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『バッテリマネジメント工学』枠組みとしてのノウハウを日本語でオープンにする意義は大きい(技術情報バンク)

 BEVの競争力を司るものとして、素材としての液体か、個体かというハードウェア部分とバッテリーマネジメントなどのソフトウェア部分があると言われているが、一般的に前者は東京工業大学からトヨタ自動車と日本が有利と認識されている。しかし後者は、データの蓄積が必要なのでテスラのような先行組が有利と言われている。本書はバッテリーマネジメント工学の教科書的なものだが、電池本体の電気化学的な電気化学の側面(物理と化学の世界)とバッテリマネジメントのシステム技術の側面をシステム工学的に解説したものだ。

 そもそも電池そのものが電気の専門知識を必要とし、なおかつ、化学反応などの法則の両方を必要とするが、さらに以下の3つのバッテリーマネジメントとしてのソフトウェア的基本機能を必要とする。

 ①保護・安全確保のための制御
 ②性能確保のための制御
 ③電池寿命確保のための制御

 面白いのは、バッテリーそのものが化学反応であるため内部状態の計測がやりにくいため、入出力電流などで「見えない情報」を状態を推定し、充電率や健全度、充放電可能電力を把握し、マネジメントする必要があるということ。

 システム工学的には、それはモデリングすることで推定していくわけだが、EVなどでは駆動部であるモーターは電気回路と回転運動のように目に見える形でモデリングできる(ホワイトボックスモデリング)、しかし、エネルギー源である電池は、複雑な物理化学法則に支配されており、蓄積データなどから統計的に割り出してモデリングするしかない(ブラックボックスモデリング)。
 電池技術の物理化学法則は詳しく分からないが、スマホやPCのように電池の使用が比較的変動の少ない量で行われるモノでなく、アクセルを踏み込むと消費量が多くなるような自動車などでは、①②③がベストになるバッテリーマネジメントが非常に重要で、そこが目に見えないノウハウによる競争力の源泉になる、ということが、本書を読むことで感覚的に理解できた。

 本書の巻末の著者の経歴ほとんどが、日産自動車に関与した方々だが、本書が東京電機大学出版局から出版され、大学の教科書や民間の技術入門書となることを考えると、その貢献は大きい。また、本書のまえがきに「日本は素材や部品の技術レベルは高いが、システム技術が弱いと言われることがある。電池も同様で、明治時代からの長い歴史があり、電池の素材や部品の技術レベルは高いが、電池の状態推定の利用技術では、必ずしも優位でなかった」
とある。そして第4章ではわざわざ、「電池のためのシステム工学」という章を設け、カルマンフィルターなどのモデリング手法を紹介した内容になっている。枠組みとしてのノウハウを日本語でオープンにする意義は、自社だけでなく、日本の業界全体の人材の底上げにつながるが、2021年5月の段階で4刷りになっている本書の意義は大きい。
 少なくとも、私のような電池の素人でもBEV時代に必要なのはシステム技術(バッテリーマネジメント)だということを理解することができた。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。