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『シナリオ・プランニングの技法』「適応型シナリオ・プランニング」を学ぶには最適の1冊(環境研究、未来予測)

 シナリオ・ライティング法を軍事用途から民生化したのはハーン・カーン。彼の方法を企業経営に直接役に立つように改善したのはシェルのピーター・シュワルツ。この本はシュワルツのシナリオ・プランニングをまとめたもの。現在彼は、セールス・フォースの上級副社長(戦略計画担当)で、本部をワシントンDCに置くアメリカ合衆国の安全保障問題を専門に扱うシンクタンク新アメリカ安全保障センターの理事でもある。ハーマン・カーンが最後の本で「われわれはシナリオが未来について信頼できる予想をするとか、シナリオにすべての可能性が含まれているなどと信じているわけではない」と語っているように、ピーター・シュワルツは自らの手法をシナリオ・ライティング法ではなく「シナリオ・プランニング」と呼んだ上で、「シナリオ・プランニングは未来を予測する方法ではなく、事業環境に関する微妙な技術。シナリオの最終目標は、明日を正確に描き出すことではなく、未来に関するより良い意思決定を行うことにある」としている。

 シナリオ・プランニングは、技術(アート)であって、科学ではない。しかし基本的ステップは、小さな会社であっても、個人であっても、大企業であっても同じであるとし、可能性のある未来を設定し、数々の可能性について考え、それぞれに対する自分の対応をリハーサルし、未来に備える。人間は、自分の予期したこと、または前もって受け入れる心の準備ができていることに合致しない事実を信じようとしないため、数個のシナリオの必要性を協調する。(四つ以上のシナリオを作ってしまうと複雑になりすぎるとしている)

 ピーター・シュワルツは1983年に、シェルの経営陣に対し、ソビエト連邦の未来を研究することを提案した。しかし経営陣は、ソ連はわれわれのビジネスで重要な要因ではなく、少量の石油とガスしか輸出していない国だと判断した。ソ連の石油とガスの埋蔵量は世界最大級で、シェルが発見したノルウェー沖北海の推進300mの海底に眠るトロールガス田より巨大だ。いずれシェルはこのトロールガスを回収するため600万ドルのプラットホーム(当時史上最大の可動建造物、単一の機械としては最も高価なもの)の投資判断が迫られるはずだ。なぜなら、このガス田はヨーロッパにガスを供給することになるが、ソ連のガスはこれよりずっと安く供給できるからだ。今は政治的な理由でヨーロッパは市場の35%以上はソ連に開放しないという非公式協定があるので影響はない。しかし、シュワルツは、冷戦が集結するというシナリオを描いた。そうなれば、NATO諸国と関係は好転し、35%の枠は撤廃され、シェルはトロールガス油田の競争力を高める投資が迫られるはずだと。ご存知のように、その後ペレストロイカが起こった。さらには、そのとき以来35%の枠をヨーロッパが撤廃してしまったおかげで、ウクライナ戦争によるガス高に見舞われているのが現在ということになる。
 ピーター・シュワルツのシナリオ・プランニングは、以下のステップとなる。

1)焦点となる問題または決定を下すべき問題を明確にする
2)部分的な事業環境におけるキーファクター
3)ドライビング・フォース
4)キーファクターとドライビング・フォースを重要性と不確実性によって分類する
5)シナリオ・ロジックの選定
6)シナリオに肉付けする
7)シナリオの意味
8)先行指標と道標の選定

 ピーター・シュワルツのシナリオ・プランニングは、適応型シナリオ・プランニング(未来を理解するためのプランニング)だ。さらに、変容型シナリオ・プランニング(未来に影響を及ぼすためのプランニング)にするには、違う方法論を必要とする。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。