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インサイドセールス人材育成の手順とトレーナー適正

はじめに

書籍やWebで情報を漁っても意外と見つからないインサイドセールスの育て方…
そもそもインサイドセールスを専門で育成してきた現場トレーナーって割と希少。
希少な理由はシンプルに、現場に予算を持たないトレーナーを常設する、つまり人材育成への長期的な投資をし続けられるIS組織自体がそんなに多くはないからではないかと思います。

そんな背景から、私自身も「これがいい!」となるまでにかなりの試行錯誤を要しました。
何せ先人が少ない。誰かの体験を参考にしたくてもその「誰か」が圧倒的に少数派。

今回はインサイドセールスアドベントカレンダーの企画に乗っかって、せっかく貯まった私の経験をアウトプットしたいと思います。




私の経歴

改めて、上記を語る前にお前は何なんだよ?という方が多いと思いますのでちょっとだけ私の経歴を。

Web上には所属会社を明らかにしておりませんので実名は避けますが(知ってる方は「そうなんだな」とだけ思っててください)、現在までにIT系中小~大規模企業でのインサイドセールス及び同SV、トレーナーとして11年働いてきています。
取り扱い商材はオンプレソフトウェアからSaaS、PaaS製品など主に無形商材です。

その中で割と珍しい専業ISトレーナーとして上記の複数社で延べ100名に届くくらいの新人インサイドセールスのオンボーディングにも直接携わってきました。
改めて数えてみたらなかなかの数字になってましたね。

そして最近は自らオンボーディングしたメンバーを、更にインサイドセールストレーナーとして育成するという機会にも恵まれました。
幸せですね。


インサイドセールスを育てるぞ!まずは何する?

未経験の新人を、インサイドセールスとして一人前まで育成しようとする時、まずは何が必要でしょうか?

  • 製品知識?業界知識?

  • オペレーションルール?

  • 電話のマナー?

  • トークスキルのインプット??

早く知ってほしい、どれも大事だから沢山研修を組もう!
ルールを覚えてほしいから一覧表にして資料として展開しよう!

どれも確かに必要ですし、研修も資料も大事なので間違いではないです。
が、それよりも何よりも先にやることが他にあります。


育成のゴールを決める

まずはそう、目指すところを決めます。
ゴールが決まらなければ走る方向が決まりません。

育成におけるゴール、つまり「どこまで育成するのか」ということです。
基本は「いつまでに」「どこまで」、つまり、育成開始からどのくらいの期間でどんな人材に育っている状態にしたいのか、これを決めます。

例えば、
期間:入社から三か月以内
状態:独力でKGIを100%達成できる

などと決めてみます。

この時に状態は可能な限り詳細に詰めておく方が後々やりやすくなります。

「独力でKGIを100%達成できる」を分解すると以下のような細かい状態定義(どんな人材に育っている状態にしたいのか)が見えてきます。

・自社の要求する水準程度の提案力がある
 →基本のセールスマナーが整っている
  自社製品知識や競合知識、業界知識などを理解している
  顧客から状況をヒアリングすることができ、課題に沿った提案ができる
  
・KGI達成のためのKPIを日次で達成できる
 →KGI達成のための行動量目標に対して逆算し、行動設計ができる
  設計した行動量を達成できる
  オペレーションルールを理解し実行できる

このように、ある程度具体的なところまで「どうなっていてほしいか」を決めたら、次はそれを踏まえた体験設計に移っていきます。


育成期間の体験設計をする

セールスにおいて、「顧客体験設計」や「カスタマージャーニー」という言葉をお聞きになったことはありませんか?
上記の言葉は顧客が製品・サービスと出会い、そこから購入・契約に至るまでの道筋を設計するという意味合いなのですが、ここではそれを入社者(新人さん)で設計します。

入社した初日から、一週間目、二週間目、三週間目、一か月経過時、二か月経過時…など、求めるスピード感にもよりますが、早期のオンボーディングを求める場合は特に一日(半日)単位レベルでの設計をしたりします。

どのくらいの時期にどんな行動をし、どんな体験をして、どんな感情を持つかまで詳細に想像、想定することがとても大事です。

これをすることで、どんなタイミングでどんな支援や介入をするのが良いのか明確になると共に、育成の俗人化を防ぐ第一歩にもなります。


ここまで来てようやく具体的な研修設計に移る

理想(ゴール)と現在地、そしてゴールへの到達イメージ(段階)が見えてきたら、ここでようやく具体的な研修設計です。

先に決めたゴールに体験設計のタイミングを組み合わせ、必要な時期に必要な研修を実施するよう組み立てていきます。

ここは、タイミングと内容を思考して研修や介入を実行し、その結果が想定通りなのか、以上以下なのかを分析しながら改善するPDCAサイクルが回しやすい部分です。

より細かくやるのであれば、各研修ごとに「研修を受けてどうなってほしいか」というゴールと研修時間内での体験設計もしておくと改善の精度は上がっていきます。


インサイドセールス部門で育成をする価値

おそらく上記の研修設計の部分が皆さんが「トレーニング」と言って最初にイメージするところなのではないかと思いますが、前述の二つを飛ばしてここから初めてしまうと、「ただマニュアルを渡すだけ」のトレーニングになってしまいます。
優秀な個人であればそれでも勝手に育つのですが、そういう人はそもそもトレーナーがいなくても自力で育てる人です。天然モノの天才です。

