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8.21DDT「WrestlePeterPan2021」雑感


富士通スタジアム川崎、かつての川崎球場で行われたDDTプロレス年間最大興業「WrestlePeterPan」を見てきた。

職場以外に家から出ない、ステイホームが一番世の中のためになるのはわかってる。
そうしてくれてる人がたくさんいるのも知ってる。
でも自分の場合、家にずっといることで知らず知らず気持ちが粉の固まりのダマのようにジトッとたまって、それをプロレス見に行くことで「あ、俺たまってたな…」とそこで実感することがこの一年続いてる。
今日もこんな時勢で人を誘ったことに申し訳なさがあったりしたわけだけど、行ってみてわかった。

もう「私も我慢してるんだからあなたも我慢しろ」はよくない。
みんな、こっそりどこか行ったり、なんかしたらいいと思う。
おおっぴらに言うことではないけど、みんな一つや二つ、自分の気持ちを晴れさせる行動があるなら黙ってそれをしたらいいと思う。
自分のメンタルを安定させることを大切にしてほしい。

自分の場合、プロレスで何か言われたらもうそれは言われるしかないなと思う。
それくらいの覚悟はしている。
DDT年間最大のビッグマッチは、私にとってそういうものです。

今年は初の屋外開催。

8月にしては涼しい夕暮れの時間に、自宅以外の場所にいること自体が本当に久しぶりで、こういう時間がずっと続けばいいのに…と思った。



○第0試合 電流爆破8人タッグデスマッチ 30分一本勝負

大仁田厚&高木三四郎&彰人&伊藤麻希 vs クロちゃん&スーパー・ササダンゴ・マシン&黒田哲広&乃蒼ヒカリ


電流爆破で8人タッグ?どうやってやるの?8人でやったらリングの中狭くない?…と思ってたらロープを外してリングの四方に電流が流れる金網が設置されるかつてのFMW方式ではなく、リングは普通のリングでその上に「爆破バット」というものが置かれてて、それで叩くと爆破、あとは普通に場外に出たりすることもできる試合形式だった。
なるほど。
つい川崎球場で電流爆破というと触ると爆破する金網で四方を囲まれた『ノーロープ有刺鉄線電流爆破時限爆弾ダブルヘルデスマッチ』みたいなのを連想してしまうが、時代と爆破アイテムは進化してるんですね。

爆破バット、SNSの動画でチラチラ見たことあったが生で見ると結構な音と迫力。


↑これ(0:50からご覧ください)なんかも現地で見ると結構な事故レベルの大きな音と火花が上がってた。

私の隣の席ではアラフォー世代のお父さん・お母さん・5歳くらいの男の子という家族連れが見てたのだが、おそらく何も知らないまま連れてこられた男の子がこれでびっくりして泣いてしまって「いやだ、帰りたい」をずっと繰り返していたのが試合よりも印象的でした。
この後、凶器が持ち込まれた第三試合でお母さんが「大丈夫!もうこれは爆弾出てこないから!」と何度も男の子を説得していて、これ子供はしばらく(10年くらい)プロレス嫌がるだろうなあ…と他人事ながら気になってしまいました。

試合そのものの感想とすると、

・川崎球場のプロレスで最初に入場してくるのが「ワイルドシング」の大仁田厚、というのに感無量
・東京女子の二人がんばってました
・約20年ぶりくらいに黒田哲広が見られたのはよかったが(さすがに年とった)ほとんど何もさせてもらえないまま試合が終わって残念だった。ピンで入場させてほしかった
・ダンゴさんそういえばいたのかレベルで存在感薄かった。屋外でビジョンがなく、物理的にパワポができないことも関係あったのか

