【和歌で学ぶ古文3】あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む

今回紹介する和歌は、「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」という和歌です。

この和歌の作者は、万葉集時代で最も優れた歌人として評価されている、柿本人麻呂です。

和歌の評価はかなり高い柿本人麻呂ですが、その経歴は不明なところも多く、なぞの多い人物となっています。

残された資料の少なさからみて、身分はあまり高くなかった、というのが通説ですが、以前紹介した「春すぎて」の作者、持統天皇は彼を重宝したらしく、天皇を讃える歌を多く作らせていました。

柿本人麻呂はその生涯でたくさんの名歌を作っていますが、その中から百人一首に選ばれたのが、今回紹介する「あしびきの」の歌です。

意味

山鳥の長く垂れ下がった尾のように、長い長い夜を一人で寝るのだろうか

山鳥というのはキジの仲間で、オスは長い尾羽を持つことが特徴です。

そんな山鳥の姿を歌に詠みこむことで、その後に出てくる「長々し夜」という言葉をより際立たせることができます。

こういった和歌の技法を、序詞(じょことば)といいます。

現代語に訳すときは、「~のように」や「~ではないが」という風にすると、うまくいくことが多いです。

学びポイント

ポイント1

学びポイントの1つ目は、「あしびきの」です。

これは、「枕詞」といって、次に出てくる特定の言葉を際立たせるために用いられる語句です。

先ほど紹介した序詞と似ていますが、文字数が4文字または5文字と短い、修飾する言葉は伝統的に決まっている、現代語に訳すときは基本無視してもよい、などといった違いがあります。

今回使われている「あしびきの」は、「山」や「峰(を、と読みます)」といった言葉にかかる枕詞です。

ポイント2

学びポイントの2つ目は、「かも」です。

疑問を意味する係助詞「か」に、強調を意味する「も」がくっついた形です。

意味的には単純な疑問形、つまり「~だろうか?」に訳せばよいでしょう。

ここで重要なのは、意味ではなく、係助詞の性質です。

係助詞というのは、文末の動詞や助動詞の活用形を変えてしまう、という特徴があるのです。

係助詞にはいくつか種類があるのですが、「こそ」という係助詞以外は、文末の活用を、終止形から連体形に変えてしまいます。

今回でいうと助動詞の「む」が連体形になっているのですが、この「む」という助動詞は、終止形と連体形がどちらも「む」なので、見た目上は特に変わりありません。

意味的には疑問の意味が付加されるだけなので、文末の活用形の変化など気にしなくてもいいのですが、受験で古文が必要な場合はよく問われるところなので、覚えておくのが吉です。

ポイント3

学びポイントの3つ目は、「む」です。

「む」という助動詞には様々な意味があるのですが、ここでは推量(~だろう)です。

「せむ」「来(こ)む」「寝む」など、未然形に接続することが「む」の特徴です。

また、読み方は「む」ではなく、「ん」となります。

ちなみに、古文でよく勘違いされるのですが、古文で「寝る」という意味を表す単語は、漢字一文字で「寝(ぬ)」といいます。

未然形や連用形は現代語と同じで、「寝む」や「寝ず」という風に使えるのですが、「寝る」という単語は、古文では出てきませんので注意してください。

鑑賞

ここまで散々、柿本人麻呂の歌として解説してきたこの歌ですが、なんとこの歌、天智天皇の「秋の田」と同様、柿本人麻呂の作品ではない、というのが通説だそうです。

拾遺集という勅撰和歌集には、人麿(柿本人麻呂のこと)の作品として載っているのですが、もともとは万葉集に「詠み人知らず」、すなわち誰が詠んだか不明な歌、として載っていました。

これは後世の人が、「この歌なら人麻呂が読んでてもおかしくないだろう」という評価をしていたことの、裏返しでもあります。

先ほど紹介した序詞もそうですが、それ以外にも最初の「の」の連続が心地よいリズムを生んでいるとともに、なんとなく間延びした、長い印象を与えてくれます。

さらに、序詞にでてくる山鳥には、昼間は一緒にいるオスとメスが、夜になると谷を隔てて別々に寝る、という習性があると信じられていました。

つまりこの歌の山鳥には、「長い夜」と「夜に一人で寝る」という2つの意味がこめられているのです。

こういった言葉選びのセンスを見ると、この歌は伝説の歌人である柿本人麻呂の作に違いない、と思ってしまう当時の人たちの気持ちがわからないでもないですね。

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