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7.21DDT両国大会「WRESTLE PETER PAN 2024」雑感

DDT夏のビッグマッチ「レッスルピーターパン」両国大会。
過去大田区総合体育館で開催したこともあったけど、やはり両国国技館というのは特別な感じがあります。

国技館、入場ゲート側を潰してるものの客席はほぼ埋まってる印象。
エル・デスペラードのTシャツ着た人を多く見ました。

○オープニングマッチ 30分一本勝負

中村圭吾&石田有輝&須見和馬 vs 夢虹&高鹿佑也&イルシオン

DDT若手の…というくくりの6人タッグではあるが、そろそろこの中から上に行く人が欲しい。

夢虹くんが高校二年生と聞いて、竹下幸之介がデビューしたのってこの年かあ…と思いを馳せる。

○第二試合 髙木三四郎ゆかりの人たちによる6人タッグマッチ 30分一本勝負

大鷲透&田島久丸&川松真一朗 vs 大石真翔&高尾蒼馬&一般人・澤宗紀

闘龍門出身で、一時期ドラディションにもいて中野坂上でうどんや寿司の店を出していた田島久丸が高木三四郎さんとゆかりがあったとは知らなかった。
今は銀座で「鮨たじま」の社長だそうです。成功してるなあ。

今日はプロレス初めて見るという人を連れていったのだが「え、なんで都議会議員がプロレスの試合してるんですか?」と正しい疑問を投げかけられたので「よくわかんないけど、何年か前からやってるんですよね」でそのまま放り投げてしまった。


○第三試合 スペシャルシングルマッチ 30分一本勝負

スーパー・ササダンゴ・マシン vs 平田一喜

先日の新潟大会で行われた「話題作り=インプレッションを稼ぐために試合中にいろいろ事件が起き、それを観客・視聴者に拡散するよう呼び掛け、協力者には抽選でササダンゴさんが新潟の名産品を贈る」試合。
これはインサイダー取引みたいなものには当たらないんだろうかという気もしたが、お連れしたプロレス初参加の方が喜んでたのでいいんだろう。
パワポで描かれる「やっぱインプレッションだな!」の高木社長の絵が悪意しかなかった。


○第四試合 スペシャル6人タッグマッチ 30分一本勝負

鈴木みのる&石川修司&佐藤光留 vs 秋山準&納谷幸男&松永智充

わりと豪華な6人タッグ。
先日KO-Dタッグ戦で奮闘していた松永が鈴木みのるの前ではグリーンボーイのような扱いをされてて、20年くらいやってる松永でもあんなになっちゃうプロレスって難しいなとまた思った。
今の秋山と鈴木が組んで上野&MAOと対戦したらどんな試合になるんだろう、と考えてしまった。


○第五試合 総研ホールディングス・ヤネカベ presents 髙木三四郎無期限休養ロードFINAL~アイアンマンヘビーメタル級選手権試合・ウェポンランブル 60分一本勝負

<王者>男色ディーノ vs 髙木三四郎<挑戦者>

高木さんが身体に故障を抱えるのは今に始まったことではなく、おそらく7~8年くらい前から万全とはほど遠いコンディションでリングに上がっていたと思う。
言い方は悪いが、だましだましやってきた身体がついに限界を迎えた、というのが真実ではないか。

なので通常のスポーツであれば「引退」だった。
ところがプロレスは不思議なジャンルで、ある程度健康体であればやり方次第で何歳でも試合はできてしまう。
引退と復帰を繰り返すプロレスラーはみな引退するときは本当にコンディション悪くて引退し、リングに上がらなくなったうちに徐々に身体が回復して「あれ?これならやり方次第で上がれるんじゃ?」になって復帰する、という。
嘘をつこうとか騙そうとは考えていない。
「その時は本当にそう思っていた」の結果が前言撤回になるだけで。
大仁田厚も「やめるときは本当にこれで最後」のつもりなんだと思う。「俺はもうやめるんだ」という思い込みの効力が極端に短いだけで。

