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『能力はどのように遺伝するのか 「生まれつき」と「努力」のあいだ』浮気もギャンブル依存症も遺伝から

 遺伝は能力の個人差と、それが引き起こす社会的格差の原因になっている。遺伝子が生み出す遺伝的多様性はさまざまな格差となって人々に苦しみを与え続けている。そして、筆者は断言する。人間の世界を本当に救ってくれるのは、確固とした遺伝的素養から生まれた「自然の能力」であって、環境や教育によって人為的につくり出されたものではない、と。

 遺伝について語ることは今までダブー視されてきた。「学力は遺伝だ」というと生徒が勉強する気力をなくしてしまったり、結婚話に影響したりするため、パンドラの箱にしまい込まれていた。本書は「行動遺伝子学」という切り口でその箱を開けてしまったのだ。

 2001年に終結したヒトゲノムプロジェクトの成果として、ATGCの4つの塩基の配列のは99.9%まで等しいことがわかった。分子生物学からの個人差は、0.1%という極わずかなのだ。しかし、この0.1%の差異が、お酒に強い/弱いなどの体質から、がんなどの病気の傾向にまでも関係しているのである。

 ゲノム情報は大きく分けると「使われる情報」と「使われない情報」に分けることができると考えられる。前者は「構造遺伝子」、後者は「ジャンク遺伝子」などと呼ばれている。  構造遺伝子からはその情報を利用して遺伝子産物がつくられる。遺伝子産物の大半はアミノ酸(タンパク質)だ。ATGCの塩基が3つ揃うことで1種類のアミノ酸に対応する。

 生命は物質として組み合わさったらそれで終わり、というプラモデルのようなものではない。つねに状況に応じて必要なタンパク質を合成するように動的に変化している。適切なときに適切な遺伝子が働き、また不要なときにストップがかかり、それらが全体にとってバランスよく働く。これらを司っているのが、ジャンク遺伝子だと言われている。ここにも遺伝的な差異がある。

 構造遺伝子もジャンク遺伝子も塩基の一つが変わるだけで意味が違ってくる。このたった一つの塩基の個人差を「一塩基多型」または「SNP」(single nucleotide polymorphism)という。この組み合わせを考えると、一卵性双生児のきょうだいを除いては誰一人として遺伝的に同じ条件で生きている人はいないのである。

 本書でもっとも参考になったのは、「心はすべて遺伝である」ということだ。つまり、遺伝の関与しない心理的形質はないということだ。遺伝の影響度合いを一覧してみよう。

1)問題行動

ギャンブル:50%
不倫:30%
反社会性(女性):60%
反社会性(男性):62%

2)物質依存

マリファナ:62%
喫煙(女性):53%
喫煙(男性):58%
アルコール依存症:52%
 
3)精神・発達障害

うつ傾向:40%
ADHD:80%
自閉症:81%
統合失調症:81%

4)パーソナリティ

勤勉性:50%
同調整:35%
開拓性:50%
外向性:47%
神経質:46%

5)学業成績

理科9歳時:63%
算数9歳時:72%
国(英)語9歳時:67%

6)知能

IQ(成人期初期):65%
IQ(青年期):55%
IQ(児童期):41%
IQ(全体):51%

7)身体

身長(15歳時):95%
体重(15歳時):93%

 一卵性と二卵性の双子によるさまざまな形質の相関係数を仮説とし、多数の変数間の関係を、線形結合の形にモデリング分析する構造方程式モデリングによって算出した結果である。

 あたりまえのことだが、知識や能力はそれを学習する環境が与えられて獲得される。しかし、学習をするときに使うさまざまな認知機能にも遺伝的な影響があり、遺伝的個人差が生じる。たとえば知識を運用するときの速度や知識と知識を結びつける創造性、ワーキングメモリーの働きなどだ。

 筆者が行動遺伝子学の考察から断言する「人間の世界を本当に救ってくれるのは、確固とした遺伝的素養から生まれた『自然の能力』であって、環境や教育によって人為的につくり出されたものではない」という事実に対して、個人の自然の能力を待たない方法論の重要さをしみじみ感じた。

 つまり、個人の行動遺伝子がの事実を踏まえると、個人をうまく組み合わせる組織をいかにつくるかという視点が、今まで以上に重要になるということだ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。