見出し画像

『排除と抵抗の郊外: フランス〈移民〉集住地域の形成と変容』文明の衝突でなく、マイノリティーからの観点で捉える(環境研究)

 フランスは移民1世とその子供を合わせると1200万人と全人口の20%にも及ぶ。移民2世は18才の成人になると自動的にフランス国籍が得られる。そのなかでもパリ北東部の郊外にあるセーヌ・サン・ドニ県では27.4%と移民の比率が高く、犯罪発生率は人口1000人当たり91.1件で、フランス国内の平均は人口1000人当たり62.17件だ。セーヌ・サン・ドニ県は人口の多様性が進み、エスニック・マイノリティーが問題となるフランスにおいて「実験室」と捉えられている。

 著者の森千香子さんは、フランス郊外、特にセーヌ・サン・ドニ県の低廉住宅(HBM:Habitation a bon marche)を研究対象にしている貴重な学者だ。HBMは日本で言う団地と同じ位置づけで、1962年のアルジェリア独立により、年間68万人がカミュのように本土に引き上げたことで、政府は住宅の供給を加速した。そして、セーヌ・サン・ドニ県の郊外団地は近隣の工場で働く労働者の住居となり、「赤い郊外」と言われるようになった。そして1980年以降、「赤い郊外」は移民や外国人の集住により「ゲットー化」した。テロ犯人はこれらの郊外団地に育ったこと(ホームグロウンテロ)から、郊外住民全体がフランス社会内部の「断絶」につながっている。

 ヨーロッパでテロが起きるたびに、日本ではその理由を「イスラームとの文明の衝突」に求めるが、森千香子さんは、その原因をマイノリティーの差別、排除、抵抗という観点から捉え、セーヌ・サン・ドニ県の研究を行っているのだが、これは未来の日本にも言えることなので、比較社会学として今後の研究にも期待したい。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。