高木さんという人はふざけたことが大好きだが根っこは誠実なので、そういったプロレス界の悪習を良しとしない。
なので「無期限休養」という名前で発表をした。
実際、ボロボロの身体を休ませて、体調が良くなってきたらリングに戻るはずだ。
本当だったら「長期休養」という言葉でよかったはずだが、先の見通しがつかない現状を踏まえて「無期限休養」という言葉にした。
ただその結果、休養前に思い出作りのような試合を連発したため、「これで終わりなのでは?」という憶測になり、結果「え、高木さん引退するんですか?」という目線を生んでしまった。
(6/5新宿フェイス大会の上野勇希とのタイトルマッチは胸を打ちました)

が、ここがまさにDDTのDDTなところで、「え、高木さん引退するんですか?」という空気を「違うよ!」と明確に否定するのではなく、疑惑そのものを試合のエッセンスに落とし込む。
休養前最後の相手に指名された男色ディーノは「DDTにとって両国というのは特別な場所であって、そこに冠つけて入れるのだから特別な試合でなければいけない。踏ん切りをつけられるよう、これで引退させてあげる」と言う。
休養前最後の相手に男色ディーノを指名した高木三四郎は「男色ディーノというレスラーはDDTでしか成り立たなかった。DDTが時代とともに変化して、自分が休養に入る今、男色ディーノという選手の区切りを僕がつけなければいけない」といったコメントをした。
相変わらずリアルとファンタジーの境目があいまいだ。
どちらも本当に相手に対して思ってるだろうことを言っている。
だがこれは試合のVTRで、観客に“見られる”ことを前提にして言っているのだ。

試合はウェポンランブル。
試合の攻防よりも『何が出てくるのか』に焦点が集まる。
ドラマチックドリーム号、ヨシヒコ、引退セレモニー(当然「嘘じゃー!」のいつもの展開になる)、ポイズン澤田JULIE&MIKAMIといった懐かしメンバー、東京女子プロレス軍に続いて、
「DDT両国大会にあの男が返ってくる。AEW所属、復活のゴールデンなスターが髙木三四郎と最後の合体」
と予告が出て、「えええっ!!」と思ったら中澤マイケル。

なんだよ盛大な出オチだな…と思って全身を金粉で塗り固めたマイケルを眺めてると
「DDT両国大会にあの男が返ってくる。AEW所属、復活のゴールデンスターが髙木三四郎にとどめを刺す」
もう一回予告が出てくる。
「えっ!…ええっ!?」という戸惑いに続いてかつて何度も聴いたイントロ。

そしてビジョンに『飯伏幸太』の文字。
国技館に響き渡る絶叫。
入場ゲートにコスチューム姿の飯伏さん。

嘘でしょ…という信じらない気持ちから抜け出せず、目の前のことに声が出ない。
入場通路を歩いてくる飯伏さんを見ても「これ何かあるんじゃないか」という考えにとらわれてしまう。
けど飯伏さんはリングに上がって、高木三四郎に蹴りを見舞っている。
ダウンした相手にそのままバク宙してプレスする。
もう何回も見た、飯伏幸太そのものだ。

帰ってきた。
飯伏幸太がDDTに。
もう、帰ってこないと思っていたDDTに。

飯伏さんが戦ってたのは数分くらいだろうか。
カミゴェを出して、それを受けたディーノさんが男色ドライバーでフォール勝ちする。
けどみんなもう勝敗はどうでもよかった。
DDT両国のリングに、高木三四郎と男色ディーノのあいだに飯伏幸太がいる。セコンドには中澤マイケルもいる。
その光景にみんな酔いしれていた。

