本が苦手な人にこそ知ってほしい現代詩の読み方
「現代詩あがりかまち」では小説や俳句などに比べてとてもニッチな文芸である”現代詩”について、現代詩を読んだことがない人にもわかりやすいように簡単に、気軽に触れられるような記事を投稿していく予定です。ゆくゆくは小説などと同じように現代詩を読む人が増えるといいなあと願っています。
(ちなみにあがりかまち(上がり框)というのは玄関の上がり台の側面に付いている木板のことです。気軽に現代詩に触れてもらえればという願いを込めていますがそれほど深い意味はありません。)
さて、初回となる今回は現代詩の読み方について書いてみたいと思います。
先にこの記事の中で述べている、現代詩を読む上で意識すると良いと思われるポイントについて3つにまとめてみます。
1. 全部を理解できなくてもいい
2. 一篇(一つの詩)の中に好きなフレーズが一つ見つかれば万々歳
3. 現代詩は読み捨てるもの
少し長めの記事なので、もし読む時間がないという方は上の3つのポイントだけでも覚えて帰ってもらえればと思います。もし時間のあるかたはここから下もぜひ読んでみると、もっと詳しく現代詩というものについて知ることができるかと思います。
現代詩ってなんですか?
そもそも現代詩という言葉にあまり聞き馴染みのない人も多いかもしれません。ためしにGoogleで現代詩と検索してみると…
検索候補の欄に「現代詩 意味不明」というワードが出てきます。現代詩を読もうと思ってもそもそもまともに読むことすらできない人が多いという現状が、端的に表されていると言えるでしょう。
ひとまず現代詩とはどのようなものなのか、有名な詩人である中原中也の詩を引用してみます。
何、あれはな、空に吊した銀紙ぢやよかう、ボール紙を剪つて、それに銀紙を張る、それを綱か何かで、空に吊し上げる、するとそれが夜になつて、空の奥であのやうに光るのぢや、分つたか、さもなけれあ空にあんなものはないのぢや
(中原中也 星とピエロ 冒頭より)
歴史的仮名遣いについてはそれとして、内容のほうはどうでしょうか。「空に吊した銀紙」や「それが夜になつて」など、抽象的な語句が使われていて少々理解が難しく思われるかもしれません。
またこの中也の詩は語り口調のような形で、文章の中にそれなりに論理が通っているような印象を受けますが、一方で小笠原鳥類という詩人は以下のような詩を書いています。
敵が増大している(一般論です
自分にとって嫌なものは、自分の中で
ふくらむ(犬の卵(犬の卵(犬が
嫌いなので、それについて語ろうと
思っているのですが、犬が好きな人が
「残念ながら」多いので、個と普遍の
…(後略)
小笠原鳥類詩集 犬より
ここまでくるともはや文章としての言葉というよりは、言葉一つひとつが持つ意味や属性を断片的に継ぎ合わせただけのようにも感じられます。
ここまで読んだ読者の方もひょっとすると、「現代詩って難しい…意味がわからない…」と思ってしまったでしょうか。申し訳ありません、もう少しだけお付き合いください。
現代詩は理解できなくてもいい
「本を読む」と聞いてまず思い浮かべるのは、小説やビジネス書などを読むという行為だと思います。またこれらの文章は誰しも一度触れたことがあるものかと思います。
たとえば小説なら物語という一つの軸があり、ビジネス書にもその本の中で伝えたい情報という大きな軸が存在しているはずです。わたしたちは普通これらの本を読む時、その物語や情報を理解しようと心がけながら読み進めると思います。
しかし現代詩(詩)には必ずしもそういった軸が存在していません。しかしここで「現代詩は理解できないもの」だと思ってしまってはもったいないです。つまり考え方を変えてみて、「現代詩は理解できなくても良いもの」としてみます。
現代詩はインスト曲のようなもの
例えるなら現代詩を読むことは音楽を聴くこと、それも歌詞のない曲を聴くことに近いと言えます。音楽を聴くときに、その中に何か論理的な意味を求め、それを理解しようとする人はあまりいないと思います。勿論そういった音楽の楽しみ方を否定するつもりはありません。
現代詩は言葉による芸術です。言葉の意味を理解しようとするのではなくて、読者がその言葉を読んだときに感じられる象形のようなもの、それが現代詩の本質ではないかと思います。たしかにわたしたちは普段、言葉の大部分を論理的な活動のために使用しています。それはたとえば他者とのコミュニケーションのためだったり、何か情報発信をするためだったりするでしょう。しかし言葉と論理は不可分ではありません。
