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『紀元二〇〇〇年 三十三年後の世界』この予測に対し、まったく違う未来予測を提示しているのは、ジェームズ・ラブロックだ(環境研究、未来予測)

 1968年に出版され、33年後の21世紀までに世界で何が起こるかを予測した600ページを超える本。初版は9000冊で時事通信から記念本のような豪華な体裁で発売されているハーマン・カーンの未来予測本だ。こういう歴史的な本が、ネットで手に入るのはあいがたいが、プレミアがついて少々高い。
 しかし、これを読むと、なぜ米国の起業家が宇宙を目指すのかが分かる。根底にあるのは、ハーマン・カーンが半世紀以上前に、ここに紹介している予測だ。ここのところ、ハーマン・カーンの研究を行っている理由は、そのエビデンスを知る必要があったからだが、本書でその目的を達することができた。

 とにかく参考になるのは、シナリオ・ライティング法のベースになるドライビング・フォースが多角的に掲載されている点だ。ハドソン研究所が総力を上げたとあるだけに、私たち日本人が思いつかないものが多々ある。そして、未来予測は以下の3段階で収斂していく。それぞれ番号がふられているが、その番号の順番が実現可能性となる。

1)20世紀の最後の三分の一の期間に大いに実現の可能性のある100の技術的革新

35番:比較的長期間(何ヶ月か何ヶ年)の人間の”冬眠”
40番:胎児の性を選択する可能性
51番:恒久的に人間が移り住んだ人工衛星と月の施設(惑星間の旅)
52番:宇宙生活体制またはその技術の地上施設への応用
53番:恒久的に人間が住む海底施設および、おそらくは入植地

2)実現性は少ないようだが、25の重要な可能性

1番:”真の”人工的知性
10番:哺乳動物(人間?)の液体呼吸動物への転換
17番:相当数の人間を収容する月または惑星施設

3)遥かに遠い10の可能性

10番:相当大規模な月または惑星の基地または入植地

 この未来予測を適当にピックアップしたが、遥かに遠い10の可能性の最後の10番にあるのが、ハーマン・カーンの予測した人類の未来ということになる。番外として最後に、地球外生命の発見の可能性と、地球外生命との通信の可能性を挙げている。

 当然だが、この未来予測には核戦争の可能性も第7章にある。中央ヨーロッパ戦争勃発のシナリオでは「ソ連が介入し、国境を超えて制限された侵略を開始し、または、新しい大きな暴力行動を始め、または、おそらく核戦力の致命的でない程度の示威を行う」とある。さらに、米中核戦争のシナリオでは、「中国は沖縄のアメリカ軍基地を破壊し、アメリカの同盟国(日本、フィリピン、タイ)が、その領土をアメリカ軍の補給基地や中国に対する攻撃基地として提供すれば、それがいかなる国であるを問わず大量破壊を加えると脅す。そして、その脅しに続いて、民間人に対する攻撃が行われ、たとえば、日本の神戸、フィリピンのセブが破壊される。その結果、アメリカに対する圧力は耐え難きものとなる。そのような場合、アメリカが何ひとつしないでおれば、アメリカの威信は落ち、中国の権力と威信は高まるだろう。

 「結論:人間の自然(人間を含む)にたいするファウスト的力の増大」

 ファウスト的力とはメフィストに与えられた力を指すが、詳しくは『ファウスト』参照。ハーマン・カーンは、日本に対し「西暦2000年までに核武装に非常に接近すると確信する」としながら、以下のように述べる。

「私は日本に失望したくない。・・・伝統的文化を新たに得た経済力で、より高いものに昇華させ、余力や余暇を建設的な仕事に−−−世界のより恵まれない国のために−−−21世紀は”輝かしい日本人”の世紀になると確信しているからである。」

 実際の21世紀の日本は、「世界のより恵まれない国のために」どころか、外国人への差別とまったくの逆になり、戦争の驚異だけが高まるだけ。
 とにかく、ハーマン・カーンの予測は、「10番:相当大規模な月または惑星の基地または入植地」で、この予測に対し、まったく違う未来予測を提示しているのは、ジェームズ・ラブロックだ。99歳のときに執筆し、100歳のときに出版された『ノヴァセン』にはその詳細がある。シナリオ・プランニング的にいうと、「シナリオ1」「シナリオ2」があるということになる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。