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スタートアップ企業でマンガレーベルを立ち上げた話

こんにちは!最近インプットすることが多くて徐々に過去の記憶が失われているかもしれないと思い立ち、定期的にnoteを書こうと決心した井上です。

昨年までスタートアップの役員をしていたのですが、その会社であまり多くの人が経験したことがなさそうな「マンガレーベルの立ち上げ」という経験をさせてもらいました。

そのときの記憶が薄れていってしまう前に当時やっていたことや考えていたことなどをnoteにまとめてみたいと思います。

少し長くなってしまうかもしれませんが、お付き合いいただけたら嬉しいです。(すいません、読了15分くらいかかるかもなのでお時間あるときに是非!)

マンガレーベルを立ち上げたきっかけ

自分が役員を務めていたスタートアップ企業は、色々なスマホアプリやネット事業を展開する、「ザ・ITベンチャー企業」みたいなスタートアップでした。

経営陣や社員も若いメンバーを中心に集まっていて、日々新しいサービスを企画しては開発してリリースする。そんな事業展開を数年ほどしてました。

そんなスタートアップがマンガレーベルを立ち上げるきっかけとなったのが、無料マンガアプリ事業の参入です。今から7年ほど前から無料マンガアプリ市場は少しずつ拡大していて、自分がいた会社も市場が拡大する初期のタイミングで参入することができました。

無料マンガアプリサービスはマンガの版権を持っている出版社さんから版権をお預かりし、その作品を自分たちが運営しているアプリ上で配信をして収益を分ける、みたいなビジネスモデルになっています。

サービス開始から順調に拡大していき、毎日多くの読者がアプリを使ってくれるようになりました。

しかし、他の競業サービスもグイグイと伸びていたため「他のマンガアプリとの差別化を図らないといけない」という議論になり「自社で制作したオリジナルマンガを配信すればアプリの差別化にもなるし、作品がヒットしたら大きなIPビジネスになる」という構想をもとに、マンガ制作事業をはじめることにしました。(考え方としてはNetflixとかAmazonプライムビデオとかと同じアレです!)

当然、いざマンガを作ろうと思ってもマンガ制作のノウハウも、作家さんのツテもないのでまずはマンガ制作を受託で請負ってる会社さんへ相談し、さっそくマンガ作りを開始してみました。

が、結論からいうと全く上手くいきませんでした。

委託先から送られてくるネーム(マンガの設計図みたいなもの)は、めちゃくちゃつまらないというものではないのですが、めちゃくちゃ面白くもない無難なものが多く、受け取っては「もうちょっと面白くならないですかね、、?」みたいな返答をするばかり。

こちらもどう意見を言えばいいか分からないので的確なフィードバックができず、早く原稿を納品して売上を立てたい業者からすると、工数ばかりかかってなかなかお金を払わない、めちゃくちゃ嫌な取引先だったと思います。

そんな感じでしばらくやりとりを続けたのですが結局うまくいかず、マンガの委託制作を断念しました。社内で議論をした結果、経験あるマンガ編集者を採用し、自分たちのレーベル、編集部を立ち上げようという話になりました。

ここから「スタートアップでのマンガレーベル立ち上げ」というとても大きな挑戦がはじまります・・!

編集者の採用と立ち上げ期

まず最初にはじめたのが、出版業界で経験あるマンガ編集者の採用です。これまでエンジニアやデザイナー、マーケターなどの採用はたくさんしてきましたが、当然マンガ編集者の採用はやったことがありませんでした。

人事担当者とも相談しながらこれまで使ったことのない媒体や採用サービスなどを使いながら、大手出版社で10年以上青年漫画(モーニングとかスピリッツ的なマンガ)を作ってきた編集者を採用することができました。

普通、1回の面談は長くても1時間くらいだと思いますが、この編集者の採用は最初の面談で3時間くらいはなし、その後も何度も話す時間を頂き、飲みにも行って最終的にオファーを出すことにしました。

