュマロのような外観のインスタントハウスに泊まることができ、宿泊者はサウナも楽しめる。2020年秋よりオープン。
所在地:群馬県利根郡みなかみ町湯檜曽218-2
茶屋尚輝さんプロフィール
三重県伊勢市出身、ゼネコンでの建築設計業務を経て、2012年よりVILLAGE INC.にJOIN、同社キャンプ事業の現場運営と共に、他地域での開発案件等を担当。
2020年より無人駅の活用プロジェクトとして、JR東日本グループと協同で群馬県みなかみ町の上越線土合駅にて DOAIVILLAGE 立ち上げ〜運営を担当。

時代に取り残された日本一のモグラ駅・土合駅に目をつけたVILLAGE INC

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まずは土合駅のご紹介から。
冒頭でもお伝えした通り、土合駅は”日本一のモグラ駅”と呼ばれ、多くの鉄道ファンや登山客に愛されている駅です。駅舎に入ってみると、昔ながらの「きっぷ売り場」が目に入ってきました。

画像2▲売場は形だけ残されていて、中はカフェとして使われている

とはいえ、土合駅は無人駅なので、ここで切符を買うことはできません。DOAI VILLAGEでは、こういった昔の趣が残る場所が至るところで見ることができます。

きっぷ売り場から奥に進み、下りのホームを目指します。
連絡通路はまるで遺跡のような趣。しんと静まり返った空間に思わず息を呑みます。

画像3▲窓から差し込む光が神秘的。撮影スポットにもなっているとのこと

通路をまっすぐ突き当たりまで進むと、さらにとてつもない光景が目に飛び込んできました。

画像4▲延々と続く階段は、往復するのに20分以上かかる

そこには、トンネルの出口が霞んで見えるほどの長い長い階段が…。
下りのホームへ向かうための階段の段数は462段、そして標高差はなんと70.7mとのこと。

この階段を作るためにどれだけの労力がかかったのでしょうか。想像するだけでクラクラしてしまいますが、このスケールの大きさこそが土合駅の持つ魅力です。

この土合駅のポテンシャルに目をつけ、「なんとかこの駅を活かしたい」と行動に移したのがVILLAGE INCでした。

『VILLAGE INC』
“Living & Learning with Nature“「自然の恩恵を活かした空間と忘れかけていた非日常体験をもって、人々に感動の時を提供する」をミッションに、地域資産を活かしたサービス「VILLAGE」の提供と新しいワークスタイルの構築に取り組んでいる。「何もないけど何でもある」を合言葉に、地域の遊休資産に新たな命を吹き込み、非日常体験のサービス「VILを展開中。
所在地:静岡県下田市一丁目6-18 NanZ VILLAGE

ここからはいよいよ、『DOAI VILLAGE』運営責任者の茶屋尚輝さんにお話を伺っていきます!

「駅×キャンピング」で新しい形のキャンプを目指す。インスタントハウスの導入は構想段階から決めていた

画像5▲『DOAI VILLAGE』運営責任者の茶屋尚輝さん

ーー土合駅はかなりインパクトのある施設ですね。先ほどの長く続く階段など、本当に驚きました。

そうなんですよ。駅としてはとても魅力があるし、古くから多くの方に愛されてきた場所なんです。でも近年は利用者が少なくなり、無人駅になっている状況でした。

通常、利用客の少ない無人駅は廃駅にされてしまうんですよね。清掃や安全面での維持管理でコストがかかるからです。でも土合駅は山奥ですし、潰すのにも大変だということでそのまま放置されてきました。

ーー扱いが難しい駅だったということですね。そんな土合駅に目をつけたのはなぜですか?

私たちVILLAGE INCは、僻地でのキャンプを得意としているんですね。
無人島や半島の先っちょなど、人から「こんな場所はやめた方がいい」と、そう言われる場所ほど可能性を感じてしまうんですよ(笑)

土合駅は施設としてのポテンシャルがとても高い。そこにキャンプをうまく絡めたら「駅×キャンピング」として新たな形のキャンプを生み出せると考えました。

ーーたしかに駅でキャンプができるなんて聞いたことがありません。

画像6▲グランピングエリアの真横には線路が通っており、電車をすぐ近くで見ることができる

ーーインスタントハウスはどのような経緯で導入することになったのですか?

