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生贄は、文化だ。【「ミッドサマー」ネタバレあり】

「ミッドサマー」を見ました。いまさら。

人気あるのは知ってたけど、ホラーだと思ってたんだもん……

いろいろと思うところがあったので、なんちゃって文化人類学してみます。

未知なるものへの恐怖

すでに多くのレビュー、感想があふれているのであらすじは省きますが、この映画で描かれているのは、「未知なるものへの恐怖」だと思います。主人公たちが訪れるスウェーデンのコミューン「ホルガ」には古くから伝わる習慣があり、それがあまりにも自分たちの文化とかけ離れているあまりに恐怖に感じられる。でも、コミューンを構成する者にとってはそれが常識であり、否定することの方が異端と見られます。

知らないから怖い。ただそれだけなんです。

「隣に住んでるサイコパス」感

わたしはこの作品を見ながら、「これはアフリカでも成立するストーリーだろうか」と考えていました。何らかの理由でアフリカの先住民族とともに暮らすことになった白人が、「野蛮で過激」な習慣に戸惑いを覚え、やがて恐怖を感じていく…というような。けれど、結論としてはこの設定だからこその恐怖が作品の軸になっていると思いました。

「言葉が通じない民族」「なじみのない文化」という意味では、主人公から見てホルガとアフリカは同じ距離にあるはずです。しかし、ある過激(に見える)な行動を起こした時、明らかに違う文化をもっていそうなアフリカの民族よりも、一見同じ価値観を持っていそうなホルガの人々の方が「隣に住んでるサイコパス」的な恐ろしさを感じさせるのではないでしょうか。

「コンテンツ全部見東大生」こと大島育宙さんのyoutube解説では、そのようなことをもっと賢い感じで説明しています。

いわく、土着の宗教行事や習慣を野蛮なものとして描くいわゆる「野蛮人モノ」は映画史において古くからありましたが、スウェーデンという白人文化圏を舞台にしているところが斬新であるとのことでした。すごく納得。

世界各国違うもの、同じもの

ホルガに伝わる死生観、宗教感は主人公だけでなく観客にとっても強烈なものでしたが、圧倒的な文化の違いが描かれる一方で「世界各国共通している=人類の遺伝子レベルでインプットされている文化」も想起されました。それは、「祭」「性」「酒」の3つです。

「祭」

映画の終盤、主人公を含む女性たちがダンスコンテストで「メイクイーン」を決めるイベントがあります。楽隊が太鼓を打ち鳴らし、管楽器を吹き鳴らす脇で女性たちが輪になって踊ります(このシーンだけ見ればまるで妖精たちの祝祭の様子です)。

こうした歌舞音楽は、おそらく人類誕生の頃から形を変えて行われてきたはずです。日本伝統の祭囃子があるように、ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、中国、ありとあらゆる民族音楽や舞踊は、祝祭や祈祷に起源をもっているのではないでしょうか。

「性」

言うまでもなく、人類は男女の交わりによって繁栄してきました。それはアフリカ人でも、欧米人でも、アジア人でも皆同じ。これだけは人類の共通項といってよいでしょう。「ミッドサマー」では、コミューンを保つために外部から子種を迎え、新たな命を宿すための「儀式」がかなり生々しく描かれています。

性的な行動、象徴に聖性を与えて特別視した表現は、インドの仏教美術に代表されるように古代から伝わる手法です。子孫繁栄は宗教や文化圏を超えた種としての本能であり、性なくして人類は繁栄しないのです。

「酒」

古今東西、酒におぼれて失敗をしでかす人物はどこにでもいるもの。人間だけでなく、神話にも酒好きな神や妖怪などのキャラクターは登場します。アルコールがつくりだす酩酊状態は中毒性があり、どんなに禁じても隠れて作る者が出てくるほど。人の歴史は酒の歴史と言ってもよいかもしれません。

「ミッドサマー」では飲酒のシーンはなかったものの、似たように中毒性が高い嗜好品として大麻(?)のような薬物が登場します。要は、人間は気持ちいいものを手放せないということです。

たぶん人類は全員いっしょ

文化の違いと共通点をひたすら考えていくと、境界線がだんだんと融解していきます。なんか、結局みんな一緒なんじゃないか?

ホルガの死生観は現代日本の我々にとっては違う世界のものだけれど、死を終焉ととらえずサイクルの一部とする考え方は、仏教の輪廻転生に近いです。歌や踊りで神に祈り、感謝し、祝うという文化は全世界共通と言って良さそうな習慣。アヘン戦争の時代から、酒やたばこのような中毒性のある嗜好品はどんなに規制しても世界からなくなることはありません。一定の年齢の女性に強制的に性行為を行う儀式も、かつて近畿地方に実在したそうです。

何が言いたいかというと、言語や信仰対象が違っても、結局人間がやっていることは同じ。神も仏もキリストも、どっちが偉いとかおかしいとかはないのです。


例えば。

「真っ白な衣装に全身を包み、奇声を発しながら一心不乱に木製の箱を担いでいく……」

と聞くと、何やら怪しい宗教団体の儀式と思われるかもしれませんが、それって普通に東京で毎年行われる伝統行事です。 





ね。怖くないでしょ。知ってるやつでしょ。


知らないことは怖いこと。自己防衛の本能からいえば当然ではありますが、そうした警戒心が知らず知らずのうちに差別を生んでいると思うのです。

なんだか急に真面目になっちゃったけど、そんなことを思いました。


最後に一言言わせてください。

熊、出てくるのそこかーーーーい!






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