心理学の分野でブーバ・キキ効果と呼ばれる有名な実験があります。これはギザギザした形とスライムのような丸っこい形の二つの抽象的な図形を見せられたときに、どちらがブーバっぽくて、どちらがキキっぽいでしょうかと問うと、被験者の母語や年齢に関係なく、ギザギザのほうをキキ、丸っこいほうをブーバと名付けるというものです。
この実験からわかるように、そもそも言語というものはその音韻的な要素に、論理とは遠く乖離したかなり本能的な部分と結びつくものを持っています。これはおそらく現代詩においても無視できない要素であり、つまり言葉そのものから受け取ることができるイメージなどと密接に結びついていると言えるでしょう。
すみません、話が少し込み入ってきてしまいましたので本筋に戻ります。
先ほど「現代詩は理解できなくても良いもの」と述べましたが、これは必ずしも読み手の怠慢を誘引するものではありません。つまり現代詩の一篇の中にも、論理的に理解できる部分とそうでない部分があります。場合によっては、短い小説などとあまり区別がつかないようなものもあります。ですから「全く解釈なんて存在しないんだ、適当でいいんだ」ということではありません。これは難しいところですが、気を張らずに、詩の世界に緩やかに自分を交差させるような姿勢が大事かと思います。
現代詩を読み始めるには
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。「現代詩を読んでみたい」という方は以下のような感じで、現代詩を読み始めてみるといいかもしれません。
1. 詩人を探して詩集の単行本を買う
詩集というのは悲しいかなあまり発行部数のでないものなので、文庫化されているというのは結構稀です。たとえば現代詩人の中で(おそらく)Twitterのフォロワー数が一番多い最果タヒさんという方だと、文庫化されている詩集もいくつかありますが、基本的には単行本で買うことになるかと思います。若手詩人の方だと以下の方々なんかがおすすめです。
・最果タヒ(@tt_ss)
・文月悠光(@luna_yumi)
・水沢なお(@mizusawanao)
・マーサ・ナカムラ(@e_dokkoisyo)
(敬称略)
2. 現代詩の月刊誌を買って読む
好きな詩人を探すのが難しいという方はひとまず現代詩の雑誌を買ってみるのもいいかもしれません。
有名なところだと思潮社から出ている『現代詩手帖』、また土曜美術社出版販売から出ている『詩と思想』などがあります。この2つの雑誌は少し毛色が違って、前者のほうが少しフォーマルで、後者のほうが少しリベラルでバラエティ豊かという印象です。また青土社から出ている『ユリイカ』という雑誌も、詩の専門誌ではありませんが現代詩について取り扱っています。
3. Kindleで無料で読む
先ほど引用もしましたが、中原中也の作品など、パブリックドメインになっているものも多く存在しています。近年の作品に比べると語彙や言葉遣いがやや難しいかもしれませんが、無料で読むことができるのでこちらから入門してみてもいいかもしれません。
4. noteで読む
このnoteというプラットフォーム上でも「現代詩」などのタグで検索すると多くの作品が投稿されているのがわかります。まずは気軽にどんな雰囲気なのか知りたいという方はこちらで読み始めるといいかもしれません。
5. 公募掲示板などで読む
小説家になろうのような掲示板型のサイトが現代詩にも存在しています。有名なのは以下の2つのサイトでしょうか。
・B-REVIEW
・文学極道
サイトを実際に閲覧していただければ一目でわかるかと思いますが、前者は比較的ライトな雰囲気、後者は硬派な雰囲気です。わたしは個人的にこれらのサイトをあまり使用したことはないのですが、開設されてから日数が経っているのでそれなりの作品数が閲覧できるかと思います。
おわりに
これを読んでくださった方が少しでも現代詩というものについて知って、また興味を持っていただけたら幸いです。現代詩あがりかまちでは今後も現代詩のおすすめ情報や作家情報について記事を更新していく予定ですのでぜひお楽しみに。
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