見出し画像

『社会変革のシナリオ・プランニング 対立を乗り越え、ともに難題を解決する』バックキャスティング型である「変容型シナリオ・プランニング」は面白い(環境研究、未来予測)

 シナリオ・ライティング法(シナリオ・プランニング)の歴史は、第二次大戦による軍事用途⇒ランド研究所のハーマン・カーンにより民生化⇒シャル社のピエール・ワック(ピーター シュワルツ、現在のセールス・フォース社の戦略計画担当上級副社長)が、ハーマン・カーンの影響を受け、オイルショックのシナリオを策定⇒ピエール・ワックの部下キース・ハイデン⇒アダム・カヘンと続くが、本書の著者であるアダム・カヘンの功績は、シナリオ・プランニングを以下のように進化させた。

1)ピエール・ワックまでのシナリオ・プランニング:適応型シナリオ・プランニング(未来を理解するためのプランニング)
2)アダム・カヘンのシナリオ・プランニング:変容型シナリオ・プランニング(未来に影響を及ぼすためのプランニング)

 ネルソン・マンデラを釈放で未来が不透明となった南アフリカでのモン・フルー・シナリオでは、政府側からのシナリオだけでなく、左派による代替シナリオを作成演習した。作成されたシナリオは以下の4つ。

【ダチョウ】白人少数派政府が頭を地面に突っ込んで、敵対者との交渉を拒否するシナリオ
【足の悪いアヒル】交渉が妥結するが、新しい民主政権は制裁を受け、国の課題を処理できないままになるシナリオ
【イカロス】制約を受けない民主政権が財政の限界を無視し、経済が崩壊するシナリオ
【フラミンゴの飛行】段階的に協力して発展していくために必要な要素をあるべき場所に配置する社会へのシナリオ

 はじめの3つ【ダチョウ】【足の悪いアヒル】【イカロス】は、誤った決定がされた場合に南アフリカに起こりうることを予言する警告シナリオで、第4の【フラミンゴの飛行】シナリオは、3つのシナリオの誤りのすべてを回避できた場合の国にとってよりよい未来のビジョンとなる。シナリオ・プランニングチームは、このシナリオをレポートにまとめ南アフリカの最有力週刊誌に別刷りで発売。映画監督により30分ビデオを作成。これらの資料を国中の政治団体。企業、非政府組織に伝えた。

 変容型(トランスフォーマティブ)シナリオ・プランニングは、以下の3つの状況で効果を発揮する。

1)その人たちが、自身のおかれた状況を容認できないもの、不安定なもの、こたえられないものと見ている場合(南アフリカのアパルトヘイトは不安定で持ちこたえることはできないものと考えていた)
2)その人たちが自力では、あるいは友人や仲間とだけ一緒に動いても状況が変えられない場合(アパルトヘイトを変容させようと、国民は集団的行動、国際的制裁、武装抵抗で力ずくで変化を起こそうとしていた)
3)その人たちが直接的には状況を変えられない場合(力を合わせて変化を起こすべき関係者が分裂、何が解決策か、何が問題かについてさえ見解が一致しない)

 ただし、以下の3つの条件がないと、効果は発揮できない。

1)洞察力と影響力のある利害関係者の代表が集まったシステム全体を代表するチームが必要
2)1)のチームメンバーたちが自らの理解、関係、意図を変容できる器であることが必要(つまり、自身が属する組織から裏切りとみなされないように注意)
3)厳密なプロセス(起こるだろうこと、起こるべきことでなく、現実味があり、明確で、誰にとっても中立的なシナリオが必要)

 シュル社で開発された適応型シナリオ・プランニングでは、組織の外で起こりうることについてのストーリーを作成し、適応させる。しかしそれは、未来に影響を及ぼすか未来を変えるアプローチがないため限界がある。例えば、犯罪が多発するコミュニティーに住むには、適応型シナリオ・プランニングではリスクマネジメントとして、鍵や警報や警備員の採用になるが、変容型シナリオ・プランニングでは人々と協力して犯罪レベルを下げる努力をすることになる。

 マルクスの「資本論」、あるいは青山栄次郎の「パン・ヨーロッパ」は、変容型(トランスフォーマティブ)シナリオ・プランニングのひとつのとして捉えることもできる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。