試合後の3人の会話を「バトルニュース」からそのまま転載する。

ディーノ「ごめんね、どうしてもこの光景で最後は髙木三四郎を沈めたかったんだ。髙木三四郎あんたが、本当にこのまま辞めようが、しれっと復帰しようが私にとってはもうどうでもい。ただ、どの道を選んでも、DDTは大丈夫。なぜなら、男色ディーノがここにいるから」
高木「男色ディーノ、闘ってくれてありがとう。お前じゃなきゃ、このドラマチックな事にはならなかった。もう俺は、二度と飯伏!お前とリング上で相まみえることがあるとは思ってなかったよ。2016年3月に、お前とここでお別れしてから、お前がどんどん上にあがっていって、俺たちは本当に苦しかった。でも!こうやってまたお前とリングで会うことができるんだったら、俺は引退なんかしないよ!恥ずかしいとなんと言われようが、俺は引退なんかしない!ちゃんと自分と向き合って、体調と向き合って、俺は必ずこのリングに戻ってくるから!だからもし、全てのタイミングが合って、また願いが叶うなら、飯伏、俺とシングルで闘ってくれ。ほんとにありがとう」
飯伏「髙木さん、僕からもお願いが一つあります。もう一回、DDTに上がってもいいですか?」
(三四郎とディーノはその場に泣き崩れてしまう)
飯伏「駄目ですか?駄目ですか?」
髙木「OKに決まってるだろ!お前はな!ファミリーなんだから!」(号泣しながら抱擁)

https://battle-news.com/?p=118702

いったいDDTの誰がどのタイミングで飯伏さんにオファーを出して、いつ決まったのかはわからないが、おそらく高木さんは「飯伏さんが来る」以上のことは聞いてなかったと思う。
それはなんとなく想像がつく。
“邂逅”のドラマはリングの上で見せなければいけないし、そもそもDDTサイドは飯伏さんがどういう気持ちでこれに臨んでいるか、あえて事前に聞かなかっただろう。

2008年に高木さんと飯伏さんが戦った本屋プロレスをやったとき、打ち合わせは一回しかやらなかった。
おおまかな当日の進行と、試合におけるNG項目の確認だけだった。
私は何回か、もしこういった事態が起きたらどう対処しますか?ということを高木さんに聞いた。
そのたびに高木さんは「それは現場判断ですね」と答えた。
現場判断──その場の空気と機転でなんとかしましょう、ということだ。

今回の飯伏さん登場における流れも、ほとんどが「現場判断」だったのではないかと思っている。
出ることは決まっていた。
ただ、そのあと起きることはそのときの流れ次第。
仮に飯伏さんが「高木さん、おつかれさまでした」という単なる一仕事としてやったなら、そのときはそれにしたがって進めましょう─そういうことだったのではないか。

高木さんはずっと「自分たちが飯伏の足を引っ張ってはいけない」という気持ちを持ってたように思う。
飯伏さんを新日本に送り出して、「あいつならやってくれる」という期待と同時に「DDT出身という“出自”が足を引っ張ってしまわないか」という懸念をおそらく持っていた。
だから飯伏さんが新日本でメインを取るようになり、G1やIWGPといった主要タイトルを取っていったことはひときわうれしかったはずだ。

同時に「飯伏はここまで大きくなったんだから、自分たちが関わって、足を引っ張ってはいけない」という気持ちもあったはずだ。
新日本で数々のタイトルを獲って本当にスターになった飯伏がまたDDTに戻ったら、上がった格が下がってしまうのではないか?という葛藤だ。
だからこそ飯伏さんが新日本を辞めても簡単に声をかけなかったんだろうし、すぐに飯伏さんを引っ張って使ったのでは今現在DDTを引っ張っている竹下、遠藤、上野、MAOたちに申し訳ない、という思いも高木さんにはあっただろう。

だから飯伏さんの口から「もう一回DDTに上がりたい」と言われたことは、高木さんからすると本当にうれしかっただろう。
本当は自分から言いたかったけど、立場的に言えなかったことを飯伏さんの方から言ってもらったことで、ずっと抱えてた重い肩の荷物が降りたのだと思う。
ディーノさんにしたって「また飯伏とやりたいな。けど、きっと無理なんだろうな」くらいに思ってたのではないか。
だから、大きくなった(そしてちょっと傷ついた)飯伏さんがDDTに今も思いを残してくれていたことに号泣したんじゃないか。

