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地方公務員が考えるべきこと 第9回 岸田政権の経済対策を考える視点-「分配」と「再分配」の区別から

 先日行われた衆議院総選挙では「分配」の面に注目が集まった。自民党も立憲民主党で「成長と分配のいずれが先か」という点では違いがあったものの、分配面が注目されたことは共通している。また、選挙を経て本格的にスタートした岸田政権でも「成長と分配の好循環」を掲げて、数十兆円規模の経済対策が打ち出されている。
 ここでは、「分配」と「再分配」を比較することで、これから進められる「分配」政策の特徴に接近してみることにしたい。
 「分配」という言葉で多く使われているのは、例えば、経済活動によって生み出される付加価値を企業と労働にどう帰属させるか、つまり「労働分配率」である。あるいは、労働者に分配される賃金でも高所得者と低所得者があり、これは賃金の分配問題である。若手職員とベテラン職員、正規と非正規職員、男女、大企業と中小企業、大都市と地方などで格差が生じる。
 こうした分配面に切り込む政策として、岸田政権では賃金を増やした企業への法人減税が行われることになり、また男女雇用機会均等や同一労働同一賃金など実施中のものもある。したがって、分配に配慮した政策が行われていて、それが重要であることは間違いない。

 ただし、これらは市場で分配を決める際に、政府の力で変更を加えるものだ。規制による強制的なものや税制による誘導的なものもあるが、いずれも市場での分配に入り込む政策である。

 国がもっと直接的に行えるのは、税制を通じて行うものである。つまり、市場で分配された結果を政府が税という形で一部引き取り、民主的プロセスを経て形成された政府の意思であらためて分配を行うことだから、「再分配」と言える。このように、分配と再分配は同じように見えて同じではない

 再分配の方法で代表的なのは、所得税と社会保険料である。所得税は、所得水準の高い人への税率を高くすること(累進課税)で、「払える人に払ってもらう」形をとっている。しかし、税負担が過重になると勤労意欲を損ねるとされ、税率のフラット化が進んできた。岸田政権では「1億円の壁」(所得水準の高い人の方がかえって税率が低くなる状況)を打破するために金融所得課税の見直しが提起されたが、すぐには進みそうにない。
 また、消費税の増税は安倍政権の下で進められた。消費税のメリットは安定した財源が確保できることや全世代に広く薄く負担してもらえることである。税率が一定なので再分配の効果は所得税ほどではないが(逆進的とも言われている)、主に子育てや年金・医療など社会保障に使われるから、負担と支給を組み合わせて再分配の役割はある程度果たしている。ただし、岸田政権で見直される可能性はほとんどない。
 一方、社会保険料は税ほど国民の抵抗感が少ないせいか、負担は年々上がっている。そういう意味では再分配の効果が期待されるのだが、受給対象は医療や年金など高齢者だから、若年層や勤労層から高齢者への再分配に限定される。

 もちろん、国が行っているのはこれだけではない。岸田政権では、困窮世帯や18歳未満の子どもがいる世帯(所得制限あり)への給付金が支給されるようだ。また、地方創生やデジタル田園都市などで、地方圏への支援も行われる。目玉政策として注目されているのは、むしろこちらの方だ。しかし、これらの多くは財源を税収ではなく赤字国債によっている。つまり、誰も税負担をしていないところから分配をしているので、「再分配」と言えるものではないだろう。先に述べた「分配」とも少し違う。市場で分配を決める際に、政府の力で変更を加えることではないからだ。
 再分配の側面があるとすれば、赤字国債を償還する将来世代の税負担から現在世代への再分配が行われれば成り立つかもしれない。将来世代が税負担に大きな余力を持っていれば、そうした再分配も受け入れやすいだろう。そのためには、成長戦略が欠かせない。だから「成長が大切だ」というのは、その通りだと思う。重要なのは、実際に成長することで初めて再分配が成り立つ、ということであろう。

 そのように考えると、今回の「成長と分配」という路線は、本来「成長と再分配」と表現した方が適切だったのではないか。そうしなかったのは、再分配のための原資が将来確保できない可能性がある、ということを暗示しているようにさえ思えてしまう。言葉遊びをするつもりはないのだが、アベノミクスでも三本の矢のうち成長戦略が弱いと指摘され、今回の経済対策でも論調は変わっていない。現時点では、そうならないことを願うしかない。

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