私は、組織の人材育成においては「どこに行っても活躍する天然モノ」が採用できることを期待することに価値は無いと思っています。
天然の優秀人材は勝手に伸びるので育成として介入する効果がそもそも薄く、またそういった人材が採用できないことには人が育たないということになってしまいます。
つまり採用の敗北がそのまま組織の営業力の敗北に繋がるのです。

採用を強化するのも一つの打ち手ではありますが、仮にそこをがんばったとしても、それだけではこれからの超少子高齢化社会、それに伴う労働人口減少にビジネスは耐えられません。

だからこその育成です。
「優秀と言える人を安定して養殖すること」が育成に投資する価値です。
いつ採用できるかわからない天才を待つよりも、意図して優秀な人材を安定して生み出せる(育成できる)、それがトレーナーが存在する価値でもあると考えます。

上記のような育成力がある会社には結果的に上昇志向や成長意欲の高い人材が集まるので、その結果天然天才も入ってきやすいという面もあります。


インサイドセールスは育成のPDCAも回しやすい

ここまで書いてきたこと、実は別にインサイドセールスに限った話ではないです。
どんな職種、どんな組織でも人を育てようと思ったら必要な話です。
とはいえ、ここはインサイドセールスならではの話もしたいところで、それがPDCAサイクルの高速化の部分です。

よくインサイドセールスは通常の対面型の営業と違ってより多くの顧客により多くの提案機会があるためセールスとしての場数を踏むことができ、成長が早いことがメリットとして挙げられます。
これと同じことが育成でも言えるのです。

インサイドセールスが経験する大量の場数(商談)。
それがインサイドセールスでは既に可視化されており、ある程度そのフローは体系化されていることが多いです。
顧客情報と接点情報が登録されるSFAやCRMが存在し、行動量や成果も明確にデータ化されて、かつ蓄積されている状態。更には録音ツールなどで顧客とのやり取りすらも第三者が容易にモニタリングし、客観的に振り返ることが可能です。

それゆえに、自社にとっての理想のセールス像(育成のゴール)が決まれば、様々な可視化された情報から現状を洗い出し、理想との差分を明確にし、課題設定、それに対する打ち手と効果測定など、育成のPDCAを回していくことが容易になります。

恵まれた環境(機会が多い、現状を可視化しやすく施策の効果測定もやりやすい)の中で育成のPDCAを回し、多くのケースを蓄積することで、会社にとっての人材育成のモデルにも展開していけると思います。


インサイドセールスの育成に向いている人ってどんな人?

では、いざインサイドセールスの育成をしようとなった時、どんな人が育成者の適性があるのでしょうか?

基本的に上記で書いてきている育成はトップを伸ばすのではなくボトムを上げる育成です。
つまり、たまたま採用できた天才や早期に活躍できるスピード成長型人材を突き抜けさせることに注力するというよりは、成果が出るまで少し時間がかかるタイプの人材の活躍タイミングを早い段階に引き寄せたり、現場任せの雑なOJTでは成果が奮わないタイプの人材を丁寧にフォローすることで成果を挙げられるように伴走するようなイメージです。

そんなタイプの育成に向くのでは?と個人的に思っているのが以下のキーワード。

①凡事徹底
日々の日報などの振り返り、オペレーションの徹底はもちろん、インサイドセールスとして顧客接点を持ち続けるためにアプローチタイミングを厳守するなど一つ一つは細かいことを自ら徹底できること。
ついでに好奇心をもって徹底すべき凡事が「何故徹底すべきなのか」の会社としての理由を取りに行ける人だとなお良いです。

②データ分析が好き
育成を一対一のケースで終わらせず、会社の財産となる型化へ向かうためにも必須なデータ分析。
必要なデータを収集し、欲しい結果のために見るべきものを見ていくこと、それをストレス無くできることは重要です。

③アウトプットが得意
せっかく色々知っていて、色々自分で完璧にできても、それをアウトプットし、人に伝えられなければ人に影響を与えること、つまり育成することはできません。

④想像力が豊か
アウトプットにもつながることですが、自分の行動が相手に与える影響を想像し、伝えたい相手に伝わりやすい伝え方ができることはとても大切です。また相手の感情、行動の理由など数多の可能性を想像できること。人を相手にする育成者だからこそ、自分の価値観だけを相手に押し付けてしまうのは良くないことです。

⑤意外とドライ
最後はちょっと意外かもしれませんが、ある程度人に対してもドライであることも結構大事です。
人に寄り添い、人の気持ちを考え、人を支援する育成者ですが、あくまで人は人、と切り分けられるドライな部分が無いと危険です。
人のネガティブに共感しすぎてしまったり、マイナスのスパイラルに一緒にはまり込んでしまっては良い育成にはなりません。


さいごに

長々書いてきましたが、人を育てるってとても楽しいことです。
冒頭でも触れていますが、私自身プライベートでは3歳になる娘を育てながら現在の所属会社の「ISの母」を目指し、ちょっとした(小規模な)企業の社員数くらいの入社オンボードに直接関わらせて頂いてきました。

インサイドセールスが語られる時、必ずその利点として挙げられる「量」の観点。
同じことが育成にも言えるなと、改めて感じています。
何事も、「どれだけの事例を経験できるか」、これに尽きますね。

育成の専門人材を置くことは、組織の規模により難易度が高いケースも多いと思います。
ですが、なにも専任でなくとも、育成のフローを設計し、形さえ整えてしまえばあとはやるだけです。

人を育てることに真剣になるとき、おのずと自分とも真剣に向き合うことになります。
一社でも多く、一人でも多くの人が、人を育成することに真剣になる世界になればいいなと思います。


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