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『失敗学のすすめ』畑村洋太郎氏の「失敗学」はリーンスタートアップにハマらない?!(失敗研究)

 この本の存在は知っていたが、今回はじめて手にとってみた。私の専門の「数式のないシステム工学」では、「失敗研究」というフェーズをデシジョンメーキングプロセスの前に必ず行う。そして、失敗研究のひとつの事例として旧約聖書を取り上げる。なぜなら、カインとアベル、バベルの塔、ソドムとゴモラ、さらに、アブラハムと女奴隷ハガルの間の子供イシマエルと正妻サラとの間の子供イサクの物語は、失敗の記録と捉えることができるからだ。

 つまり、畑村洋太郎氏が指摘する「モノ」に対する失敗をターゲットにするだけでなく、民族、社会システム、サービスなどの「システム」もターゲットにしているのが「数式のないシステム工学」なのだ。

 したがって、本書で紹介されている「経過」「原因」「対処」「総括」「知識化」という6項目の記述には当てはまらないことがでてきてしまう。
 例えば、リーンスタートアップにおけるMVPモデルなどはまったくあてはまらない。MVP=ペンシルロケットだとすると、水平飛行によって、小さな失敗を積み重ねる(仮説の実証)プロセスなどは、畑村洋太郎氏の「失敗学」にあてはまらない。

 冒頭に「人間が関わって行うひとつの行為が、はじめに定めた目標を達成できないこと」と失敗を定義していることが、誤りではないだろうか。この定義だと、リーンスタートアップのピボット(方向転換)は失敗ということになってしまう。
 おそらく、畑村洋太郎氏の「失敗学」はハードウェア(機械)を前提に考察されたものなのだろう。そのため、その対象をスタートアップ企業や新規事業、民族、社会システム、サービスなどに拡大するとハマらなくなってしまう。

 しかし、「失敗学」の対象を設計者としているだけでなく、リーダーシップのひとつの重要領域として捉えているところは共感がもてる。リーダーシップとマネジャーシップの違いがあったとしても、「システム」という意味では全体最適思考は重要だからだ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。