実際のところはちょっと違うのかもしれない。
けれど見てる側にはせめてそういうストーリーと思わせてくれよ…という気がしてくる。

たぶん、これで万々歳、めでたしめでたし…では、ない。
高木さんは休養してしまったし、当の飯伏さんだって怪我は治っておらず、今も欠場中だ。
怪我が治ってDDTに出るとなっても、実際問題レギュラーは難しいだろうし、限定されたゲスト扱いになるだろう。

それでもいい。
まだまだ夢は広がってるのだから。
高木さんが『本当は旗揚げ25周年に東京ドームのメインで組みたかった』竹下幸之介vs飯伏幸太がこれから実現するかもしれない。
今は病気療養中のケニー・オメガだって回復すればDDTに戻ってこられるかもしれない。
高木さんの好きな言葉は「Show Must Go On」だという。
人が育ち、輝き、離れ、戻ってきてなお、DDTという舞台は今もまだ上演の途中だ。

○第六試合 KO-D6人タッグ選手権試合~サバイバル4WAY6人タッグマッチ 60分勝負

<王者組>HARASHIMA&ヤス・ウラノ&彰人 vs 佐々木大輔&KANON&MJポー<挑戦者組> vs 高梨将弘&アントーニオ本多&正田壮史<挑戦者組> vs アジャコング&勝俣瞬馬&To-y<挑戦者組>

前の試合のショックが引きずってボーっと見てました。
アジャコングはビッグマッチに映えるな、と思ったことしか覚えてない。

○第七試合 スペシャルシングルマッチ 30分一本勝負

KONOSUKE TAKESHITA vs 田中将斗

この二人は2020年3月にKO-Dタイトルをかけて一度戦っている。
47歳のチャンピオン田中に24歳の竹下が挑戦したその試合は激しい打撃戦の末、田中が勝った。
そのとき田中に最後に喰らったローリングエルボーが本当に強烈で、竹下のレスラー生活で喰らった打撃の中でも一番衝撃だったという。
田中は2020年の前半DDTのメインに出続けたが、その中でも特に素晴らしい試合だった。

そこから4年が経ち、今やAEWのメインイベンターになった29歳の竹下と、51歳になった田中の再戦。
4年の間に大きくビルドアップした竹下相手に正面から打ち合いを挑む田中にしびれた。
いや田中すごいわ。
51歳で、自分より圧倒的体格差がある29歳の相手になかなか正面からいけないよ。

竹下は田中の場外机プレスをやらせなかったり、逆に自分が田中をブルーサンダーで机に叩きつけたり、田中のエルボーに自分も右のエルボーで返したり(今の竹下のエルボーが本当にえぐい)、意地悪さがよいスパイスになって好試合になりました。
でも昔と違うのは「力で振り切ろうとする田中にすがりつく竹下」だったのが「力で振り切ろうとする竹下にすがりつく田中」になってたことで。
「竹下すげえ選手になっちゃったな」と「それでもやっぱり田中すげえ」が両方成立する、素晴らしい試合でした。
これがセミファイナルでもよかったぐらい。

ちなみに竹下がファン時代憧れた何人かのレスラーのうちの一人が田中だったそうです。さすがに今は違うと思いますが。

○第八試合 KO-Dタッグ選手権試合 60分一本勝負

<王者組>遠藤哲哉&飯野雄貴 vs 潮崎豪&小峠篤司<挑戦者組>

※第82代王者組3度目の防衛戦。

この試合が組まれたのって6/5DDT新宿大会に潮崎が来て挑戦をアピールしたからなんだけど、なんで潮崎が来たかというとその日アンダーカードで小峠が出てて、それは小峠が5月の「LIMIT BREAK」(TEAM NOAH主催興行)で対戦して完敗した秋山準に
「おまえ一つのところだけじゃなくて、いろんなところ出ろ。DDTでもいいし」
みたいなことを言われて、なんとなく『小峠篤司、DDTで武者修行します』みたいな流れになったことが大きい。

