映画『FIRST SLAM DUNK』の印象、その現在的位置について


『THE FIRST SLAM DUNK』を映画館(109シネマズ)で観ました。

〔写真〕早く着いたので腹ごしらえ。なぜなら18時50分から21時5分までの1日1回限り上映なのだ。然も上映は100人程度の小さな客席(7割ぐらい埋まっている)だけ。なぜかそろそろ店じまいの感じです。

 そういう感じなのに、日本での興行収入は7月末現在で150億円を突破している。
 また中国では5月末現在で130億円、韓国で50億円の興行収入になっており、欧米は少ないようだがそれでも合計すると軽く300億円は突破している。

 この映画を観る気になったのは文藝春秋9月号の記事を読んだからです、
 https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h6391
 中国の80年代以降に生まれた世代、いま30代から40代ぐらいの世代は、スラムダンクを90年代のテレビアニメで見ていた。そこで「青春」を初めて体験する。だから映画版ファーストスラムダンクを懐かしさを抱いて映画館まで足を運ぶ。

 この記事によると、中国の近代には「青春」という概念がなかった。80年生まれ世代以降、それまでの共産党や革命に奉仕する役割りが固定された青年像ではなく、個人の内面を見つめることから始まる自分探しがスタートする。僕が描いた『マガジン青春譜 川端康成と大宅壮一』のテーマは、明治から大正時代の日本だが、中国はようやく個として「青春」を謳歌し、また模索する時代がやってきた。
 同時に短期間での急速な経済成長による激しい競争社会が存在しその落伍者も生まれている。若年失業率は20%、実際には40パーセントとも見られている。

「スズメの戸締り」の観客数は中国ではもう「ファーストスラムダンク」を超えているのだそうだ。スズメは、10代20代を幅広くつかんでいるからだ。
 https://www.recordchina.co.jp/b914303-s25-c30-d0052.html

 それはともかく新海誠監督のアニメはどこか幼なくてスズメをわざわざ観に行く気にはならない。
 しかし今回、文春の記事を読んだのでスラムダンクを観ておこうという気持ちになり、実際、観てよかったと思う。
 2時間のなかにテーマが凝縮されており、カット割がテンポよく、音響(ボールを弾く音など)も立体的で、情景・風景もドローンのような角度が多用されているから、全体に絵画的な奥行きが上手につくられている。バスケチームのキャラクターも素早い動きのなかで個性的に深掘りされていた。

 僕の結論は、日本はかつて黒澤明や小津安二郎など世界をリードした映画の黄金時代があったが、その後の劇映画は低迷している。アジア人が主役では市場としてもハリウッドには立ち打ちできない。今回、ファーストスラムダンクはアニメというより映画だと思ったのだ。アニメでありながらの映画。ニ線級ではあるが無国籍のこの分野に特化することで完成度と先端性を高めれば日本は何とか世界に伍していくことができるのではないかと。

 コロナ禍でAmazon primeとNetflixばかりの3年間、久しぶりの映画館でした。

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