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地域分析の基礎 第15回 地域イノベーションの可能性を調べる

 今回は、RESASの独自機能として提供されている特許や研究開発の調べ方を紹介します。
 「日本は課題先進国」という表現を聞いたことがあると思います。高度経済成長の弊害として発生した公害問題は、国民の生活や健康に大きな悪影響をもたらしましたが、その経験が日本の環境対策を進めたという一面もあります。また、エネルギー安定供給や少子・高齢化は日本国内での経済活動や経済成長のボトルネックになる要素ですが、これを克服するための省エネや医療技術の発展などをもたらしたという一面もあります。このように、他の国にはない、あるいは他の国にはまだ顕著ではない課題に日本が直面することで、その解決の必要性から新たな対策が先行的に生まれることになり、その成果が他国への展開という形で貢献しうる、あるいはビジネスチャンスとなりうるので、「課題先進国」であることを前向きに捉えようという考えがあるのです。「必要は発明の母」と昔から言われますが、まさに他国にはない課題が必要を生み出し、発明につながるというわけです。

 これを地域分析の目線に落とし込んでいくと、どの地域が他の地域にはない課題を持っているのかが、その地域における解決の活動の要因となるわけです。どの地域にどのような課題があるのかは、まさに地域分析の基本的な使命に直結するものです。したがって、地域分析は課題を発見するだけでなく、課題解決の可能性を発見する作業とも言えます。これは、課題解決の需要を捉えることです。

 これに対して、課題解決の供給面を捉えることもできます。つまり、解決のためのノウハウがどの地域に存在、あるいは生育しているのかを見ることです。例えば、A県が直面している先進的な課題を解決するにはA県内での取り組みが重要ですが、B県に解決の糸口を持っている企業や研究機関などがあれば、それを活かすことも有益でしょう。そこで、それぞれの地域がどんなノウハウを持っているのか、また将来的に持ちうるのかを調べることが、その地域の発展のための要素を見出すことにつながると言えます。
 これを調べる方法がRESASにはあります。「企業活動マップ」の「研究開発費の比較」と「特許分布図」です。研究開発費の比較は、都道府県単位で企業がどのくらい研究開発費をかけているのかを表したものです。一概には言えませんが、研究開発費をかけるほど先進的な技術やノウハウの蓄積が期待できます。製造業と非製造業に分類して調べたり、時系列の変化を見たりすることができます。

 また、後者は地域に所在する特許の情報を表したものです。重要な知的財産である特許をどのような分野で保持しているかが分かるので、これらを活用・結合することで発展する可能性が期待できます。

 ただし、研究開発や特許は地域で生み出されている付加価値や雇用機会といった「現在の経済状況」ではなく、あくまで「今後の可能性」を占う要素です。したがって、あくまでも可能性・タネであり、これを花開かせるには企業経営者のセンスや企業の体力、さらには異業種交流などを踏まえて、それらの一部が成功することになるでしょう。場合によっては、ことごとく成功することもあれば失敗に終わることもあるかもしれません。
 しかし、何もないところには何も生まれないことも、また事実だと思います。研究開発や特許があるからこそ、それを活かすことで地域が発展する可能性も生まれます。どの地域にどんな課題(ニーズ)があるのか、それを解決するために地域にどんなノウハウ(シーズ)があるのか、解決への仕組みが整っているかを見きわめて、具体的な取り組みを進めていくための情報がRESASには収録されているので、有効に活用することを勧めます

 もちろん、研究開発や特許は企業の知的財産に直結するので安易に公開されるものではありません。RESASの情報も決して細かいものではなく、具体的な取り組みを進めるには綿密な調査が必要です。企業はあくまで自らの経営判断で研究開発や特許取得を行っているので、地域の取り組みに協力してくれる保証もなければ、確実に成果をあげる保証もありません。したがって、この取り組みは紆余曲折、試行錯誤、失敗も覚悟しなければならないでしょう。

 しかし、こうした取り組みの上に、地域の次の未来が開けていることも事実だと思います。地域の課題がますます深まってくるなかで、地域に自らが解決に向かっていくことこそ、解決の可能性を高め、新たな発展の種を生み出す唯一の原動力になる、と言っても過言ではないと考えます。
 RESASの機能として注目度は必ずしも高くありませんが、これからの地域を占う情報として、ぜひ活用してみてください。

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