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地方公務員が考えるべきこと 第4回 注目される新たな選挙制度-死票を減らし、真の民主主義を実現する方法を考える(週刊エコノミストの記事から)

 今回の投稿は、週刊エコノミスト10月5日号の記事を読んで考えたことである。記事のタイトルは「全米で広がる「優先順位付け投票」死票減らし有権者の意思を反映」(執筆者:中村美千代氏-ジャーナリスト)である。
 こうした記事が掲載されたのは、自民党総裁選や衆議院総選挙という大きな国政の動きを踏まえてのものだろう。特に自民党総裁選は注目度も高く、「1回目は河野さんが1位だが過半数を取れず、決戦投票で岸田さんと高市さんの2位・3位連合で逆転する」と予想されていた。結果的には1回目で河野さんは2位だったので、1・3位連合となって岸田さんが勝利を収めた。だが、仮にシナリオ通りだった場合、1位でない候補者が最終的に勝って良いのか、という懸念があった。つまり、1位に投票した人の意思が反映されず、多くの死票が生じることとなる。死票とは、当選しなかった人に投じられた票のことであり、その意思が反映されないことから生じる。全員が当選できるわけではないので死票はどんな選挙でも発生するが、それが多いほど有権者の投票行動が生かされないことになる。死票は投票率の低下と民主主義の空洞化を招く一因とも言えるから、死票を減らすための制度設計は重要な課題である。

 記事は、アメリカの一部で導入されている「優先順位付け投票」(Ranked Choice Voting, RCV)を紹介したものだ。これは、有権者が全候補者を当選してほしい順に記入して投票する。開票の際には、まず優先順位1位の候補者に投票したものとして集計し、1人の候補者が過半数を獲得した場合はそのまま当選者となる。しかし、過半数を獲得できなかった場合は最下位の候補者を落選して、その(最下位の)候補者を1位とした人の票は2位の人に投票したものとして再度集計する。これで1人が過半数となれば当選者が決まるが、そうならなかった場合はやはり最下位の候補者を落選として、その候補者に投票した人の票を残った候補者に配分・集計する。このような手順を1位の得票が過半数となるまで繰り返す、というのが優先順位付け投票というものだそうだ。私も初めて知った。
 記事によると、このメリットは2つあるという。候補者は従来のように自分の名前を書いてもらえるどうか(つまり1位かどうか)だけでなく、高い順位にしてもらえるかどうかを重視するようになる。その結果、ネガティブキャンペーンが減り、有権者の声も広く反映されることになる。死票が減れば、より民主的な選挙制度と言えるだろう。

 ここからは、私の意見も含めて述べる。日本でも、衆議院総選挙の小選挙区や地方自治体の首長選挙、都道府県議会議員選挙の定数1人区などで、こうした制度が効果をもたらすと考えられる。死票が多く、投票率の低下によって有権者全体での得票率が低くても1位になれば当選できる原稿制度よりも、記事の方式の方が優れている面も大きいだろう。
 しかし、導入には課題も多い。1つは、有権者に多大な負担がかかることだ。全候補者の訴えを吟味し、責任を持って順位を付けるのは大変だ。特に都道府県の首長選挙は泡沫候補も多く、評価しきれない。その結果、投票をためらい、かえって投票率が下がる可能性もありそうだ。
 次に、選挙制度が複雑になることだ。地方自治体の首長選挙ならば法改正で一気に導入できるかもしれないが、それも地方の意思を反映していないため好ましくない。しかし、地方自治体の選択に委ねれば、自治体によって制度が多様になるから、特にこれから移住が増えてくれば住む場所によって変わることになり有権者の混乱を招きかねない。また、都道府県議会議員の選挙制度では選挙区ごとに定数が異なるから、定数によって別の方式となるケースも考えられ、やはり複雑だ。いずれにしても、有権者の混乱は避けられないだろう。
 そして、集計する自治体の負担も大きい。私も選挙の投開票の実務を何度も経験したが、開票結果の確定は深夜になる。優先順位付け投票の場合は何度も集計しなければならなくなるから、何日もかかりそうだ。もちろん、電子投票になればそうした心配もなくなるだろうが、まだ現実的ではない。
 このように、優先順位付け投票の制度は、仕組みとしては興味深いものの実現には多くのハードルがあると思う。ただ、そのハードルをクリヤーして導入するだけのメリットはあるかもしれない。記事の執筆者も「導入の議論をそろそろ始めてもよいのではないだろうか」と述べる。私もそう思うと同時に、導入するかしないかの議論だけでなく、どんなことが現実解になるかも含めて実践的な対応が生まれてくることを期待したい。

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