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突然イングヴェイがわかった話

ぼくがまだ高校に在籍していた頃、周りはならず者ばかりでピザを食ってはコカ・コーラを飲んでゲップし、「Wahaha!!!」とバカ笑いするような連中ばかりだった。

恥ずかしながらぼくもその中の一人で、そんな連中と一緒に授業中でもメタルをバチクソに聴いていた。

なぜかメタリカ、メガデス、スレイヤー、パンテラ、ソドム、メロデス化する前のカーカスや、ナパームデスなどを聴き倒していたし、憑りつかれたようにコピーもしまくっていた。

みんな、速きゃいいんだよクソッタレ、という感じで楽しく汚ねえ音を出してとにかく生き急いでいた。

ところがですよ。

ある日、超絶技巧ギタリストのTくん(顔もよかった)により、「流麗なギターの速弾き」というぼくの最も嫌いなものが持ち込まれてしまったのだ。

まず、ギターが速すぎて何を弾いてるのかゼーンゼンワカラネ(唐突なローマン要素)。そしてメロディのある音楽なんてクソオブクソだぜ、と本気も本気で思っていたので、いわゆる美しさみたいなものがまっっったく理解できなかった。

しかしくやしいので調べてみるとハーモニックマイナーやフリジアンなどに代表される「クラシカルな響き」が持ち味らしいが、それが何なのかまったく聴き取れないし、何をやっているのかも全然理解できなかった。

なにしろ、当時はメタリカメガデスが女子供にも世界一聴きやすいマイルドな音楽だと本気で思っていたのだ。「ドとレなんて全音しか違わねえんだから細かいこと言うんじゃねえよ」みたいな会話が本気でされていた。

それでもクラシカル革命以降、会話についていくために比喩じゃなくて365日、寝る時はイングヴェイに代表されるネオクラ系の曲(アチエネ、カーカスのHeartwork、Youthquakeなど)を聴いて眠っていたし、起きるのがめんどくさくなって学校をやめてしまってからもそれは続いた。

もちろん、何をやってるのかは一向にわからないまま、焦燥感と家族からのうるさくて眠れない、という声にうるせえ死ね、と返すやり取りだけが増えていった。

そんなある日、突然転機が訪れる。

一晩中リピート再生して、夢うつつに聴いていたギターソロが、明け方不思議とハッキリと聴き取ることができ、その扇情的で起伏豊かなメロディ、さらには一音一音に込められた情念のようなものや、弦が空気を切って振動する音まで聴き取れるように感じた。

(なんだこのビブラートは…まるでギタリストの魂の声のようだ…)

ギターソロでフェードアウトしていく曲に対して、「終わらないでくれ、もっと聴かせてくれ!」と本気で思ったのを今でも覚えている。

そして。

その日から、音楽の聴こえ方がガラッと変わった。
ほとんどの速弾きは、ギター片手に頑張れば聴き取れるようになったし、特定の楽器だけを聴こうと思えば聴き取れるようになった。
(ただし、あまりにも速すぎるのは今でも苦手)

あの時、ぼくに何が起きたのかは判然としない。
一つ仮説を立てるなら「睡眠により、認知のフィルタが削ぎ落とされていた」ということだと思う。

よその家に遊びに行くと、最初は声の響き方に違和感があったりすると思うけど、そのうち気にならなくなる。

これは脳が「ここいらない」って補正しているからだと思うんだけど、普段音楽を聴く時にも少なからず脳の補正が影響していると思っている。

睡眠により脳の活動レベルが低下して、そのまま音が入ってきたことと、経験値による耳の成長が結びついて一気に開花したという解釈をしている。

ともかく、それまで「こんなの売れ線のポップスじゃねえか」と毛嫌いしていたような健全な音楽、例えばニルヴァーナやレイジ、サウンドガーデン、エミネム、アンダーワールド、ボンジョビやエアロまでめちゃくちゃ聴くようになったし、驚いたことにマライアやデスチャ、TLCのような女性ボーカルまで味わって聴くことができるようになった。

※この辺の振り幅がおかしいのは、中学~高校時代の同級生であり悪友であるYくんの影響が大きい。ただし彼は楽器はできないし、なんならカラオケで歌えないレベルの音痴だ

このころから邦楽も聴くことができるようになり、B'zやHitomi、安室奈美恵に始まって小泉今日子や中森明菜まで聴くようになった。

そのうち、ドラムやベースなどの音も、普通の音楽好きな人より聴こえる、味わえてるのではないかと思うようになった(場合によっては、音が見えていたり手触りがあるように感じることもある)。

また、ギターを弾いていたことで、相対音感もかなり成長したと思う。
絶対音感は、Aだけはわかるようになった。

ぼくの音楽能力は、未だに決して高くない。
だけど、耳だけは少し音楽向きかも知れないと感じている。
少なくとも9割の人より、音も音楽も楽しんでいる自信がある。

そして、一番伝えたいこととして、これは完全に後天的に獲得したものであり、才能なんかでは全くない。

今まさに、音の壁にぶち当たってる人もいるだろう。
才能がないと嘆いている人もいるかもしれない。
しかし、絶対にいつかそれを乗り越えられると信じているし、少なくともぼくは心から応援している。

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