それくらい、編集者として力量を見極めたり、スタートアップへのカルチャーマッチを判断するのが難しかったのです。

少し時間はかかりましたがようやくマンガ制作のプロがチームに入り、次に取り組んだのは制作するマンガ作品の方向性や、レーベルの名称決めです。

当時のマンガアプリ市場といえば、とにもかくにも「エログロ」が人気で、それぞれのマンガアプリのランキング上位の多くはエログロ作品が占めていました。

そんな中で自分たちが作ろうと決めたのは「読み応えのある本格青年マンガ」でした。短期的な数字を追うのではなく、これまで自分たちが読んできた名作マンガのように、読んだ人を強烈に感動させたり、人生に影響を与えるような作品を作りたい。

今思うとめちゃくちゃおこがましい話ですが、自分たちもせっかくオリジナルのマンガを作るのであれば、誰かの人生に影響を与えるような本格的なマンガを作りたい、そういう考えを元にレーベルの世界観や名称などを決めていきました。

当時、社内外から「青年マンガではなく少年マンガ(ジャンプとかサンデー的な作品)を作るべきでは?」という声もありました。歴代のマンガの発行部数ランキングを見ると何千万部、何億部と発行されている上位のマンガのほとんどが少年マンガだったためです。

ただ、爆発的なヒットに繋がる可能性のある少年マンガは、とにかく膨大な数の才能が集まってくるレーベルのブランドや歴史、そこで働く多くの優秀な編集者組織があってはじめて生まれてくるもので、できたばかりのIT企業発のレーベルでそれを生み出すはとても難しいと考えていました。

(もちろん、青年マンガなら簡単に作れるという話では全然ないです!青年マンガもヒット作品を生み出すのはめちゃくちゃ難しいので..)

そもそもここ数年は昔に比べて少年漫画と青年漫画の境界線も曖昧になってきてる気もしています。いろいろと議論した結果、チームとしては改めて「本格的青年漫画を生み出すレーベル」としてスタートすることになりました。

いざ、編集部の始動

レーベルとしての方針が決まってからすぐに編集者はマンガ制作に取り掛かりました。と、同時に事業責任者である自分は事業計画やスケジュール、KPI設定などに取り組み始めます。

マンガ制作事業の事業計画やKPIなどこれまで作ったこともないので手探りながら進めていき、まずは作品の連載本数や開始スケジュールなどを決めていきました。

ちょっと記憶が曖昧だったのですが、確か「半年くらいあれば10本くらい作れるだろう」みたいな感覚で計画を作ったのですが、最初にそれを編集者に見せたときにドン引きされました。マンガ作品1つを生み出すための時間軸や難易度など、まるでわかってなかったんですよね。

編集者と議論をした結果、半年後に5本、その後順次作品を増やしていき1年後に10本にするという計画に落ち着きました。それでもそのとき内心では「本数もスケジュールも慎重過ぎる。スターアップなんだからもっとスピード感もってもらわないと」みたいなことを思っていた記憶があります。

半年後、無事に5本の連載が決まりました。この5本の作品の連載開始をもって、正式にレーベルもリリースということになります。一般的な雑誌のレーベルであればだいたい20〜25本の作品が連載されているかと思うので、その1/5ほどの数です。

自分はそのときあくまで事業責任者の立場だったので定期的に編集者と話して進捗管理などをしているだけでしたが「とりあえず計画通り5本揃ってよかった」くらいにしか思っていませんでした。

後になってわかることですが、1人の編集者がまだ実態もないIT企業のレーベルで、半年間で5本の作品を準備するのはめちゃくちゃ大変だったことを知ります。

無事にレーベルは公開され、連載作品も6本、7本と少しずつ増えていきましたが、このあたりから自分と編集者の関係が少しずつ崩れはじめていきます。

自分もマンガ編集者に

もしこの記事を読んでいる方で「IT業界」と「出版業界」の両方に所属したことのある人がいたらご存知かもしれませんが、この2つの業界は水と油のように考え方や価値観が正反対です。(数年前の話です!今は少しずつ交わってきている感覚あります)

