地方公務員が考えるべきこと 第11回 ふるさと納税を違う角度から見ると、これからの納税のあり方が見えてくる
このコラムではふるさと納税について以前も取りあげたが(第2回 「ふるさと納税=返礼品競争」と切り捨てて議論を終わらせて良いのか?)今回も別の観点からふるさと納税について一言述べることにしたい。
ふるさと納税は過度の返礼品競争に陥っていることが問題視され、総務省も規制を行っている。とはいえ、返礼品の割合や対象品目のルールを定めたのみで、多くのふるさと納税が返礼品目当てであることに変わりはない。ふるさと納税の問題が解決したわけではないのである。
しかし、ここに納税者の本音が現れているとも言える。つまり、少なくとも自分に明らかなメリットがあること、そのメリットを選べることが、通常の納税との大きな違いであり、それがふるさと納税の魅力を高めている、ということである。
通常の納税にはそうしたことがない。納税は社会(国や地域)全体が享受する便益に対して全体で負担を分任するものだから、自分が受けるメリットは必ずしも明らかではない。もちろん、生活に欠かせない道路や公園などを使っているからメリットはあるのだが意識されることは少ない(当たり前のサービスだと思われている)し、自分が納税しなければ享受できないわけではない(フリーライドできる)から、納税してまで得たいメリットと認識されることは少ないだろう。もちろん、納税者は細かな点まで使い道を知っているわけではないから、メリットがあることさえ十分に理解されていないとも言える。
また、納税者は受けるサービスを自ら選ぶことはできない。もちろんサービスと負担は予算や法律で決まるから、選挙で代表者を選ぶことによって実質的には有権者がサービスを選んでいると言えなくもない。しかし、先日の衆議院総選挙も投票率は低かったし、個別・具体的なサービスまで選挙が左右するわけでない。有権者は選挙でサービスを選んでいるという意識は持っていないだろう。もちろん、ふるさと納税のように納税の段階でサービスを選ぶこともできない。
このように考えると、返礼品競争であるというふるさと納税の問題点は、逆に通常の納税に対する理解が得にくい理由を見事に表していることにならないだろうか。もちろん、納税への理解を得るには税の趣旨を理解してもらうこと(ふるさと納税とは違うこと)が必要である。しかし、それを待っていたら財政赤字はますます膨張してしまう。消費税率の引き上げがきわめて難しい状況や、岸田政権でも「成長と分配」を掲げながら税制改革の議論が後退している状況なども、納税への理解が浸透していないことによるものと言える。時間の余裕がない以上、別の切り口も考えなければならないのではないか。
そこで、税制改革実行の突破口もまた、ふるさと納税がヒントになると考えてみたい。つまり、自分に明らかなメリットがあること、そのメリットを選べることを納税にも取り入れることである。
例えば、納税額の3割を本人に還元する(ここで、3割はふるさと納税の返礼品率と同じで、科学的根拠のある水準ではない)。ふるさと納税の返礼品は納税額の3割が上限となっている。そこで、納税者の趣味がスポーツなら体育館の利用料金を割り引いたり、子育て家庭なら保育園の利用料を優遇したり、といった具合である。3割分はそうしたことを認めることで、納税のメリットを実感できる。もちろん公平性の確保も必須なので大きな優遇はできないだろうが、少しでもこうしたメリットを明確に認識できれば、納税への姿勢も変わるのではないか。
確かにふるさと納税は寄附額の大半が差し引かれるから、実質的には返礼品への負担にすらならないと言える。しかし、だからといって上記の提案が全く意味がないとは思えない。以前、学生にこんな質問をしてみたことがある。「1万円を普通に納税することと、13000円を納税して3000円分のサービス券を貰えることの、どっちが前向きに納税できるか?」実質的な負担はどちらも同じなのに、大半の学生が選んだのは後者だった。メリットが見えにくい負担は、安くても嫌なのだろう。少しでもメリットが見える方が、負担は大きくても受け入れられるのではないか(ただし、あくまで数名の学生に聞いてみただけなので、科学的な信頼性のある結果ではない。検証のためには、もっとしっかりした実験をする必要がある)。
このように考えると、ふるさと納税は確かに税の趣旨に反しているし、過度な返礼品競争に陥ることは問題である。しかし、そこから通常の納税に対する理解を深めるためのヒントも見えてくるように思える。ふるさと納税をただ批判するだけでは、こうした点を見逃してしまう可能性もあるように思う。税制改革の突破口が見いだせない状況の中で少しでもヒントを探る必要がある現状では、ふるさと納税が問題のある制度であってもそこから学べることもあるのではないか。
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