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『グレイナーの5段階企業成長モデル』の論文『企業成長の”フシ”をどう乗り切るか』を読んで急成長スタートアップの組織開発に示唆を得る

現在スタートアップで人事をしていますが、組織の成長速度や変化も甚だしく、それに起因する組織課題も当然発生したり、予見されたりしています。

そんな中、組織課題に対する打ち手を検討する過程で『グレイナーの5段階成長モデル』として知られているモデルを添えて組織論を示している『企業成長の”フシ”をどう乗り切るか』というラリー・E・グレイナー氏の論文にあたりました。

スタートアップをはじめとする急成長企業で組織課題に向き合う人事やマネジャーの方などにとっては有意義な示唆を得られる文章な気がしたので、その紹介をしつつ、個人的な感想も添えて書いてみようと思います。

はじめに

この論文では、成長する組織が5つの発展段階を経ていくという主張のもと、それぞれの特徴をまとめています。巷では『グレイナーの5段階企業成長モデル』という名前で浸透しているため、こちらを知っている方も多いかもしれません。

私もこれまで名前と概要くらいは知っている程度でしたが、雰囲気でしか知らなかったので改めて調べることにしました。

インターネット上にも解説記事はいくつかあったのですが、どうしても著者の解釈を含む内容にならざるを得ないと感じ、一次情報である論文を読み込むことにしました。

この手の話はなんでも一次情報も押さえておいたほうが絶対に良いと思うので、もし関心を持たれたらアクセスをおすすめします。

Harvard Business Reviewサイト(英語)

正式な日本語訳版は製本版の購入で閲覧可能です。880円とランチ代程度のお値段です。

「一次情報を押さえるべき」というスタンスを取る以上、本記事のスタンスとしては論文の内容を説明していく『解説記事』ではなく、自身がこの論文からどのような示唆を得たり感じたのかという『感想記事』であるという立場は明確にしておこうと思います。

論文の概要

とはいえ、前提として『グレイナーの5段階成長モデル』を含む本論文の概要理解がないことには話をすすめることも難しいため、簡単に解説はしておこうと思います。
繰り返しになりますが、本記事の主張としては「一次情報を見よう」なので、内容について詳細な解説をすることはしません。

・・・

グレイナーは、成長する組織は5つの発展段階を経て成長していくと述べています。

第一段階:創造性による成長 と リーダーシップ(統率)の危機
第二段階:指揮による成長 と 自主の危機
第三段階:委譲による成長 と 統制の危機
第四段階:調整による成長 と 形式偏重主義の危機
第五段階:協働による成長 と 新たな危機

引用:企業成長の”フシ”をどう乗り切るか(Greiner, 1972)

それぞれ雑に簡潔に説明します。井上の解釈による記載も随所に含まれているのでご承知おきください。

第一段階:創造性による成長 と リーダーシップ(統率)の危機

「創造性による成長」は、創業者の創造性によってPMFをめざしていくステージで、細かいルールやマネジメントはない(創業者もマネジメント志向はない)。成長するにつれて効率性観点や管理観点が必要になる結果、リーダーシップが求められるようになり「統率の危機」を迎える

第二段階:指揮による成長 と 自主の危機

「指揮による成長」は、マネジメントによって組織を統制していくステージ。ルール化・仕組み化が進むことで成長していく。成長が進むと経営とスタッフとで現場解像度の差が広がり、トップダウンによる意思決定に限界が生じる「自主の危機」を迎える。

第三段階:委譲による成長 と 統制の危機

「委譲による成長」は、現場解像度のあるマネージャーへ経営から権限移譲を行い、トップダウン偏重の意思決定から脱却していくことで成長していく。成長が進むと、権限委譲した結果として個別最適化やサイロ化が進んでいき「統制の危機」を迎える。

第四段階:調整による成長 と 形式偏重主義の危機

「調整による成長」は、個別最適化やサイロ化が進んだ組織状態を補正するために、各部門マネージャー間の調整によって全体最適を図りながら成長していく。成長が進むと、調整のためのシステムや制度が増えていき、その存在のメリット以上に形式偏重志向というデメリットを生み出す。つまり人を介して信頼関係構築やコミュニケーションによって実施されていた調整が、システムをベースにした手続き的なもの(=形式)に置き換わっていく中で、調整手続きが問題解決の手段ではなく、その実行自体が目的となっていく「形式偏重主義」の危機を迎える。

第五段階:協働による成長 と 新たな危機

「協働による成長」は、形式化した調整手続き偏重の状態を脱却するために、個々人のレベルでのチームワークやコラボレーションによって、自発性を活かした成長をしていく。成長をしていくなかで迎える危機について、本論文では具体的に論じていないものの、筆者個人が予感する危機の種として、「チームの協働や課題解決に疲弊している従業員のケア」を示している。

締めくくりとして

これらの5段階それぞれの解説をした後に、「自組織がどの発展段階にいるかを認識すること」「次の段階へ向かわなければいけないことが示唆される課題の解決のためには、そのためのこれまでとは違う解決方法が必要ということを認識すること」、「組織的な課題解決策が、次の組織的課題の要因となることを認識すること」が重要な点であることを述べています。

感想

文章量は短く、全体的に結論を端的に語っています。それゆえに、その背景や根拠を自身の経験をふまえて考察する衝動にも駆られます。その営みにも価値があると感じました。

簡単ではありますが、感想も添えておきます。

現代は、歴史から学んでいるっぽい

私の所属するようなスタートアップ界隈においては特に、創業間もない頃から5段階目のスタイルである協働スタイルを指向しているように思います。
これは、これまでの企業が歴史的にたどってきた組織の発展を手本にしているという部分と、特にインターネットサービス開発を取り巻く環境が協働というスタイルにマッチしており自然とそう指向していったのかもしれません。

いずれにしても、創業期を乗り越えたあとすぐに協働スタイルをとったり、権限移譲とセットで調整システムを構築したりと、の5段階の発展段階を順番に進んでいくかと言うとそうではなく、段階を飛ばしたり、段階を同時に経験したりと、色々なバリエーションがありそうだなと思いました。

モデルの内容そのものよりも、それをふまえた著者の主張に学びがあった

この論文で示されているモデルの各発展段階の内容は、多くの組織で直面する課題を的確かつ端的に論じている印象で、よくも悪くもそれほど意外性は感じません。
一方で、『次の発展段階に進むために、これまでとは違う様式の課題解決を試みる必要があること』、『とある組織課題の解決施策は、次の組織課題の要因となること』という2点は、日頃そこまで意識していなかったところであり新鮮な情報でした。

5段階成長モデルにおける発展段階を進めるような課題解決をする際には、「これまでどういう課題解決方法をとってきたか」ということを自覚したうえで「これからはそれをどのように変えて、どのような方法をとるべきか」を考える意識づけが必要であることや、「その課題解決方針そのものが要因となっておこる課題にはどのようなものが考えられるか」を最初から考えておくことが、未来の課題を予測し備えておくことにもつながるということは、今後意識しておきたいと思います。

おわりに

本当は他にも細々としたメモ書きや気付きも多いのですが、これくらいにしておきます。

この論文自体からの学びはもちろん、内容から派生して色々な思考を巡らせることができました。良ければぜひ一次情報の方も読んでみてください。


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