これまでに誰もやったことのない革新的なやり方で短期間で効率的に数字を伸ばしていくことが正義のITスタートアップ業界と、じっくり何年も何十年もかけて作家さんと信頼関係を気づき、世界に1つしかない作品を作りあげて読者を魅了する出版業界。その時間軸の考え方や戦略性などはまるで異なります。

当時は自分はそういった業界ごとの正義や価値観の違いなどまるで考えもせず、短期的な数字や効率性などをそのまま編集者にも押し付けており、編集者にとてもストレスを与えていました。

それを肌感として把握しつつも、こっちはこっちで事業計画を達成しないと役員としての責務を果たせていないし、スタートアップなんだから挑戦的なKPIやスケジュールの設定は当然だと思い続けていました。そんな感じで双方のストレスはどんどん溜まっていきます。

当時なんども編集者と飲みにいってはあーだこーだと議論をして、最終的に「自分もマンガ編集業務をやる」ということにしました。事業責任者である自分がもっとマンガ作りや作家さんのことを本質的に理解しないと、遅かれ速かれ事業が空中分解すると危惧したためです。

IT業界で10年以上仕事をしてきた自分でしたが、マンガ編集としてはインターンや新卒社員と変わらない経験値なので、まずは編集者のアシスタントとして業務を開始しました。

原稿データでは作家さんの手書きで入っている吹き出し内のセリフに、フォントや文字サイズなどを指定してセリフデータを入れる作業や、コミックイベントに行って良いと思った作家さんに名刺を渡して口説くなど。担当作家さんも持たせていただき、取材のサポートやネームの打ち合わせもさせて頂きました。とにかく知らない、慣れないことばかりでどの業務をめちゃくちゃ大変でした。

担当作家さんについては編集者の計らいで、ベテランの作家さんを中心に担当させて頂きました。ベテラン作家さんというと気難しい人が多く自分みたいな新人編集者が担当するのはマズいと思ったのですが、むしろその逆で業界で長く活躍されているベテランの作家さんは人間性もとても良い方ばかりでした。他の出版社でも、新人編集が大御所の作家さんの担当して作家さんから編集業務を学ばせていただくことは多いらしいのです。

そんな感じで、引き続きスタートアップの役員として会社全体の経営にも携わりながら、駆け出しのマンガ編集者として夜も土日も関係なく作家さんとのコミュニケーションなどをとる日々が続きました。

スピード感や価値観、正攻法などがスタートアップの業務とは全く異なるマンガ編集という仕事を経験することで、自分の中では仕事に対する考え方が大幅にアップデートされましたし、一時的でも別の業界に身を置くことで改めてベンチャーやスタートアップ業界について俯瞰的に見れるようになったりもしました。

今振り返るとここでの経験が「自分がこれまでやってきたことや自分の価値観が正しい」という浅はかなバイアスから抜けやすくなったことに繋がっています。自分にとってもとても大きな経験でした。

徐々に風当たりがきつくなる

自分がマンガ編集者として実務経験をするようになってから、編集部メンバーとの関係値も少しずつ良くなっていき、編集部組織の雰囲気なども徐々に良くなっていきました。

しかし、この頃から立ち上げたレーベルや編集部の立場は少しずつ追い込まれていくことになります。

レーベルが公開されてから1年以上が経過し連載作品数も10本を超え、大手出版社のレーベルで連載経験のある著名な作家さんの作品も連載作品に並ぶようになりました。

連載作品が増えてくる一方で、作品を掲載しているマンガアプリ上における自社作品の数字的な評価もどんどん明確になってきました。そもそもオリジナル作品を作る目的の1つが、自社のマンガアプリにしかない魅力的な作品を掲載し、他のマンガアプリとの差別化を図るためでした。

