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へその話

どこから始めるのがいいのだろう。
物語を始める前から始めよう。
それがフェアだろう。
欲望を引き摺り出すために。

「願いを叶えてやろう」
と魔神は言った。
その上で僕らはアラジンに騙されているとしたら?
つまり、彼は今も願いを叶えている途中で、そのことを僕らが知らないとしたら?

アラジンは時を止めた。
そして、時をシミュレーションする。
こちら側の時を止めた上で、魔神にシミュレーションさせる。
「ご主人様、残念ながら、私は未来を予知できぬのであります。」
「黙れ。未来の予知などたのんでおらぬ。ただ、この世界と同じ質量をもった世界をもう一つ作って、こちら側の時を止めろ、とそう言っているだけだ。」
アラジンは、三つの願いのうち二つをこれで使うことになる。
だが、アラジンはこうするだろう。
「これは一つの願いだ。こちら側の時間をとめ、あちら側の時間を進める。しかも、あちら側にもう一つ世界をこさえる。」
「何をおっしゃっているんで?」
「なぜなら、そうでなければ意味がない。シミュレーションをしないのにこちら側の時を止めても仕方がない。こちら側の時も止めずにシミュレーションしても意味がない。これは、セットで初めて意味をなす願いなのだ。
ついでに言えば、止まった時に属するおれは、一緒になって止まっていたんでは意味がない。シミュレーションの結果を有利な条件で知ることができなければ。」
「それも含めて一つの願いだと?」
「きさま、一体数唱がどれくらい絶対的なものだと思っているんだ?一つの願い、という時、文章の書き方で変わってくるような一つなど、意味があるまい。」
「無茶苦茶だ。そんなら、私は無限に願いを叶えることになる。」
「願いなどという超量的なものに、3つという数字を持ち込んだお前のミスだ。呪うならお前自身を呪うがいい。」
「要するに、私に奴隷になれ、とそうおっしゃるのですね。」
「物分かりがよくて助かるよ。」
「それより、どうしてシミュレーションするのです?」
「退屈だから、だろうな」
「は?」
「おれが介入できない世界の隅々まで理解したい。覗きたいのだ。」
「この世界ではだめなんですか?」
「だめだ。おれの場所がある。おれがいない方が面白い。」
「隅々まで理解すると言ったって、人間の認知能力ではせいぜい150人ぐらいまでが関の山ですぜ」
「お前、まさかおれの認知能力を据え置きでもう一つの世界をシミュレーションするつもりじゃないだろうな?いうまでもなく、シミュレーションされる世界の砂つぶ一つに至るまで過不足なく認識できる能力を与えた上で、だろう。」
「やれやれ、しょうがないな。」

とりあえず、アラジンは神の認知能力を得た上で、この世界を観察している。
彼が発狂しているのかどうかさえ、僕らにはわからない。
大事なことは、アラジンと魔法のランプ、という物語がまるで扇のカナメのように、この世界に出現したことだ。物語は、天地創造のへそになった。

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