全体的に進行がやたら良くて2時間半で終わった興行だったのだが、ビジョンがなくて煽りVが割愛されてたのも関係あるのか。
DDTはやっぱりビジョン欲しいね。


○オープニングマッチ スペシャル10人タッグマッチ~エル・ユニコーン&イルシオンデビュー戦 30分一本勝負

HARASHIMA&吉村直巳&岡田佑介&今井礼夢&エル・ユニコーン vs 岡林裕二&TAMURA&渡瀬瑞基&飯野雄貴&イルシオン


10人タッグマッチではあるが実質的にはDDT10代プロジェクトのエル・ユニコーン&イルシオンのデビュー戦。
イルシオンが18歳、エル・ユニコーンに至っては13歳!
マスクマンというのは「二人とも未成年だから」という配慮からのようです。個人SNSも成人してからとのこと。

イルシオンはまあまあ身体ができてて受け身もまあまあ無難にこなしてたが、ユニコーンの方がちょっと危なっかしかった。身体もまだ小さいし(13歳にしては大きいのかもしれないが)。
趣旨はわかるので焦らず育ててほしいです。

サラッと入れられてた今井礼夢も16歳。
SPEED→参議院議員になった今井絵理子さんのご長男です。
川崎市を中心に活動する団体・プロレスリングHEAT-UP所属。
まだデビュー1年足らずだそう。
10人タッグなのでいくらも見られなかったが、そんなおかしなところはなかったのでちゃんと練習してるんだと思います。
いろいろ検索してたら9.17HEAT-UP川崎大会でヨシタツとのシングル戦が決まっており、その試合には「ヨシタツが勝ったら今井絵里子がヨシタツキングダム(=ヨシタツのチーム。ヨシタツ本人はいろいろ言うがいまだに誰が正式メンバーなのか謎)に入ってディーバになる」という条件がついているそうです。
こういう微妙にイラっとする話を持ち出すヨシタツの空気を読まないセンスは突き抜けている。




ところでHARASHIMAと岡林はこんなところで使ってしまってよかったのか。



○第二試合 ダブルリング・ダブルシングルマッチ 各30分一本勝負

大鷲透 vs アントーニオ本多

男色ディーノ vs 平田一喜

※2つのリングで同時に試合を行います。


スタジアム内に設けた二つのリングで同時にシングルマッチをする、という「ほお、それで?」という伏線を斜め上に回収していくDDTがアメージング。
「レフリー同士が揉めて無効試合ってどういうことだよ!?」と今林さんが怒るところでつい笑ってしまいました。
ある種今日のベストバウト。




○第三試合 スペシャルハードコアタッグマッチ 30分一本勝負

葛西純&クリス・ブルックス vs 勝俣瞬馬&MAO

映画「狂猿」がスマッシュヒットして時の人になった葛西が久しぶりのDDT出場。
といってもDDTに出る葛西って、基本DDTに合わせてしまうのでそんなに印象残らないことが多い。

今日は勝俣とMAOが大量のレゴブロックやらクラッカーという、葛西の文脈にないデスマッチアイテムを持ち込んで「世界観を持っていく」ということは達成していた。
大量のレゴブロックは色彩鮮やかだし、受け身とったら痛いんだろうなーとは思うが、「それはすごいのか」と聞かれたらよくわからない。
なので正直よくわからなかった。

デスマッチは本当に後からやる人が「空き家のアイテム」を見つけるのが大変で、蛍光灯使ってる、画鋲も使ってる人がいる…みたいになると「オリジナルアイテム」を見つけてくるのはなかなか難しい。
そして「通常のプロレス技の中に凶器を使う」攻撃もこの20年くらいでだいぶ浸透してしまった。

このあたりしばらく過渡期かもしれない。


○第四試合 KO-D6人タッグ選手権試合 60分一本勝負

<王者組>遠藤哲哉&高尾蒼馬&火野裕士 vs 樋口和貞&坂口征夫&赤井沙希<挑戦者組>
※第43代王者組3度目の防衛戦。

試合前会見から火野が「女には手を出せん」赤井「私にもチョップ打ってこい」みたいなやり取りがあって、試合も赤井に手を上げない火野とその火野に突っ掛かる赤井、みたいなマッチアップが中心になった。
結局火野が手を出すことになって、強烈なチョップでも3カウントを許さない赤井さんにファッキンボムまで出すことになって決着、赤井、おまえは立派なプロレスラーだ…みたいな幕。

