【 はじめましての方向けガイド 】初めてでもわかるイノシチ
やあ皆さん、こんにちは。わしは、キノコの神様じゃ。
どうじゃ、この立派なカサは。モフモフとして、美味しそうじゃろう。
おっと、うっかりかじりついてはいかんぞ。キノコは加熱調理が基本じゃからの。……って、そもそもわしは食用ではないのじゃ。ここはひとつこらえて、少しばかりわしの話を聞いてほしい。
まずは、この世界について。
ここはとある海のとある場所の島、その名も「イモガラ島」じゃ。この島には、多くのイノシシたちが暮らしておる。全体的に丸い輪郭で、北側には島で一番栄えている「キノコ町」、南側には島で一番の米どころ「イナホ村」など、各地に集落が存在しておるぞ。
イモガラ島の歴史は、この島にイノシシたちが暮らしていた痕跡がみられる最古の時代とされる「原始時代」に始まる。この頃のイノシシたちはまだ、協調せずバラバラに生活していた。
やがて、体の大きなイノシシたちが個々に集団を形成するようになり、それによって各地で権力抗争がたびたび起こるようになっていったんじゃ。この時代は、「豪族時代」と呼ばれておる。
各地の豪族たちは、いつしか無駄な争いを避けるための手段として、相撲で勝負することにより島の統率者を決めることになった。こうして選ばれた統率者はイモガラ島の王となり、いわゆる「王国時代」がここから始まった。
王国時代が軌道に乗ってくると、相撲による勝者(家柄)がやや固定化され、それを専門家の助言により維持していくという体制が安定していった。その専門家を育成するための教育機関も、この時代大いに発展していったのじゃ。
しかし、長く続くかと思われた王国時代にもやがて終わりが訪れる。王族の中で、親族間の覇権争いからクーデターが起こったのじゃ。結局このクーデターは失敗に終わり、首謀者とその従者たちは失脚してイモガラ島から一番近い、けれども自然環境の厳しいワイル島へと追いやられてしまった。
その結果、イモガラ島では王国の一強支配に疑問を持つ声が増えてゆき、ついに革命が起こり、選挙により政治家を選ぶ「民主時代」へと移行することとなった。そして今に至る、というわけじゃ。
皮肉なことに、失脚して別天地に追いやられた敗者たち=クーデターの首謀者たる元王族たちは、ワイル島に渡ってから新たに別の政治体制を立ち上げ、ここにワイル王室が誕生した。イモガラ島では消滅した王制が、ワイル島で形を変えて今もなお存続しているのはそのためじゃ。
ワイル島では上質な鉱石が採れるために、食料が豊富に生産されるイモガラ島との貿易も内々に行われるようになった。正式な国交はまだ復活していないものの、この二つの島国が互いに自由に行き来できる日が来るのもそう遠くはないじゃろう。わしも、これには大賛成じゃよ。ワイル島の住民にも、イモガラ島のキノコをたっぷり味わってもらいたいからのう。
さて、この島には、たくさんのイノシシたちが楽しく愉快に暮らしているが、中でもひときわ面白いイノシシがいての。そう、彼の名前こそが「イノシチ」じゃ。
イノシチは、ちょっと内気な絵描きの青年。イノシシの皮を身にまとい、キノコ町のメインストリートで似顔絵を描いたり、夜には居酒屋でアルバイトをしたりしておる。基本的にはあまり目立ちたがらない性格じゃが、何しろあやつの周りには個性的でにぎやかな仲間ばかり、おかげでイノシチはいつも彼らに振り回されっぱなしなんじゃ。ついこの間も、イノシチが愛用しているバンダナに付いていたロゴマークがきっかけで突然“賢者”とまつり上げられたり、とまあ……意外にも“持ってる”男なんじゃ、イノシチは。
彼の一番の親友は、「シシゾー」という黒毛イノシシ。こやつがまた、元気で騒がしい男でのう。スポーツジムでインストラクターを務める、みんなの人気者じゃ。やたらキノコをよく拾う男で、それが縁でキノコ研究者の「ウリ山博士」とも仲良くなるなど、実に人懐っこい奴なんじゃよ。
ウリ山博士は、とにかくキノコが大好きな研究熱心な男じゃ。イモガラ島でこんなにもキノコが愛される存在となったのは、彼のおかげによるところが大きい。何しろ、イモガラ島名物のお祭り「キノコフェスティバル」を生み出したのはウリ山博士なのじゃ。彼によって、この島に古くから伝わるキノコ神信仰が多くのイノシシに知られるところとなった。まことに良い心がけじゃの、ほっほ。
ウリ山博士には、娘のように可愛がっている「うり子」という姪がいる。うり子は物静かでミステリアスな女性で、他の者には見えない二つの鬼火を背後に従えている。ちなみに彼女の親友のカリンはイノシチのファンで、彼にとっての“お客様第一号”というとても重要な存在じゃ。
うり子とはまた、対照的な女性も紹介しておこうかの。彼女の名は「ワール=ボイド」、イモガラ島のレストランでダンサーをしているとても活発な女性だ。彼女はある事情があってイモガラ島へやってきたのじゃが、これが後々意外な展開をもたらすこととなる。
ワール=ボイドについての真実をいち早く知ったのが、キノコ町の巡査「イノガタ」。彼は大変真面目な働きぶりで、町の皆から慕われておる。イトコの「シシヤマ」ともども、身寄りのないイノシチを常に気にかけてきた。
このシシヤマという男が、またクセ者での。昔からの友人と一緒に細々と演劇をやったり、とあるデザイナーの考えたロゴマークを“賢者マーク”としてグッズ化してみたり、またある時はテレビにも出たり……要するに、一言では語りつくせない男じゃ。常に何かをたくらんでいるようなところがあるのう。
とまあ、イモガラ島の歴史と、イノシチを取り巻く主な仲間たちの紹介は、ざっとこんなところかの。
もちろん、イモガラ島にはほかにも個性的な者たちがたくさん暮らしておる。不思議な生き物を見かけたという情報もあるし、山奥の集落には、忍者の集団も隠れ住むという噂じゃ。
皆さんも、もしこの先イモガラ島に遊びに来る予定があれば、イノシチとその仲間たちに会えるかもしれんな。その時は、ほんの少しでもいいから、わしのことも思い出してくれると嬉しいぞい。
それではまた、どこかで会えることを楽しみにしておるぞ!
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