うちの西伊豆のキャンプ場で、インスタントハウスのテストモデルを設営していたことがきっかけですね。DOAI VILLAGEの構想段階で、インスタントハウスを客室として置くことは決まっていました。

春先に実験営業を行い、雪の中でも大丈夫なことを確認しました。
DOAI VILLAGEではサウナも楽しめるのですが、水風呂の代わりに雪に飛び込むと最高に気持ちがいいんですよ。

画像7▲グランピングエリアに設置されたサウナ。本格的なフィンランド式サウナが楽しめる

これまでのグランピングって、比較的「動」のコンテンツが多かったと思うんです。でも今回、「サウナ×雪」という「静」のコンテンツができたことで、冬場の新しい形のキャンプとして魅力を発信できたのではないかと思いますね。

ーー日経の2021年ヒット予測では、DOAI VILLAGEの「無人駅&辺境グランピング」が1位に選ばれましたよね。

「何もないこと」がこれからの旅行の最先端になる、と評価いただき本当にうれしかったですね。
その受賞においても、インスタントハウスは大きな役割を果たしてくれたと思います。

環境に合わせて誕生した「ウッドデッキ×インスタントハウス」のオシャレな組み合わせ

ここからは、インスタントハウスが設置されているグランピングエリアを実際に歩きながらお話を伺います。

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ーーインスタントハウスまでウッドデッキが伸びていてとてもオシャレですね。
このウッドデッキが生まれた背景も、実はこの土地ならではの理由があるんです。
地面を見てもらうとわかると思いますが、ガレキがたくさん埋まっていますよね。

画像9▲あたりにはゴツゴツとしたガレキがたくさん埋まっている

この場所はトンネルを掘る際に出たガレキを置く場所だったんです。

ガレキが多いと、インスタントハウスやテントを地面に設置しにくくなります。そこでウッドデッキを作り、その上にインスタントハウスを固定することで解決しました。
結果的に雰囲気も良くなりましたし、冬場は2mを超える積雪の影響も受けにくくなり一石二鳥でした。

画像10▲雪が降るとこんな感じになる(写真提供:DOAI VILLAGE)

画像11▲上空から撮影した様子。ウッドデッキの広がりが美しい(写真提供:DOAI VILLAGE)

インスタントハウスの良さは「いつでも安心して泊まってもらえること」

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ーーインスタントハウスを導入してよかった点について教えてください。

安心してゲストに泊まってもらえることですね。
テントと違って風に飛ばされる心配もありませんし、中の広さも十分にあります。

それに冬場は、テントだとヒーターを使ってもなかなか暖まらないんですよね。
その点、インスタントハウスならまったく問題ありません。

画像13▲ベッドであえて寝袋で寝るスタイルが人気とのこと

ーー宿泊したゲストからの感想はいかがですか?

「冬でも半袖で寝れました」
「雪の中でも快適に寝られるんだ」
「包まれている感覚が落ち着く」

といったお声をいただき、アンケートも大満足な回答ばかりです。
見た目の可愛さも喜んでもらえているようですね。

画像14▲窓から優しい光が差し込み、あたりからは鳥の声も聞こえてくる

ーー泊まりに来るユーザー層はどんな方が多いのでしょうか。

大きな特徴は「鉄道ファン」が多いことですね。
「土合駅でまさか泊まれるなんて」というお声をよく聞きますし、ここまでの交通手段も8割の方が電車を使っていらっしゃいます。

電車で移動して土合駅で降りる、その過程も含めて楽しんでいただけているようです。

画像15▲電車が走っている様子をインスタントハウス内の窓から見ることができる

地域には「とりあえずやってみよう」の精神があふれている

画像16▲美味しいコーヒーを淹れてくれる、スタッフのあづさん(左)とぼんさん(右)

ーーDOAI VILLAGEでは、今後どのような展開を考えていますか?

地域とのハブになるよう場所になれたらいいですね。

そもそも、DOAI VILLAGEはこの場所だけでは完結しない施設だと考えているんです。
つまり、町の魅力的な場所を訪れてもらったり、アクティビティを体験してもらったり、そうやって地域全体を盛り上げていく必要があると思っています。

町の人たちも「とりあえずやってみよう」の精神を持っていて、本当に心強い。
とにかく元気ですし、未来に向けて「水上という地域をどうにかしないと」という危機感を持っています。だから連携もスムーズで、協力しながら取り組みを進めることができるんです。

ーー危機感をポジティブに捉えられるのは素晴らしいことですね。

はい。なので、この水上という地域を一緒に盛り上げていきたいと思いますし、インスタントハウスだって水上の事業者さんが導入してくれたらうれしいですよね。
「水上は冬の雪の中でもキャンプで泊まれるエリア」という認知が広がったら、それは地域においても新しいブランディングになることだと思うんです。

画像17▲地域のクリエイターが有志で制作している雑誌

画像18▲地域の取り組みや人にフォーカスし、熱量が伝わってくる内容になっている

編集後記

「こんな山奥に、こんな面白い施設があるのか」

今回DOAI VILLAGEならびに土合駅を訪れた感想を一言にまとめるとこうなる。

世間からは見放された場所だとしても、新たな設備やサービスを加えることで魅力的な場所に生まれ変わる。アイデアややり方次第で、まだまだ新しい価値は生み出していけるのだと、そんな勇気をもらえた。

駅としてのポテンシャルが高いだけでなく、駅直結でグランピングをしようという発想が突き抜けている。その自由な発想にインスタントハウスを加えていただけたことが本当にうれしかった。

DOAI VILLAGEのさらなる進化と深化が楽しみだ。

DOAI VILLAGEホームページ

インスタントハウスについて詳しく知りたい方はこちらからどうぞ

《文・写真=長濱裕作

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