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地方公務員が読んでおきたい書籍の紹介田中敦夫「虚構の森」新泉社、2021年  

 地球環境問題やカーボンニュートラルといった言葉の意味と重要性は大半の人が理解していると思うが、そのために何が有効なのか(逆に何が無意味なのか)は、必ずしも知られていない。

 その中の1つに、森林保全があるだろう。「二酸化炭素を吸収してくれる森林が伐採されると地球温暖化が進む」「森林の整備が必要だ」など、あまり深く考えることなく「たぶんそうなのだろう」と思っていることは多いはずだ。しかし、よく考えてみると、必ずしもそれは正しくない。本書は、私たちの抱く森林への誤解を中心に、その内容と正しい考え方へのヒントを述べたものである。

 パート1「虚構のカーボンニュートラル」から、いきなりガツンと頭を叩かれたような衝撃を受ける。なんと、森林は温室効果ガスを吸収してくれるのではなく、むしろ出している、と言うのである。確かに植物は光合成によって二酸化炭素を吸収してくれる。しかし、森林に棲む動物や昆虫、さらには菌類が二酸化炭素を排出している。だから、森林全体では二酸化炭素を吸収するとは言えないことになる。こうした視点は私たちにはなかったので、非常に新鮮に感じた。

 本書では、こうした議論が6つのパートに分けて行われている。各パートの冒頭には、私たちが一般的に理解していることが、いくつか書かれている。しかし、その最後に「異議あり」と述べ、意義の概要が列記される。それを本文で分かりやすく解説していく、といった展開で議論が進んでいる。筆者の言いたいことが強烈に伝わってくる展開だと思う。

 私たちが、ふだん当たり前だと思っていることが、必ずしもそうではない、という指摘は、ベストセラーになった「FACTFULLNESS」にも通じる。表面的な理解に振り回されてはいけない、ということをつくづく感じてしまうのだが、本書もまた、森林に関するFACTFULLNESSを教えてくれるものだと思う。

 ただ、そうした誤解に対して、私たちは何を正解と考えるべきなのか、特に地球温暖化に対してどのように行動すれば良いか、ということまでは本書では分からない。まずは誤解があることを知る、ということが本書の目的であり、それだけでも刺激に満ちている。

 その意味では興味深い書籍であるが、問題の性質を考えると興味だけで終わらせたくないとも感じる。本書の続編のような形で、私たちが本当に心がけるべき地球温暖化対策の行動を示していただけると有難い。

 いずれにしても、本書は森林に対する理解が表面的に陥りがちな状況に、大きなインパクトを与えてくれる知的刺激に満ちた書である。地方公務員にとっても、森林の部署に従事する職員に限らず、どのような分野にも表面的な理解に疑問を持つことの重要性を教えてくれる本として読んでみるのが良いのではないか。

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