ただ、先ほど少し触れましたが今回立ち上げたレーベルは「短期的な数字を追わずに本格的な青年漫画」を作るという方針を目指していたこともあり、立ち上げから1年経ってもなお、数字的に大きく貢献できるような作品を生み出すことはできていませんでした。

そんな中でも編集部の戦略を変更することはなく「本格的な青年マンガをつくり、作家さんや出版業界の人にしっかりマンガを作っている姿勢が伝わる作品」を生み出そうとしていました。これはただ意地になったりムキになったりしてるわけではなく、明確な戦略がありました。

編集者が作家さんにアプローチして作品を描いてもらうようお願いする際、IT企業のマンガレーベルは歴史ある出版社のレーベルと比較して作家さんからポジティブな印象をもってもらうのがとても難しいという現場のリアルがありました。

当然作家さんは小さい頃から雑誌や紙の単行本でたくさんのマンガ作品を読んできており、自分がマンガ家になったからには、過去に自分が読んできたレーベル、今自分が読んでいる雑誌のレーベルで連載を持つことを目標にしている人が多くいます。才能や実力がある人なら尚更その想いが強いです。

そんな中、できて1年そこそこの名前も知らないITベンチャーのマンガレーベルの編集者に口説かれても全然惹かれないのですよね。。作家さんにとって自分の作品は我が子のようなものなので、よくわからない会社に子供を預けるのではなく、歴史があり信頼できる出版社に子供を預けたいわけです。

そういったイメージや印象を少しでも良くしたいという狙いから「業界に認められる作品」を作っていたのですが、「業界に認められる作品」が必ずしも一般読者から人気が出る作品になるとは限りません。

増してや掲載しているのは雑誌のレーベルではなく無料のマンガアプリで、分かりやすく誰でも楽しめるような作品に人気や数字や集中します。キャッチーで刺激的なエログロ作品が数字がでやすいのもそういった理由の1つです。

そんな背景もあり、自社レーベルの作品はアプリ上で成功と呼べるような数字を上げることができない状態が続き、しかしその間も当然原稿料として外注加工費が発生し続ける日々が続きます。

しかもこの時、編集部として明確な打ち切り基準も決めていませんでした。これも先ほどの作家さん向けの信頼獲得が目的なのですが、せっかく預けてくれた作品を出来る限り満足のいく終わり方まで掲載するのは、他のレーベルとの大きな差別化になると考えてたのです。

が、打ち切り基準がないイコール、数字が出ていない作品でも少し長めに制作コストをかけ続けることになります。当然、潤沢な予算がないスタートアップとしてそのコストは大きく、自社レーベルの立場はどんどん苦しいものになっていきました。

紙の本の出版

社内での風当たりがどんどん強くなる一方で、作家さん、出版業界の人に認めてもらえる作品を作り、レーベルを信頼してもらうという戦略の成果が少しずつ出てきました。

新人のマンガ編集者でも自社レーベルの方針や実際に連載している作品を作家さんに見てもらえれば、最低限話を聞いてくれる状態になっており、組織としてレーベルの信頼感を武器に機動的に作家さんへのアプローチができるようになってきていたのです。

その流れを加速させるように、有名出版社と協業で紙の単行本を出すことが決まりました。スタートアップ企業には紙の本を出版するツテもノウハウもなかったのですが、連載している作家さんからするとやはり紙の本が出るのはとても重要なこと。協業による単行本の出版はレーベルの信頼度を増すためにも本当にありがたい話でした。

さらに嬉しいことに、その協業による単行本の出版を皮切りに名だたる出版社との協業出版の話がどんどん決まっていきました。自分たちが0から作ったレーベルの作品が、大手出版社から紙の本として出版され、全国の本屋さんに並んだときはめちゃくちゃ感動しました。

結果として4,5社ほどの出版社から単行本が出版されることになり、業界内で評価される作品を作るという戦略がようやくわかりやすい形で成果となりました。この時は社内の他部署含め全社的にも盛り上がりました。

ちなみに、その後色々な事情もあり自社でも出版機能を整備することになり、スタートアップ企業発の単行本も出版されました。(出版コードの取得とかいろいろ大変だった!)

