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『イスラーム信頼学へのいざない』未来の日本への贈り物になる出版企画だ(世界の歴史)

 ムスリム人口は20億人になり、キリスト教に次ぐ世界第2位の宗教だ。50年後には世界1位なるともいわれている。主にアジア、アフリカのムスリム人口がそれを牽引している。今後の人類社会でイスラームを理解することは必須だろう。イスラームは14世紀の拡大の歴史を通じて、ムスリム同士だけでなく、他宗教の人々とも関係を作り上げてきた。このなかに「つながりづくり」や「信頼」の知恵が隠されている。それを東京大学出版会が出版するシリーズの第一弾が本書だ。

 622年にムハンマドがメッカからメジナに移住した際に、メジナに住むユダヤ教徒や多神教徒と激しい部族間抗争が起こった。ムハンマドは相互の復讐戦を止め、63条による約束事を制定し、秩序を乱すものには厳しく対峙した。これは「メディナ憲章」呼ばれている。これにより、メディナはムスリムとユダヤ教徒からなる治安のいい町にすることに成功した。また、歴史的にもイスラームは多様なキリスト教会を存続させてきた。

 本書はイスラーム研究学者による分担執筆なので、「つながり」についての知恵が、個人、地域、国家、都市、経済、思想、デジタル人文学、保育園などの切り口でまとめられている。そのなかで、私がもっとも興味があるのは、長岡慎介氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域地域研究科教授)による「未来をひらくイスラーム経済のつなぐ力」だ。

 もともとムハンマドは商人だ。そのセンスから生み出されたルールは、金貸しは労働に値しないところから生まれた利子の否定、ギャンブルとみなされる保険の禁止、バブルを生まないイスラーム銀行のシステムなど、資本主義の欠点を見事に補うのである。また、巨額な施しによる病院や学校が立てられるワクフの存在など、交換経済だけでなく、神を仲介することによる贈与経済のシステムも参考になる。

 このようなイスラームの知恵を、現代の日本が学ぶために整理して伝えるという東京大学出版会の企画は、未来の日本への贈り物になるはずだ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。