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地方公務員が読んでおきたい書籍の紹介:池上彰「新聞は考える武器になる-池上流新聞の読み方」祥伝社黄金文庫、2023年

 テレビで分かりやすい社会情勢の解説をされる池上彰氏の番組は、今なお多くの方に視聴されています。また、著書「知らないと恥をかく世界の大問題」も14冊目が刊行され、書籍も人気を集めています。普段の生活でそうしたことを知る機会も時間も限られている私たちにとって、池上氏の番組や著書は、大変ありがたい存在です。

 本書は、池上氏が長年、朝日新聞に連載してきた「池上彰の新聞ななめ読み」を基にしています。2019年にも同じ趣旨の本が出版されていますが、今回は新しい掲載分も加わわったものです。過去にどのようなニュースがどのように報道されていたのか、その記憶を呼び起こすだけでも、本書を読む価値があると思います。

 もちろん、本書の意味はそれだけではありません。地方公務員が本書を読むと、次のようなことを意識できるようになると思います。

 第1に、新聞の読み方が深まることです。地方公務員だけでなく、一般家庭では複数の新聞を購読することは容易ではありません。せいぜい2紙くらいでしょうか。もちろん、新聞を購読すること自体、減ってきているので、今は1紙だけでも立派と言えるかもしれません。しかし、新聞社によって、内容や論調は大きく異なります。そこで、複数の紙面を読み比べることによって、新聞の読み方が分かるようになるわけです。複数の新聞を購読しなくても、本書を読めばその一端を身につけることができると思います。

 第2に、伝え方の工夫を学ぶことができる点です。本書には、用語や背景の分かりやすい解説が少ない、ということを随所で述べています。解説もなく突如出てくる専門用語は、記事を分かりにくくしている、というわけです。また、記事で何に着目するか(逆に、何を取り上げないのか)、どのような角度で論じるか、ということも新聞社によって異なるようです。地方公務員も、何をどのように住民に伝えるかは、広報部門に限らずあらゆる職員に必要なスキルです。本書は、読者の視点から記事を批評するものなので、住民目線で伝え方を身につける教材として有益だと思います。

 第3に、複眼思考の実践が簡単にできることです。物事には複雑な背景や側面があり、多面的に捉えることが大切です。中には一刀両断で鮮やかに斬る論客もいますが、気持ちがスッキリする半面、単純に捉えすぎなところがあります。複眼で見ることは容易ではありせんが、新聞記事を読み比べることで、効率的に身につけることができるのです。特に、地方公務員の場合は「全体の奉仕者」としての責務がありますので、さまざまな立場や考え方を踏まえる必要があり、複眼思考は不可欠だと思います。本書を読めば、身近な題材で手軽に複眼思考のコツが分かるようになります。

 以上の点から、本書は地方公務員にとって非常に有益な本だと思います。しかも文庫本なので、コンパクトで価格も安いです。まとまった時間に読まなくても、ちょっとしたスキマ時間に少しづつ読んでも良いので、おすすめします。

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