もちろん赤井さんが身体張って男子レスラーの中でも特に屈強な火野の技を受けることはすごいことなんだけど、そこを一番の見せ場にしてしまうとそれで終わってしまう。
それは後楽園ホールのセミ前くらいならいいんだけど、ビッグマッチの後半に組まれた試合でそれをやってると「受けなくていいから勝つことを考えてくれよ」と思ってしまう。
勝敗の興味が飛んでしまう。

里村明衣子は女子レスラーでありつつ男子レスラーとの試合も果敢にこなし、場面によってはフィジカルで上回るものを見せたりする。
三年前に見た里村と入江茂弘の試合はすごかった。
赤井さんはどうしたって里村のような肉体改造は難しいだろうから、男子レスラーに混じるなら今のままでなんとか勝つ方法を見つけるしかない。
けどそれはもうずっと前からの課題で、正面から行くスタイルを続ける限り難しいと思っている。

DDTグループは東京女子プロレスという女子団体を見事に軌道にのせたが、東京女子の選手はみな小柄で、赤井さんが入ると今度は赤井さんがフィジカルに上回りすぎる現象を起こす。
なんで今から戻るようになるかもしれないが赤井さんと同じくらいの体格の女子選手を入れて「DDT女子部」をやらせて、その上でたまに男子レスラーと混ぜる…くらいがちょうどいいように思える。

DDTは一貫して男女を線引きせず、女性ファンから見て忌避感を持つような表現はしないよう徹底されてる。
ゆえに赤井さんも男子レスラーの中でフラットに扱われるが、どうしたって無理なところは出てくる。
というわけでモヤモヤしました。

全然触れてませんが遠藤が試合を回すのが本当に上手くなりました。
個人的には遠藤がエースでいいと思うんだけどね…。


○セミファイナル DDT UNIVERSAL選手権試合 60分一本勝負

<王者>上野勇希 vs 佐々木大輔<挑戦者>

※第4代王者7度目の防衛戦

新日本でいうUSヘビー級ベルトのように海外向けタイトルで設置されたDDT UNIVERSAL王座、ちょうどコロナにぶつかってしまってインターコンチ的ベルトになっていった。
どうするこれ?というベルトだったのを上野が上手く回したと思います。上野の泊付けにもなったし。

今回はレフェリーのブラインドをついて悪辣な攻撃を繰り返す佐々木、耐える上野という古典的なベビーvsヒールの試合をしていて、あーDDTでもこういうのちゃんとやるんだなあ…という印象。
新日本と違うのは、バレットクラブが乱入や介入をすると本気で怒るファンが多いのに対し、DDTファンっておとなしくしてる。
よくも悪くも「はいはい、それで?」という目で見ているというか。
選手はやりづらい気がする。

試合を通じて佐々木は上手いなあ…とずっと思ってた。
でも勝つとは思わなかった。
上野が勝って、メインで勝った竹下と「統一戦をやろう」とか「DDTナンバーワンを決めよう」とか言い出すのかな、と。
まだ早いのか。

とりあえず佐々木が年1くらいで出すこれは毎回すごいなと思う。




○メインイベント BLACKOUT presents KO-D無差別級選手権試合 60分一本勝負

<王者>秋山準 vs 竹下幸之介<挑戦者>

※第76代王者4度目の防衛戦。

秋山がDDTに移籍して即「僕のライバルになってください」と言った竹下。
その竹下に「おまえは、DDTの、なんなんだ」と問うた秋山。
初対決は秋山の完勝。
2か月後の再戦(D王グランプリ決勝)も秋山の完勝。
そこから竹下が少しずつ立て直して、7月のトーナメント「King of DDT」に優勝して迎えた3度目の対決はKO-Dのタイトルマッチ。

