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vol.16浅き夢みし

ナレーター目黒泉

あなたは夢を信じているだろうか。今回は夢を信じられなくなっていた女性に舞い降りた小さな奇跡の物語。

目黒泉。もうすぐアラフォー。

今年の正月。帰省した郷里、新潟の雪深い山奥の村。

自然の中で放牧されたヤギが村を歩く。そこで見た初夢は…

猪鹿蝶、狩野マネージャーから電話がかかる「目黒で決まったよ!」


ハッと目が覚めた。が、すぐに思いとどまった。

『これは逆夢に違いない。やはり今年もダメなのか。。。』そう思い込んだ。

自然に囲まれたのどかな環境で見た夢。しかしこのまま身も心も落ち着いてしまう、という焦りが、逆に不安を掻き立てていた。

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浅き夢みし

学生時代から声優養成所や小劇団に通うが、いったん諦めOLとして働く。

それでも気持ちはおさまらなかった。

モヤモヤの末、再びのチャレンジで夢にかけた。

次の養成所では準所属まで行ったが、舞台漬けの日々。生活が困窮するまでやり続けたが「前に進んでいる」手応えがまるでなかった。

「遠回りしたけど、ホントにこれが最後」と思い飛び込んだスクールバーズ。

それまでは、何かがもう一つ足りないと指摘を受けていた。

人生を変えることを決意し振り切った。バッサリと髪を切りベリーショートに。住まいも無理をして都心に移り住んだ。

飛び込みの営業もやってみた。小さな仕事だが、ほんのわずかに成果は出た。

2ヶ月に一本の小さな仕事。それだけを頼りに夢をつないだ。

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張りつめた糸

3年、4年、5年が過ぎた。

粘り強さは彼女の持ち味ではあったが、月日は容赦なく過ぎていく。

サンプルを何枚も作り、猪鹿蝶へ応募した。目黒はそのどれにも引っかからなかった。彼女を置き去りにして、次々と新番組に決まっていく新人ナレーターたち。

「輝く才能がまぶしかった。いい声だし表現力もすごい。自分との距離を痛感しました。ホントに遠いなーーって」

自分がナレーターをやっている存在意義ってなんだろうと、自問自答する日々。

「メソメソくよくよ、不安に包まれていたけど。。。でもあえて気にしないように。傷つかないふりをしてたんでしょうね。本当は張りつめて、弾けそうだったのかもしれません」

焦りが鎧のように重く、心にのしかかっていた。次の事が考えられなくなっていた。

「いろんなサンプルを作って、もう、何をどうすればいいかわからなくなって。今のままではダメだということだけは、わかってたんです」

もう終わりという思いがさっと頭をよぎった。

「心が疲れてたのかな。最近のサンプル作成では、もう力が入らなくなっていたんです」

その頃に見たのが冒頭の初夢だった。

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力を抜くのではなく入らない

2016年になり吹き荒れた、10年に一度の「報道」大改編の嵐。

大きなうねりに目黒も巻き込まれていく。

「オーディションの話をいただいた時、以前だったらいろんな表現のプランを組んで臨んだと思います。でも今回はそうはしなかった」

「全てを脱ぎ捨て、フラットに読んでみたんです。いやもうそれしか出来なかったというのが、ホントなんですけどね」

積み上げてきたものを、あえて捨てて読む。力が抜けた表現。それを本人は力が入らなかっただけと言う。それが大きなゴールを決めた。

フジテレビの夜の報道「ユアタイム」が選んだ声は「目黒泉」であった。

決まった瞬間は胃液が逆流するほど体が震えた。

「今でも不思議な感覚は続いてます。ナレーションも心もフラットであるつもりなんですが、もしかしたら浮ついてるのかな?」

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ナレーターは電気箱の夢を見るか

自分の強みはなんだと思う?

「無謀だと言われてもやってみないと気が済まないことかな。ハハ。あとは人のアドバイスはなんでも取り入れてみるところでしょうか。あ、もちろん誰のアドバイスかが大事ですが」

最近もう一つ夢を見た。尊敬する人が初めて出てきた。「決まることだけが幸せじゃないんだよ」

「とてもリアルな夢でどういう意味かと考えてます。今までは流れの中でアップアップしてきたけど、泳ぎ切ってみろということかなーと。ハハハ」

小さな奇跡。ふとした時に誰かがつかむ。

最初にさっとつかんでいく者。前のめりに転びながら、もがいた末につかみ取る者ある。

そんな彼女の未来に幸あれ。

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