ITスタートアップから唯一自社出版された単行本の作品が、「インターネット」をテーマにしたマンガだったのは、ちょっと運命めいたものを感じました。

新人作家を担当した話

レーベル開設から2年ほど経ち、編集部組織も10人弱となっていました。この頃には自分は編集者としての現場業務からはほとんど離れており、元々の役割だった事業責任者として、数字やお金、採用周りを中心にみていました。

そんな中でも、唯一自分が担当していた新人作家だけは引き続き編集者としてネームの打ち合わせなどをやっていました。

その新人作家はもともと知り合い経由の紹介がきっかけで出会い、当時まだ20歳そこそこの大学生でした。小さいころからずっと絵やマンガを描き続けていて、良くも悪くもコンプレックスが強く「いかにも漫画家志望っぽい若者」という感じの学生です。

これまでベテランの作家さんなどを中心に担当してきましたが、いわゆる新人作家さんを担当するのは初めてで、これまでに経験したことのないプレッシャーを感じることになりました。

青年漫画の作家さんは基本的に本人の年齢も高いことが多く、いわゆる「大人」な人が多いです。実際に自分が担当していた作家さんも30代以上の大人の方ばかりでした。

しかし、はじめて担当したまだ学生の新人作家は「漫画家としてデビューできなきゃ、生きている意味がない」というくらい野心や覚悟、コンプレックスが剥き出しで、その全てを担当編集である自分に遠慮なくぶつけてきました。 (少なくても自分はそう感じていました・・!)

自分の子供でも弟でもない若者から人生の全てを自分にBETされているようで、その期待に応えられるか不安で仕方ない気持ちを常に抱えながら、担当編集として必死にネームのアドバイスをしたり、たまに飲みにいったりして信頼関係を築いていきました。

ちなみに当時自分は自社レーベルの事業責任者でしたが編集長は経験ある編集者に任せていたので、自分が担当している作家さんの作品でも編集長のGOが出ないと連載はできない状況でした。

マンガ編集として様々な業務をやらせていただきましたが、この「新人作家の担当」という経験は個人的にはマンガ編集者として本質的に0に近い状態からマンガを生み出すもので、最も難易度が高く精神的にもプレッシャーのかかる仕事だなと思いました。

たまに「新人作家と新人編集コンビが大ヒットマンガを創出!」みたいなものが話題になりますが、おそらくあれは本当に天文学的な確率な気がします。「マンガを作る経験が乏しい2人が、とにかく四苦八苦し続ける」というのが実態です。

その後結果的に自分はその新人作家の担当も離れることなたったのですが、現在その彼は日本一有名なレーベルのアプリで担当編集者がついており、既に数回読み切り作品を掲載しています。元担当者として、連載を勝ち取れるよう今も引き続きその作家さんを応援しています。

事業撤退へ

さて、複数の出版社と協業による単行本の出版などで一時的にはレーベルの希望らしきものは見えたのですが、この頃には連載本数も20本近くになっていたので毎月の制作コストによる赤字もかなりの規模になっていました。

この頃、「IT企業のレーベルなのにしっかりとマンガ作りに取り組んでいる」という評価を受けて、超大手のエンタメ関連の企業から出資の話などもあったのですが、自分の力量不足が原因で途中で話がなくなったりもしました。

そんなこともあり、立ち上げ時期から数えると約3年ほど経っていたオリジナルマンガ事業を、撤退することが決まりました。

3年もの時間ずっとヒーヒー言いながらやってきた事業の撤退なので当然悔しかったり悲しかったり思うところはいろいろとあったのですが、そんなことを考えている余裕は一切ありませんでした。