要するにこの試合における潮崎は付き添いみたいなもので、本来小峠が中心に来ないといけない。
でもそうはなってなくて、なんとなくぼんやりとした「DDTvsTEAM NOAH対抗戦」みたいになってしまってた。
いや、そんな今の今でこの二団体に「対抗」したい気持ちないだろう…これ小峠の試合のはずだろう。
試合前の時点ですでに歯がゆい、実に小峠な試合。

あらためて見ると、小峠って不思議な選手だ。
38歳、もうすぐデビュー20年。
原田大輔と二人で『桃の青春タッグ』として大阪プロレスからNOAHに移ったあたりは華があったような気がしてたんだけど、いつの間に「ザ・中堅」というところに落ち着いてしまってる。
NOAHで何回かGHCジュニアヘビー級チャンピオンになって、その後ヘビー級に転向したはずなんだけどいつの間にかジュニアに戻っている。
かといってNOAHジュニアの輪の中に入ってる風でもない。

実は『金剛』のスタートアップメンバーだったそうだがわりと初期に脱退したらしく、かといって他のユニットで活躍した印象もない。
2年前にはDDTとNOAHの対抗戦メンバーに選ばれてて、試合前日の記者会見で中嶋勝彦に「やる気あんのかよ!」とビンタされて半失神していた姿が悪目立ちした。
その話で言うと今回の対戦相手に遠藤哲哉が入ってるのも嫌な縁であるが、この場にいない闘魂スタイルの話は置いとくとして、とかく小峠ってどこを目指してるのか、どういうポジションの選手なのか、わかりにくい。
わかるのは「山田邦子に妙に気に入られている」くらいで。

そんなわけで今日も最後はなぜかリング上を潮崎に託された小峠が遠藤に敗戦。うん…ですよね…。
遠藤と飯野が順調にタッグ屋ぽくなってきたのはいいとして、潮崎はどういうメンタルでこの試合に臨んだのだろう。
小峠のことを実際、どう思ってるんだろう。

気がつけば小峠のことばかり考えている。
これが沼というやつだろうか。

○セミファイナル ドラマティック・ドリームマッチ~ノーDQマッチ 30分一本勝負

エル・デスペラード vs クリス・ブルックス

少し前にデスペラードがバックステージコメントやSNSで「戦いたい選手」として他団体の選手を何人か上げたことがあり、その中に佐々木大輔やHAYATAとかYO-HEYといったメンツと並んでクリス・ブルックスも入っていた。
二人はたまにSNSでやりとりしていて、今年6月にはデスペラード主催興行「デスペインビタショナル」にクリスが呼ばれ、そこでクリスから「デスペ、シングルやりましょう」と指名して決まった試合。

この大会直前、デスペラードはこの試合を最後に左ヒザ半月板手術のためしばらく欠場することを発表。
思い残すことがないように、ということなのか大会直前の記者会見でクリスが「ノーDQ(反則裁定なし)でやりたい」と訴えてデスペラードが了承した。 

試合は苛烈なものになった。
プラスチックケースから始まり、ステープラー(乳首はちょっとやめて…)、有刺鉄線ボード、そして裁ちばさみ。
痛々しい攻防が頻発した。
途中でクリスはデスペラードのマスクを剥いでしまい、本来ならここで反則負けだがノーDQということで継続。
顔面を血に染めながら鬼気迫る表情で戦うデスペラードは恐ろしく迫力があった。
最後は凶器ボードへのピンチェロコでデスペラードが勝利。
凄惨な中にも「限界まで戦う」という二人の強い意思が感じられた。

