見出し画像

地域分析の基礎 第11回 比較対象の地域を選ぶシンプルな2つの方法

 この連載の第4回で「比較」の重要性について述べました。比較の方法として、分析したい地域の過去の状況と比較する「時間軸」と、他の地域と比較する「空間軸」の2つがあることを紹介しています。今回は、後者の空間軸について、「どこと比較すれば良いか」を説明したいと思います。
 真っ先に思い浮かぶ比較の相手は「近くの市町村」です。自分自身の学力や体力をもっと深く知りたい時でも、「クラスで〇番」と分かればすぐに判断できます。それと同じで、近くの市町村と比べることで、分析する市町村のポジションをすぐに把握することができます。
 もちろん、比較の対象は条件が似ていることが大切です。クラスの順位を見るのも、同じ学年、同じ学校生活を送っているから条件が同じで比較の意味があるのです。小学生と大学生の体力を比較しても仕方ないありません。地域を分析する場合もこれと同じです。

 では、「近く」とはどの範囲でしょうか。一般的には同じ都道府県の中になるでしょう。都道府県が自治体として行っている政策も共通していますし、何よりもイメージしやすいです。もちろん、都道府県の中でも「南部」「北部」といったエリアに分けられることもあるので、エリアの中で比較すると地理的な条件がさらに揃って良いと思います。私が住んでいた福井県でも「嶺南」「嶺北」という大きな2つのエリアがあるので、嶺南の中で、あるいは嶺北の中で比較する方が条件が揃います(ただ、私が住んでいた敦賀市は嶺南にあるのですが、同じ嶺南の小浜市とは人口がかなり違うので、嶺北と比較することもありました。そうした場合はエリアに強くこだわる必要はないと思います)。
 また、分析の対象が市ならば比較の相手も市であった方が望ましいです。同様に、分析の対象が町村なら比較の相手も町村となります。市と町村の違いは、人口です。市の方が人口が多く、人々のさまざまな活動が集中して行われるので、市と町村を比較するのは避けた方が無難でしょう。もちろん、人口減少が進んでいる市は近くの町村に人口で逆転されているようなケースもあります。そうした場合は比較しても良いと思われるので、最終的にはケースバイケースで判断してください。
 地域によっては、ライバル視している相手があります。私が大学を卒業するまで住んでいた千葉県のライバルは、埼玉県です。逆に埼玉県の方は千葉県をライバル視していると思います。地元愛があり、身近で条件がよく似ているからこそ、こうした認識が生まれてくるのだと思います。主観的なものではありますが、ライバルと比較することも興味を引く分析ができるのではないでしょうか。
 逆に言えば、比較の対象を意図的にライバル視することで、いろいろ分析してみたい、というモチベーションになるかもしれません。

 もう1つの比較対象として、「類似団体」を紹介したいと思います。これは、国(総務省)が地方自治体の財政構造を明らかにするために設定しているものです。総務省のホームページに、「類似団体財政指数表」というものがあり、それを地域分析の比較にも使います。
 類似団体の設定は、人口規模と産業構造の2つを基準として市(政令指定都市や中核市などを除く一般市)は16、町村は15の区分となっています。市と町村で別々に分類されているので、混同する心配もありません。また、それぞれの区分に含まれる市と町村がリストアップされているので、分析したい地域がどの区分なのか、同じ区分の地域がどこなのかも分かります。
 この方法の良いところは、ズバリ「意外性」です。遠くの地域でも同じ区分の地域を比較すると、これまで見えてこなかった特徴が分かるかもしれません。例えば千葉県のある市を分析する時、同じ区分の類似団体に和歌山県の市があれば比較してみるのです。おそらく聞いたことのない市もあるでしょうから、思ってもみなかった特徴が見えてくる可能性もあります。テレビなどで科学者が新しい物質をワクワクしながら発見するシーンがありますが、文系の人も同じような感覚で新しい発見の喜びを味わえるでしょう。
 ただし、デメリットも少しあります。それは、区分が大まかなことです。人口と産業構造だけでシンプルなのですが、シンプル過ぎる面もあります。人口と産業構造だけの区分ですから、他の条件が違っていることを無視して比較すれば「乱暴な分析」になってしまう可能性もあるのです。そのため、比較する対象を選ぶ時には他の条件にも着目して、可能な限り似たような地域と比較するように注意しましょう。同じ区分に多数の市や町村が含まれる場合は、こうしたことを考慮して慎重に選んでください。

 このように、空間軸の分析にもいくつかの方法があって、メリットやデメリットもあります。分析の目的やどんなことを明らかにしたいのか、などによって使い分け、組み合わせてみてください。シンプルですが、多くの発見が得られると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?