撤退が決まってすぐに、生まれたばかりのレーベルに才能と作品を預けてくれた連載作家さんに少しでも迷惑がかからないよう、作品や作家さんの移籍についての相談を、出版社や他のITレーベルへすることにしたからです。

移籍先の会社さんごとに移籍条件やタイミングなどを個別に相談しながら、それぞれの作家さんや作品の移籍の話が進んでいきました。おかげさまで才能や実績のある作家さんに多く連載頂いていたので、移籍の話は順調に進んでいきました。

おおよその作品の移籍先や移籍時時期などの目処が経った頃、会社の社員として所属していた編集部メンバーも「引き続きマンガ編集を続けたい」と思うメンバーが多く、出版社や他のITレーベルへ転職することになりました。

事業撤退が決まってから約5ヶ月ほどで、連載作品や作家さん、編集部員から成り立っていたマンガレーベルは、その実態もなくなりました。

今、振り返って思うこと

そんな感じでいろいろあったマンガレーベルの事業撤退からもうすぐ2年が経過しようとしています。

冒頭でも書いた通りこの一連の挑戦に関する記憶が薄れてく前になにかしたらのログとして残しておこうとまとめたnoteですが、いざ書きはじめるとどんどん当時のことが思い出され、想定したよりだいぶ長文になってしまいました。  (これでもだいぶ端折っています!本当にいろんなことがありました!)

で、改めて今振り返って思うことについてですが、「めちゃくちゃ自分の実力不足だったな..」というところが大きいです。

スタートアップの役員、事業責任者として会社に大きな赤字を生みだししてしまったことは、当時の経営陣、株主の皆さんに本当に申し訳なく思っています。

また、「マンガ作り」の経験が圧倒的に少ない自分が責任者という不安定なレーベルに参画していただいた作家さん、編集部メンバーにも結果的に「事業撤退、解散」という最悪な終焉となってしまったこと、本当に申し訳なく思っています。

仮に今の自分がレーベル立ち上げ時に戻れるなら当時より遥かに上手くやれるイメージはありつつも、それ以上に「スタートアップでマンガレーベルを立ち上げる」ことの難しさも痛感しているため、結果的にまた多くの人に迷惑をかける結果になってしまうかなとも思っています。

もし、これからITベンチャーやスタートアップで0からマンガレーベルを立ち上げようとしている人がいたら、あくまで個人の意見ではありますが、「とでも難しいのでやめておいたほうが良いよ」というアドバイスくらいしかできないのが本心です・・!

最近のこと

さて、今自分はレーベルを立ち上げたスタートアップも離れて、フリーランスのような立場でいくつかのスタートアップのお手伝いをしたり、自分でもアプリサービスを立ち上げたりしています。

中でもメインでお仕事させて頂いている2社のスタートアップは、たまたまではあるのですがいずれもエンタメ関連の会社です。

1社目はVRゲームで0からIPを創出しようとしているMyDearestさん。現在新作タイトルを絶賛仕込み中です!

スタートアップでサービスではなくIPを創出してファンを魅了するのは本当に難易度が高いのですが、それをVRという新しい市場で挑戦し、さらに順調に成長している本当にすごい会社です。

2社目はクリエイターを支援するサービスを複数展開するアルさん。クリエイターの作業配信プラットフォームである00:00 Studioやサクッとでデジタルコンテンツを販売できるeluなど、クリエイターのためのサービスを高い技術力とサービス開発ノウハウで次々と生み出しています。

いずれもIP創出、クリエイター(作家さん)支援という、自分がレーベルでやりたかったけど大失敗してしまった大きな挑戦に挑んでいる会社さんで、本当に尊敬します・・!

振り返れば小さい頃からエンタメコンテンツが大好きな人間だったので、これからも「クリエイターさんやエンタメコンテンツ」と「スタートアップ業界」の交わるところを中心に、ワイワイと生きていければと思います!

めっちゃ長文を最後まで読んでいただきありがとうございました!








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