恋文

冬の海を見たくなった夜犬は昼犬に手紙を託した。手紙は昼鳥ではなく夜鳥に宛てられているが、見たいのは朝の海だと夜犬はこぼしていた。ちなみに所謂「狙い目」の鳥には関心がないという夜犬。在りし日の思い出(月下美人)が昼犬に恋心を抱かせていたが、それにしても注文の多い人ね、と夜犬をなじる。昼犬はそれでもちょっぴり切ない恋心に翻弄され、私にできることは何かしらと頭を悩ませていた。

とにかく、私の存在する昼の間に海を訪れないと。秋田犬である昼犬にとって冬の海は荒々しい日本海であったが、夜犬の求めている海はきっと穏やかな海。しかも夜鳥を見つけて話しかけることが昼鳥を見つけることよりも遥かに難しく、狙い目の鳥やごきげん鳥との区別もつかないことにも気づく。途方に暮れる昼犬。

私ってダメね。自暴自棄になり、いけないことと知りながらも、夜犬のしたためた手紙を開封する。もう彼にどう思われても構わない。それに、彼は私を弄んだのだもの。

あなたがこの手紙を読むのは、夜も更けた静寂の時間に違いありません。僕が日の光に相応しくないことは周知の事実。光を愛する優しいあなたは、さめざめと泣き、海を諌めながら、翌朝の海が凪いでくれるよう、祈りを捧げることでしょう。以前、あなたが僕にそうしてくれたように。

僕は、あなたの隣で、毎日、朝を迎えたいのです。僕らは鳥になれるのでしょうか。


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