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地域分析の基礎 第13回 高齢化は本当に問題なのか?

 今回は、高齢化に焦点を当てたいと思います。
 年齢別人口の最も大きなボリュームゾーンである団塊の世代(1947〜1949年生まれの世代)は、既に高齢者にカウントされ、まもなく後期高齢者に突入することになります。日本の高齢化率は戦後一貫して上昇していて、昨年10月の時点で28.8%に到達しています。今後の予測としては、2025年には30%に達し、2065年には38%にまで上昇するようです。ただし、高齢者の数は2047年に3935万人でピークを迎えた後、減少していくと見込まれています。つまり、2047年以降は高齢者の数は減るものの高齢化率が上昇していくという形に、高齢化の状況が変化していくのです。
 一般的に、高齢化は国レベルでも地方レベルでも「問題」として認識されています最も大きいのは、社会保障費の増大です。医療や介護・年金の支出が増大し、今や世界最悪といわれる日本の財政赤字も社会保障費の増加が大きな要因となっています。あるいは、「シルバー資本主義」といわれるように、政治の場での意思決定においても高齢者の投票が多いために若年層への政策が軽視されてしまう可能性が指摘されています。国政選挙で特に若年層の投票率が低いことも、若年層の政治に対する無関心だけでなく無力感が影響しているかもしれません。
 このように、高齢化はさまざまな面で問題として認識されているように思いますが、そこにも問題があるように感じます。そもそも高齢化は「問題」なのでしょうか

 まず、先に挙げた医療や介護・年金の支出は、確実な需要をもたらします。特に医療や介護は生命や生活の根幹として必要となるだけでなく、対面・労働集約的です。つまり医療や介護に従事する医師や看護師・介護福祉士など確実な雇用が、高齢化とともに、高齢者の多いエリアで間違いなく増えていくことになります。高齢化が早い段階から進んでいるのは地方圏なので、地方圏こそこうした分野で雇用機会を増やすことができます。実際、就業構造を見ると、医療・介護の産業分野で雇用機会の増加が多くの地方圏で起きています。高齢化率の上昇は大きく注目される一方で、医療・介護における雇用機会の増加があまり注目されていませんが、メリットとしては大きいと思います。
 年金も同様です。高齢者が多い地域では、年金収入が大きくなります。年金は中央政府等からの移転収入となるため、ある意味で「外から稼いでいる」状況です。この収入が地域で食費やなど生活費に使われれば、それが地域の中で循環して地域経済の拡大に貢献します。もちろんこれは地方自治体が国から受け取る交付税や補助金等のように依存財源のようなものなので、地域経済の自立をもたらしているとは言い切れませんが、高齢者がその地域に愛着をもって暮らしているのであれば、地域も堂々と高齢者を受け入れて年金収入を活かせば良いと思います。
 最後に、高齢者といっても非常に元気です。高齢者の定義は65歳以上ですが、65歳の方を高齢者と呼んでは失礼なほどアクティブに活動されておられます。仕事はある程度セーブせざるを得ないかもしれませんが、スポーツや交流、趣味などを多様にこなし、むしろ現役時代よりも笑顔で生き生きとしている方が多いように見えます。実際、医療や食生活の進展によって体力や健康面でも65歳が決して高齢者の枠に入らなくなってきているようです。イメージとしては、現在の65歳の方は一昔前の55歳に相当しているように思います。つまり65歳でも決して「老後」「余生」と言うことではなく、「第2の人生」の方がふさわしいポジションなのかもしれません。

 このように考えると、地方圏における高齢化率の上昇が必ずしもマイナス面だけではないことがわかります。かつて、「日本版CCRC構想」というのが大きな注目を集めました。これは「地方圏に高齢者を移住させる(=押し付ける)政策である」として地方圏の自治体から大きな反発を呼びました。若年層の流出と高齢化に直面している地方圏にとっては、気持ちも理解できます。しかし、先に述べたように医療や介護の需要が発生するので高齢者だけが増えるわけではありませんし、年金等の収入も見込めます。当時はこの構想が唐突に出てきたことが地方圏の反発に拍車をかけたと思われますが、冷静に考えればメリットとデメリットの両方を勘案して検討に値するテーマだったのではないかと思えてなりません。

 増田寛也編著『地方消滅』(中公新書、2014年)では、地方が消滅に至るプロセスを3つの段階に分けています。実は、高齢化の進展は初期の段階であり、その後は高齢者数も増加から横ばい、そして最終的には高齢者も減少して地方消滅に至るとされています。もちろん、その間、少子化は一貫して進むので高齢化率は高止まりしたままです。つまり、高齢化の進展と一口に言っても高齢化率で見るのと高齢者数で見るのとでは大きく意味が異なり、高齢者数がどうなっているのか、高齢者数が減っていないかどうかをしっかり見ていく必要があるのです。高齢者の増加は地方消滅の時期を遅らせることにもつながるのではないでしょうか。
 日本の高齢化は世界的にも急速に進んでいますが、私たちの生活に突然訪れるものではなく徐々に浸透していくことなので、なかなか認識を変えることは難しいかもしれません。しかし、高齢化を問題と捉えることが、かえって高齢化の現実に目を背けさせる結果を招いていたようにも思います。むしろ、メリットの面にも注目することで、高齢化を正面からとらえる機会になるのではないかと思います。
 地域分析による高齢化の把握が、このような形で行われることを期待したいと思います。

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