クリスは昨年末に体調不良になり、検査したところ腫瘍が発見され手術、療養した。
幸い経過は良好で今また試合に出てるがクリスは「自分はいつまでプロレスをできるかわからない」と思うようになり、ALIVE という言葉をタトゥーにして掘ったという。
DDTにはがんと闘病中の岡田佑介もいる。
クリスは自分とデスペラードの試合形式で一番盛り上がるのがノーDQ、実質的なハードコアマッチと考えたのだと思うが、そこに「生きる」というメッセージも込められていたような気がする。
メインの上野とMAOとはまた違う角度で二人の友情が感じられた試合だった。

○メインイベント グッドコムアセット presents KO-D無差別級選手権試合 60分一本勝負

<王者>上野勇希 vs MAO<挑戦者>

※第82代王者6度目の防衛戦。

上野28歳、MAO27歳の若い二人がメインを締める2024年の両国大会。
MAOがDDTに入りたいと思ったきっかけは2009年のDDT初めての両国大会を見たことだったという。
当時MAOは12歳。
あの時メインイベントを務めたHARASHIMAは35歳、飯伏幸太は27歳だった。

プロレスは時代とともにフォーマットが変わっていく。
「悪い外国人」を「良い日本人」がやっつける時代から、日本人同士の「遺恨」がリングに持ち込まれる時代があり、スポーツのようにアスリートが競う時代があり、キャラクターとストーリーが厳然とあるプロレスもあり、多様化を迎えて今に至る。
その中でも上野とMAOはまたさらに新しい時代のプロレスに入ったなと、場外からリングに戻る時に互いの手を取って戻る光景を見てて思った。
いいも悪いもなく、それが二人のやりたいプロレスなのだ。

激しい攻防を迎えた終盤になって、突然ピタッと足を止めて、その場飛びドロップキックで相手の顔面を蹴る。
立ち上がると、やられた方がニヤッと笑ってやはりその場飛びドロップキックで相手の顔面を蹴る。
さらにまた同じことを繰り返す。それが何回も繰り返された。
(翌日、エル・デスペラードはこのときの写真を引用して「こんなん鼻なくなる・・・」とつぶやいた)

やってることはちょっとおかしい。
けれどこれが二人のプロレスなんだ、と伝わった。
痛い。おかしい。何の意地の張り合いだ。
ただ、明確に「絶対負けるか」という気持ちは伝わる。
かつて三沢光晴と川田利明、丸藤正道とKENTA、棚橋弘至とオカダ・カズチカがそうだったように「信頼をもとにした潰し合い」がここにもあった。
MAOが子どもの頃に見ていたというみちのくプロレスの選手の技を出せば、上野はこれまで戦ってきた相手の技を出す。
(病気でリングから離れているカーラ・ノワールのブラックホールスリーパーを対戦した上野はずっと使っている)
最後は上野が勝った。
これから長い時間をかけて、この二人は戦っていくんだろう。
いずれそこには正田も入るのかもしれない。

上野が締めて、両国大会恒例の支度部屋で全員が集合するエンディングを迎える。
輪から外れていた竹下を勝俣が招き入れる。
ディーノさんが恥ずかしそうに、照れ臭そうにしていた飯伏さんを連れてくる。
輪の右端に加わった飯伏さんを、後ろに立っていた石川修司が「やっと来たな」みたいな顔で微笑んでいる。
輪の真ん中で上野が高木三四郎入場曲をアカペラで歌い始めると、それに合わせてみんなが合唱し、やがて「DDT!DDT!」コールが始まる。
中央で楽しそうにふざける上野やMAOに合わせて、飯伏さんや竹下も手をたたいている。
かつて、このエンディングの輪の中央にいた人たち。

ああ、俺はこの団体をずっと追っかけてきてよかったなあ、と心から思った。
いろんなことがあって、かつての仲間や同志はいなくなったり、すれ違ったりするけど、またどこかで会うことはできる。同じ空間に収まることはできる。
DDTはそれを見せてくれる。

DDTが両国国技館で大会を打つようになって15年。
小学生が社会人になり、20代はアラフォーになり、30代が50代になろうとしている。出る側も、見てる側も。
自分の歴史と演者の歴史を重ね合わせて、ショーはこれからも続いていく。


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