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小説

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彼女

 濡れた窓ガラスの先に映る風景が、油絵みたいだった。
 私はイヤホンから流れるaikoのアルバム「彼女」を聴きながら、バスに乗って大学から帰っているところだった。天気予報が外れて突然の雨だったので、バスに乗ることにしたのだった。特に用事はなかったので、ビニール傘を買って、最寄りの駅まで歩いてもよかったのだが、ちょうど良い時間にバスが偶然来たので、一人ふらっと乗ったのだ。このバスだと、電車に乗らなく

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祝日

「ねぇ、空がこんなにも青すぎると死にたくならない? 」
 そう言おうと思ったけれど、言ってはいけない気がして言えなかった。
 でもどうしてもこのことばが頭から離れない。困った。

 「ねぇ、今日の空青すぎない? 」
 倫子は言った。幼い子どもがお母さんに、何に対しても「これなぁに?」と訊くのと同じような感じで。
 私はついに、言ってしまった! と思ったが、言ってはいけないことは言っていないよな、と

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