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『乱』黒澤明監督は後継者を見事に育てていた(人間学)

 巨匠が描く作品は前評判や制作費などが話題になるが、2021年の現在に観てみると素直に評価できるのではいかと、黒澤明の「乱」を観てみた。

 リア王がベースになっているようだが、王のいない現代に、誰の目線で映画に没入すれば良いのかが明確ではない映画だ。つまり、主人公にエンパシーを感じることができず、さらに、統治さられているであろう百姓は一切出てこない設定で、主人公以外に出演する武士の誰にもエンパシーを得られないのである。あえてエンパシーを感じるとしたら、神や仏の境地からの人間を見下す感覚だろうか。

 とにかく、映像が美しい。馬が走るシーンが大音量の蹄音と合わさるとリアル感が増幅し印象深く、たくさんの兵士が騎乗で川を渡るシーンなどは圧巻だ。逆にリアルに城が燃えるシーンをさり気なく使う贅沢なカメラワークもリアル感が増す。

 この主人公のように後継者を指名し、組織や理念を持続させることは難しい。預言者で言うとモーセ以外、イエス・キリストもムハンマドも成し遂げていない。しかし黒澤明は、この映画で見事に後継者を育成している。この映画の衣装担当のワダ・エミ氏は、日本人女性初のアカデミー賞(衣装デザイン賞)を受賞したのが1985年。

 黒澤明の娘の黒澤和子氏は、黒澤プロダクションで黒澤監督の秘書の仕事をしていたようだが、1988年に黒澤監督の進言で映画界入りし、1990年の「夢」でワダ・エミ衣装主任の下に付き、2019年には「万引き家族」の衣裳デザインで芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。去年の大河ドラマ「麒麟が来る」で、戦国時代なのに衣装がカラフルだと感じていたが、実は、黒澤和子氏の衣装デザインだったのだ。

 リア王も、この映画の主人公である一文字も、後継者の育成には失敗しているが、黒澤明監督が「乱」で描いた絵画のような衣装デザインは、娘の黒澤和子氏に見事に受け継がれているのである。

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