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『日本未来論』ハーマン・カーンの京都産業大学での講演記録(環境研究、未来予測)

 1969年に読売新聞で発売されたこの本は、ハーマン・カーンの京都産業大学での講演をまとめたものだ。彼がなぜ京都産業大学の顧問なのかは知らないが、この本のおかげで、長らく分からなかった「謎」がひとつ解けた。

 ランド研究所、ハドソン研究所でハーマン・カーン、組織工学研究所で糸川英夫さんが行っていた未来予測は、「シナリオ・ライティング法」と呼ばれていたが、1990年代以降には「シナリオ・プランニング」と呼ばれている。ハーマン・カーンから学んだシェルのピーター・シュワルツが、そもそも未来予測は不可能なので、企業経営において複数のシナリオを策定し対策を練るリスクマネジメントツールと位置づけ、それを「シナリオ・プランニング」と呼んだのだろう。

 ハーマン・カーンの未来予測で参考になったのは、「ソープ・オペラ」を研究し、そのときの社会の考え方を捉えるというアプローチだ。例えば、アメリカにおける1930年代の「ソープ・オペラ」は主人公は家族より仕事を優先し、1960年代のそれは、家庭と仕事がぶつかると、常に家庭を第一義に考える。つまり、価値観が180°変わったことは「ソープ・オペラ」がセンサーになるということだ。

 ハーマン・カーン曰く、当時のアメリカは年4%、もしくは5%の割合で成長しているのに対し、日本が将来、年7%か8%で成長し続ければ、今世紀の終わりまでに(1999年)、日本は個人所得でアメリカと等しくなるか、あるいはアメリカを抜くとしている。その理由は、日本人は世界の中でのもっとも目的をはっきり意識して行動する国民で、その目的のため共同体的なみんなが一緒に力を合わせてやっていこうという意識を強くもっているからだ、と。
 
 この予測に対し、当時の日本の評価は、アメリカで有名な未来学者が日本がアメリカを抜くと予測しているということで大喜びし、ハーマン・カーンの本を各メディア、出版社がたくさん出版している。しかし、前述の予測は、年率「X%」で成長し続けると、1999年までにはアメリカと同等か、それを抜くと言っているので、未来予測の手法が「単純外挿法」なのだ。つまり、「シナリオ・ライティング法」ではない。この本では、読売新聞の解説者が、未来予測の素人なため、「単純外挿法」と「シナリオ・ラィティング法」を完全に混同している。また、人類の千年の歴史のなかで、日本は戦争をやって1回しか負けていないなどの礼賛が続く。
 極めつけは、30年後にこの予測が外れたら「謝る」としているが、彼はは1日6回も食事をし、毎食80グラムのハンバーガーを欠かさず、180cm、130kgの巨漢で、かかりつけの医師に元気でいるのが不思議だとも言われている。そして、この本が出版された14年後の1983年に61歳で亡くなっている。

 日本の経済成長礼賛と同時に、1970年代の中ごろに、日本は小型原子爆弾を五百から千個ぐらい製造する能力と、ミニットマン型のミサイルも開発していると予測している。日本礼賛の基本ロジックは「単純外挿法」という誰でも同意類推できる方法で語り、まったく異質な核兵器保有能力の話をする。さらには京都産業大学の理事岩畔豪雄さんと対談する。(岩畔豪雄さんは陸軍の中野学校の設立者であり、京都産業大学の設立者)そして、ハーマン・カーンは、ベトナム戦争におけるマクナマラ戦略の基本になった戦略立案者でもある。

 本書を読んでいると、ハーマン・カーンには何らかの営業的な意図があり、日本に近づいたのではないかと推測せざるを得ない。ハーマン・カーンの死後、「ハーマン・カーン賞」が創立されたが、アメリカ人以外の外国人としてはじめて受賞したのは、安倍晋三氏だ。ちなみに、ハーマン・カーンは、映画『博士の異常な愛情』のストレンジラブ博士(Dr. Strangelove)のモデルとなった人物でもある。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。