プロレスの常道でいうと「さすがに今回は竹下勝つでしょう」という流れで、逆に二人がどういう試合をするのか注目だった。
結論から言えばストレートに真っ向勝負だった。
過去2回の対決のときのように秋山は竹下にマウンティングすることなく、同じ地平でぶつかっていった。そして一進一退の好試合。

好試合になりながら、26歳の竹下と対を張れる51歳の秋山がすごいよな…とずっと思ってしまった。
竹下ががんばっているのはわかる。強いのもわかる。
でも「秋山すごい…」と思ってしまうのが、この「26歳と51歳」の年齢差だと思う。

プロレスではこの同じ相手に二度負けて「二度あることは三度ある」か、「三度目の正直」か?という展開はままある。
往々にして「三度目の正直」になるのだが、たいがいはその時に二度負けてた選手のファンが「やったー!!」と喜ぶ。

今回、竹下が勝った瞬間「やったー!!」となってるファンは、少なくとも私の座席の周りにはいなかった。
「ああ、やっぱり竹下勝つんだ」みたいな目で見ている人が多かった。

結局、秋山と竹下はどうしたって“ライバル”にはならない。
竹下にとって秋山は「壁」であって、切磋琢磨する相手ではないだろう。
今回の勝利で(最後はこの試合のために開発したという変形チキンウィングフェースロックでギブアップ勝ちだった)竹下は一つ壁を越えたのだと思うが、実際これからだと思う。
それより「一回負けただからな、またやるからな!」みたいなことを言って退場した秋山の方に凄みを感じてしまう。
タイトルを失っても熱量が落ちずにギラギラしている。
本当にこの移籍で秋山は再生した。


試合後にマイクを持った竹下は「絶好調と言ってましたが、本当はここ何か月かで何度も自信を失いました…」と言って涙ぐんだ。
うん、そうだろうなあ…と思いつつ、ちょっと簡単に再建しすぎてない?という引っ掛かりもある。
今年4月にAEWに行って変わった、というのを売りにするはいいけどあのAEW参戦は10日間くらいの「体験参戦」みたいなもので、あれで「変わった」と言われるとカール・ゴッチの道場に一日修行に行っただけで「ゴッチさんの元祖ジャーマンスープレックスを教わってきました」と言って『ゴッチ直伝ジャーマン』を使いだした中西学みたいに思えてしまう。
実際、4月以前と4月以後で変わったのは変形の変形チキンウィングフェースロックを使うようになったぐらいしか自分にはわからない。

すべてはこれから。
やはり中心に竹下がいて、そこに樋口や遠藤、あるいは外敵のような選手が挑む構図が一番きれいに回るのだと思う。

個人的に竹下はちょこちょこ終盤に使う技を変えるのが気になる。
前回チャンピオンのときはトップロープから回転するファブルという技を使ってたが、最近はあまり使わなくなった。
もともとはジャーマンにこだわってフィニッシュにしてたが、最近ジャーマンはつなぎにしか使わない。
ウォール・オブ・タケシタという名前の逆エビ固めや、垂直落下式ブレンバスターをフィニッシュにしてたときもあった。
そして今度は変形チキンウィングフェースロックを使いだす。
キャリアとともに技が変わるのは当然なのだが、そのサイクルが早すぎるように思える。
見てる側が追いつけなくなってしまう。

そんな竹下がこれからDDTをどう導いていくのか、注目している。







「どんな試合に臨む時にも絶好調で行け。特にチャンピオンシップは。絶対に『どこか悪い』『心が折れてる』そんなクソみたいなこと言ってチャンピオンシップに臨むなよ。チャンピオンシップに臨むやつは嘘でも絶好調で行け」
(試合後の会見で秋山が竹下へ残した言葉)

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