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『どんがら』トヨタ自動車の強さがわかる1冊(プロフェッショナルマネージャー)

 私の場合、「どんがら」というと飛行機を思い浮かべてしまうが、検索してみる、自動車用語として「ドンガラとは、レーシングカーのように、不要な内装やシートなどを取っ払い、ほとんど鉄板剥き出しの状態になったボディのこと」とある。それにしても、MZ世代の人とか、女性とか、学生は何の本かわからないだろうな、と思うようなタイトルだ。

 内容は、トヨタ自動車のチーフエンジニア(主査)の一人を描いたノンフィクションだ。著者の清武氏の前作の『後列の人 無名人の戦後史』では、宇宙科学研究所のロケット班長の林紀幸氏のテストパイロットだった父親のことや、私もよく知っているアンさんのことを、丹念に調べ書いてあったことを思い出した。また本書も、実名のままでリアルな情景が浮かぶ面白さがある。

 私にとって面白かったポイントは2つあった。
 一つは、エンジンの親分である小吹信三専務が、86に当時最先端の直噴エンジンを載せることを後押ししてくれたくだりと、もう一つは、多田氏のような異能なエンジニアをバックアップする内山田副社長の存在だ。要するに、エンジニア同士の関係が人と人であって、そこにヒエラルキーの都合が介在していないのである。ある意味、それがトヨタ自動車の主査制度の強さなのだろう。一方、それがトヨタ自動車の固有技術であり、ファーム・スペシフィック・スキルとして社員に身についたものだとすると、他の業界では応用がききにくいという欠点にもなる。もう少しいうと、現在のMZ世代の人たちが本書を読んで、素直に感動し、何も考えず会社に人生を捧げるとは考えにくいのである。捧げる人がいるとしてもその確率はどんどん少なくなっていく。

 CE(主査)の役割が原価企画と性能という相反するものをアウフヘーベンするところにあるとするならば、その会社固有のファーム・スペシフィック・スキルとポータブルスキルという会社と個人の利害が相反するものをアウフヘーベンできない限り、これからの時代の若者の能力を引き出すことが難しくなるのではないかということを痛切に感じさせてくれる1冊でもあった。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。