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『ダビデの星を見つめて: 体験的ユダヤ・ネットワーク論』日本のユダヤ化(イスラエル)

 著者の寺島実郎氏とは、彼が代表の日本総合研究所の特命研究員の頃に組織的接点はあったのだが、結局、会わずじまいに終わってしまった。

 彼が他の評論家と差別化できる点は、IJPC(イランジャパン石油化学)プロジェクトに三井物産時代に関わったことだろう。日本の海外プロジェクトで大きな失敗というとIJPCがすぐに思い浮かぶ。パーレビ政権が絶頂期ではじまったIJPCは7割完成多段で、イラン革命後が勃発。その後のIJPCの行末の調査を担当したのが寺島氏だ。
 その調査の最中に、地球を水平移動できるユダヤ人たちが、5年も前にイスラム原理主義革命がイランで起こると予測していたことに驚愕し、ダビデの星に注目するようになった。

 寺島氏は、ユダヤ的思考様式として、次の2つをあげる。

1)無から有を生む志向である高付加価値主義
2)国家などを含め、既存のパラダイムを超えた一次元高い視野から課題解決を図る国際主義

 トリビアだが、藤田田の『ユダヤの商人』が売り出されたのは1972年5月で、この年のこの月にテルアビブ空港の乱射事件(5月8日)が起きていたとのだ。したがって、この乱射事件がユダヤ人論が売れに売れるきっかになったのだという。

 後半は、イスラエルに根付いたキリスト教団体の幕屋の話とか、その歴史などが解説されているが、1990年代にイスラエルと10年ほどビジネスを行ってきた私にとっては新鮮味がなかったが、初めてダビデの星に触れる人には参考になるのだろう。

 2017年の段階で、イスラエルの一人あたりのGDPは日本を抜いている。そういう意味で、高付加価値主義と国際主義を得意とするユダヤ人とのネットワークの必要性を結論としている。21世紀の資本主義は、ユダヤ的価値の状態化の流れにあり、日本の工業生産力モデルの優等生からの新たな進路も、ユダヤ化だろう、と。
 問題は、この展開に絶えうる構想力と戦略性をもっているかどうかで締めくくっているが、日本のユダヤ化という課題は明らかになったとしている。私が個人的にもっとも得意としている領域が注目を集めそうなことだけは確かだと確信できた1冊だった。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。